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酢味噌和え

叫び


 子を慈しみ、夫婦の絆を強める為に重ねる年月も、何時しか相手を思いやる気持が薄れることもあるだろう。夫婦の気持ちが離れる要因が生活苦と思いたくないが、やはり経済的に豊かで有ることが家庭生活を円満に維持して行く上で、欠かせない条件だろう。


 一所懸命に働いても、庶民の暮らしは知れたもの。2合の焼酎を飲むのが、唯一の親父の楽しみも、ふとした夫婦の会話の中で、夫を咎める意味で言ったのではないが、夫にとっては、自分の不甲斐なさを責めていると感じたとき、その怒りが尤も愛した妻に向けられることがあるだろう。


 高校1年の時、ビール瓶を取り上げると、いきなりお袋を殴った。忽ち、お袋の頭頂部から、血が吹き出る。タオルで抑えるが、治まる様子は無い。お袋を自転車に乗せ病院に、処置を受けたら幸いに裂傷だけで、傷口を縫うだけで済んだ。医者から、事情を聞かれるが、口こもっている私を見て、先生は事情を察して呉れた。

 

 好きで一緒になった男と、九州迄行った、血が通わぬ子を引きとり立派に育てた、手を挙げるべき相手は、私ではなく、厚顔無恥な国でしょ。男なら、叫びなさいよ、働いて、働いて、その怒りの果てが、女房か、と。




酢味噌和え


 捕鯨が盛んな時代、鯨肉は庶民の味方。ブロック毎買って、刺身や竜田揚げにして食べる。親父は元魚屋、包丁捌きはお手の物、鯨の刺身は絶品で、わさび醤油で食べるとこれが本当に美味い。酢味噌和えも上手だ、烏賊、ネギ、味噌、酢のバランスが絶妙で、私の大好物。


 高校1年、柔道の練習を終えて帰宅したら、親父がその酢味噌和えを作っている。お馴染のすり鉢で混ぜ合わせているが、菜箸ではなく、節くれだった指と油染みた手のひらで捏ねていたので、私は、思わず、汚いなあと言った。


 それから、酢味噌和えと縁が切れた。




カレーライス


 北原町に引っ越しても、友達が直ぐ出来る訳でもない。仕方無く一人遊びしているが、町内には必ずボスが居る。そのボスに目を付けられた。中学3年のボスは、小学3年から見て巨人だ、彼から声を掛けられたら、魂まで奪い取られるような気がする。


 家を出た途端ボスに会った、何故此処で、その日親父は家に居た、二階から、ボスに声を掛けた、ご飯食べないか、その声に誘われて、ボスが入って来た。その日は、カレーライスだ、今思うと、肉が少なく、何故かカレー粉の黄色の色だけ目立つようなカレーだった。親父は、皿にご飯をたっぷり盛り、カレーも山盛り、ボスに差し出した。ボスは美味しそうに食べ、有難う御座いました、と、丁寧に礼を言った。


 それから、私はボスの目を気にしなくて良くなった。専ら、彼は、就職で、町内を出て行ったから、一時の不安だけだったかもしれないが、親父の振る舞いが粋に見えた。 


 男の方が女性に比べ一般的に力が強い、だから何があってもそれを振るってはならない。世の中の不合理は仕方がない、人類の歴史は正にその不合理で成立している、だからこそ自分が好きになった女性、愛した女性を守るのが男の使命、甲斐性だと思う。それが嫌なら、出来ないなら男はやめなさい、そう、いつもそう思って生きてきたけど、奥さんはどう思っているか分からない。

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