入道雲
霜月透子様のナツコイ企画に参加しています。
「ねぇ、なんで入道雲と呼ぶのかなぁ?」
サンダルに挟まった砂を気にしている風に足先をぶらぶらさせながら、私はバランスを崩して誠の腕を掴んだ。
「さあね、でもあの雲は入道らしく見えるよ」
誠が指差す方向には真っ青な空にむくむくと海から立ち上がった真っ白な入道雲が湧き上がっていた。
「そうね! 確かに、あれは入道雲だわ」
いつもより少しだけ高い声で同意する。入道雲のことなんて、別に話したい訳ではない。それに、腕に掴んだままなのは、砂浜をサンダルで歩くのが難しい訳でもない。
「ほら、あの入道雲はきっと宇宙まで届く。積乱雲は成層圏まで成長するものもあるんだ」
理科の時間に習った積乱雲の話をしだした誠には私の気持ちが伝わらないのか? 海開き前の浜辺にわざわざ来たのに、入道雲の話ばかりだ。自分から沈黙が怖くて目に付いた入道雲を話題にしたが、延々と積乱雲の説明を聞かされるとは思ってもみなかった。
「下から眺めると大きな雲の塊に見えるけど、実は小さな雲が集合してできているんだ。そして、その中の小さな雲はできて三十分ぐらいで消えてしまうんだってさ」
「へぇ、そうなんだ」
この恋も三十分で消えてしまうかもしれないと、私は愛想笑いしながら頷いた。
「もう帰ろうか?」
見込みなさそうなのでバス停に向かおうとしたら、誠ときたら急に私の肩に手を置いて、真剣な顔をする。
「絢香ちゃん、前から好きだったんだ」
そんなマジな告白! どうしたら良いの? 心臓がバクバクしちゃうよ。
こんな時はどう答えるのが正解なのかな? なんて、頭をフル回転させていると、入道雲がやってくれました。
「わぁ! 凄い雨だ! 絢香、あっちで雨宿りするぞ」
いつから呼び捨てになったんだよ! なんて自分で突っ込みながら、誠の手に引っ張られてバスの停留所まで走る。
無事に停留所に着き、ザァザァ降り続ける雨を並んで見ている二人に沈黙が舞い降りる。
「ええっと、付き合ってくれない?」
『ええっと』なんて、格好悪い! でも「良いよ」と正直に答えとく。
「やったぁ!」
「誠ったら、子どもみたい」
雨の中ではしゃいでる誠をバス停に呼び戻し、ハンカチを差し出す。
「風邪ひいちゃうよ」
「ありがとう」
これから夏休みなのに風邪なんかひかれたら、一緒に遊べないじゃん。
高校一年の夏、初めて彼ができました!
お終い