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もうこれは警備員の仕事ではありません

 さる大手電池工場のパート警備員として、早10年を迎えるこの4月のある土曜日午後、社員から電話を受けた、電話の内容は訃報。

 土、日曜に社員に不幸が発生した場合は、総務に代わり事情をお聞きし、その事情に応じて弔電及び供花を手配する。通夜、告別式に余裕があれば、月曜日に総務に連絡するよう促すが、土曜日に受け、告別式が火曜日であれば弔電や供花が間に合わないので、警備員がパソコンを操作し弔電を申込み、花屋さんにファクスを送信し供花を依頼する。

 しかし、この訃報対応基準は一律ではない。幹部社員と平社員では、弔電を打つ本数が違う。幹部社員には、社長、管理部長、直属の上司から、平社員は社長だけ。

また、義父母と同居しているかどうかで異なる。同居ならば、供花をおくるが、でなければ弔電だけ。また本社から出向している社員は、その本社にそれを連絡したかを確認することも求められる。

 この対応の内容はA4用紙2枚に脈絡のない文章だったので、それでは適切な対応は無理と判断し、私はエクセルで7項目に分類しマニュアル化した。これは、逆に総務もそれを使っている。

 聞き取り用紙があるので、それに従って聞くと社員コードがMMで始まっている、本社からの出向者ですかと聞いた、ここはTMから始まるので。するとS時代からの社員でM製作所の社員(SはM製作所に電池事業部を移譲した)になったが、今はここTMの社員だ、と。

 分かりました、とすればTM製作所の訃報基準にそって対応させて頂きますとそう返事をして処理を進めた。そして1週間後の土曜日、その方から電話があった。社内連絡はどのようなっているか、との問い合わせだった。

 社内連絡は、当然してありますと返答する。と、その方が言うには、不幸があったけど知らなかった、という本社からみの職場からの問い合わせ内容だと。

 今日コロナ禍の影響もあり、大概は身内だけで葬儀を行い参列もお断りしている。その方も参列、香典は辞退するとの申し出でがあったので、そのように書面に記載した。

 自宅で寛いでいる夕方、隊長から電話が来た。内容は本社からの出向者の場合、本人に本社にもそのことを連絡するように促したか、と。

 私は、当然それは聞いた、と冒頭のやりとりになるのだが、どうもその方にとって休んでいる期間中、かかってくる電話が迷惑だったようで、それを総務に問い合わせたようだ。

 つまりこうだ、総務にはそれが担当の若い社員がいるが、彼がその方の意向も聞かず、機械的に本社に連絡したことがこの騒ぎとなった。

 

 しかし、その方のクレームを聞いた若い社員は逆ギレし、今後は出向者にそれを更に強く促すとともに、本社警備員にも連絡してくれと。

 だが、これは出来ない相談だ。第一に警備会社は請負契約だから予め決めたことを実行する、契約期間中に当初の勤務内容と大きく異なる、外れる内容は付帯業務としその責任は問われないのが原則、またそれは覚書として相互に書面を交わす。今回その若手社員の唐突な申し入れも到底受理できない内容だ。

それと、この訃報対応は警備を受ける際、受けるかどうか大きな問題となっていた。それは、当然ながら警備業務の範疇に入らないからだ、また社員の不幸に関わる問題は神経を使う、対応が間違ったら、間違って済みません、と謝って済むものではない。

 また電話で受けるので、葬儀場所住所、喪主の氏名を聞きとるにはそれ相応の知識が求められる。地方になると複雑な地名もあり、若い社員は昨今の漢字離れで、それはどういう漢字ですかと聞くと返答に詰まることがある。

 葬儀場所は主に葬儀場で行われるが、自宅やお寺のときもあるので、慎重さが求められる。

しかし、警備先から強く求められると受けざるを得ないのも実情だ。だが受けるにしても、極簡単にしておく必要がある、先ほど述べたように受ける側の警備員もそれなりの知識が必要だ。だが警備員の知識レベルが低いことは警備会社も世間も衆知している。

 優秀な人材が欲しいが、警備会社は給料が安い、夜勤で拘束時間が多く、しかも残業しなければ食べていけないでは、折角入ってくれた若い人も辞めてしまう。30代で結婚していれば尚更離職率が高い。

待遇改善には警備料金を上げて貰わなければならないが、これが容易ではない。他契約先は事情を汲んで値上げに応じてくれたが、このTM製作所の警備実務担当者は何かと屁理屈を並べ頑として応じない。その間にも、アルコールチェックや車両の油漏れの確認、携帯電話の持ち込み確認、自転車通勤者のヘルメット装着確認及び口頭注意等、当初警備内容と異なる付帯業務が年々増えるばかり。

 少し話はそれたが、第二にこの出向者への本社への促しはM製作所の内部事情、だからこそそれを整然と実施する部署と担当者が存在する。今回も綿密な対応が欠けていたことに発するもので、その責任を警備に転嫁することは的が外れている。

 第三に、M本社の警備員は他警備会社だ。この内容、事情が正確に伝わるかどうかは疑問の余地がある。ましてや今回のように、本人が欲していない場合もある。その心理的な部分までカバーすることは常人であっても難しい、ましてや警備員には荷が重い。


 だがいつものように強要してくる警備実務担当者とその厚顔無恥な若手社員、これにどう対応するか。このような問題を支社の警備課長に投げても、返答は、黙ってやれ、の一点張り。警備課長、貴方それでも課長ですか、と事の重大さを認識していないことに呆然とする。

 また、この訃報対応の他にロッカーキー作成、返却処理及びロッカーキー紛失による発注業務もある。ロッカーキー作成、返却処理は毎年1000件を超し、都度ロッカー清掃も実施する、もうこうなると清掃員も兼ねている。

 警備業務を遂行する書面も、何か事があれば都度変更される、警備の承諾もなしに。もはやこうなると、請負業ではなく派遣業。

 警備会社が何故派遣という言葉を嫌うのか。それは警備実務に際しては警備会社のノウハウで実施されるからだ。これが厳密に運用されなければ、警備会社としての存在価値がない。

 タイトルのように、本来の警備業務と大きく外れた内容を強要する警備先に

声高にそう叫びたい。


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