俺は不良の舎弟
俺の名は神代 祐助。都内の高校に通い、真面目な高校生活を送っていた。だがある時、その生活は一変した。
ある夏の日の事。
授業がかったるくて受けたく無かった俺は、屋上へとやって来た。
そこには先客がいた。
そいつは背中まで伸びた金色の長髪にアホ毛が生えたつり目の少女。服装はドクロマークが背中に描かれたTシャツにジーンズ。不良、如何程って感じのその少女が、フェンス前に設置された椅子に横に成って寝ていた。
俺はその少女に近付いた。可愛い、じゃなくて!
「起きろ」
その言葉に少女はうっすらと目を開けた。
「誰だテメエ、何か用か?」
「あ、いや、座ろうと思ったんだ」
彼女は起き上がると、
「テメエもサボりか?」
「ああ、まあな」と俺は座った。
「俺は神代 祐助。君は?」
「成瀬 京香だ」
京香はそう言って懐から煙草とライターを出し、一本口に銜えて火を点けて吸う。
「あ、あのさ君、未成年……だよね?」
「何か文句あんのか?」と俺を睨む京香。
「否、別に……」
こいつマジで不良だ。関わらない様にしよう。
「所で君何年生?」
うわぁ、何言ってんだよ俺。関わらないんじゃなかったのか?
「……3年だ」
「へぇ〜、じゃあ俺と同じ学年だ。俺A組」
「B」
「よくサボるの?」
「毎日サボってる」
「ふうん」
俺は素っ気ない返事を返すと、背もたれに寄っ掛かって目を瞑った。
頬の一点が熱くなった。
俺が薄目を開いて顧みると、京香が俺の頬に煙草の火を当てがっていた。
「何してんだよテメエ!?」
「ん? いや、良い気持ちで寝てたから悪戯を」
「寝てねえよ! つうか火傷したらどうしてくれんだ!?」
言って俺は京香を睨んだ。
「知らねえ」
「知らねえじゃねえよ!」
熱く成った俺は京香の頬をグーで一発殴った。
「なっ、テメエ今何した!?」
そう言って逆上した京香が俺の胸倉を掴んだ。
「今私の頬を殴ったよな?」
「ごっ、ゴメン! ついカッと成って!」
「ゴメンじゃねえよ!」
京香は胸倉を掴んだまま立ち上がり、俺の顔面をもう片方の手で殴って吹っ飛ばした。
俺は宙を舞い、コンクリに叩き付けられて数回転がった。
「私の顔に傷が付いたらどうしてくれんだ!?」
言って京香は上履きを履いたまま俺の腹を思いっ切り蹴った。
「うっ!」
呻く俺。
「だからゴメッ──」
俺の顔に上履きのまま足を乗せる京香。
ブチッ!──俺の中で何かが切れた。
「おい!」
「ああ?」
「その汚え足を退けろ」
京香は足を徐に上げ、一気に下ろした。
俺は既の所でかわして立ち上がった。
って、あれ? 京香がいない……。
刹那、背後に人の気配を感じた。
俺は咄嗟に振り向いた。その先には京香が殺気を漂わせながら立っていた。
俺は素早く飛び退いて構えた。
「俺とやろうってのか?」
「ああ、テメエは私を殴ったからな」
「そうか。なら最初に言っておく! 俺は、かーなーり、強い!」
「テメエの様な軟弱そうな奴に私が負ける筈が無い」
そう言うと一瞬、京香が視界から消え、眼前に現れて回し蹴りを放った。
俺は吹っ飛んでフェンスに激突してコンクリに落下した。
バカな!? クラスでは一度も喧嘩に負けた事無えのに! 上には上がいるって事か。
「お前、神代って言ったな。私の舎弟に成れ」
京香は俺の下に来るとそう言った。
「舎弟だと!? 冗談じゃねえ! 誰が不良の舎弟に成──」
京香は俺の頭を思いっ切り踏み付けてグリグリと回転させた。
「もう一度言おう。私の舎弟に成れ」
クソー、選択肢は無えのか。
俺は仕方無く「よ、喜んで舎弟に成ります」と造り笑顔で言った。
京香は足を退けてしゃがんだ。
「ようし、今からお前は私の舎弟だ。私の事は京香様と呼べ」
「……………………」
俺が無言を返答にすると「返事しろ!」と京香に頭を殴られた。
「はっ、はい! 京香様!」
こうして俺は、真面目な高校生から不良高校生の舎弟へと成り下がった。