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就職活動

就職活動


 暗黒な高校時代も人の出会いはある。定年が近い担任のキリギリスのように痩せこけ貧弱な面相の深尾から退学の勧告を受けた、学校に来ない、進学しない、お前の面倒など見られない、さっさと退学しろと言われた。流石の私もそれだけは拒否した。


 辛うじて進級と出席日数は満たしている。もう3学期、あと少しの辛抱だ、ここでおめおめと退学したら、それこそ家計の遣り繰りをして授業料と通学費を工面して呉れた親父とお袋に合わす顔がない。


 挫折感で心が折れそうなかつ無味乾燥な授業でも、好きな科目はあった、それは日本史だ。日本史を受け持つ犬養先生と授業中、何かのことで所見を述べたら、先生いたく気にいってくれて、時々私を指名することがあった。


 そして進学しないが、か、と云って、碌に学校から就職の世話もない私に会社を紹介してくれた、そこは娘さんが勤めている所だった。


 私も色々な所で面接を受けたが、履歴書だけで学校の紹介もない者をそう易々と世間は受け入れてはくれない、世間は甘くない。


 その就職活動で、歯ぎしりと悔し涙を零したことがふたつある。


 ひとつは、緑十字という製薬会社だ、そこで中学時代同じクラスのA君とばったり会った、A君はランクの低い高校に進学していた。


 中学の時の成績は私の方が上で、だからこんな体たらくにもなっているが、相手は格下だと心の中で見下していたが、そのA君が受かったことを後で知った。これにはまたしても心が折れた。


 ふたつ目は、お袋の直ぐ下に通称雁道のおばさんがいる、雁道のおばさんの旦那さんは日本碍子に勤める課長さんだった。


 愛知県でも有数な進学校の生徒であることは承知しているので、ある時就職の世話をしたいので、成績表を見せてくれと言われた。雁道の家を訪ね成績表を見せたら、出席日数のことを聞かれた。


 一目瞭然、成績も良くないが、それより欠席日が多いことを懸念してのことだった。そして、これも敢え無く沈没、私も後悔した、人前で恥をかいたが、何よりも親父とお袋に恥をかかせた。


 雁道のおばさんは姉であるお袋を少し見下していた、自分の夫は大企業の課長、それに比べ姉の旦那は清掃員、子供は男の子二人、女の子二人いるが、男の子二人は、二人とも低レベルの高校で、姉の子は有数な進学校だ、妬みもあった、しかし蓋を開けてみればこの程度、さぞかし溜飲が下がっただろう。


 しかし、灰色の高校生活も終わり、私も親父もお袋もほっとした。親父は会社員となる私に大喜び、故郷を飛び出し、辛い労働の日々、貧しい暮らしの中でやっと息子が晴れて会社員になった、俺の苦労もやっと実を結んだと。


 だが、この半年後親父は奈落の底に突き落とされた、否裏切られた。


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