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9,遺跡街

今回はちょっと長めです。

 俺達の乗った幌馬車はガタゴト揺れながら荒地を突き進む。


 二日半の道程で俺達はロスマリンと打ち解け仲良くなった。


「ハッハッハ!」


 ゲシゲシ!


「ハハハハ!」


 ゲシゲシ!


 「またお前らは……」


 俺とアルサートも隙あらば互いの足を踏み合う程の仲になっていた。 この野郎、段々俺に遠慮しなくなってきやがった。


 それを呆れて見ているレイヤ。


 ただ、レイヤは呆れるだけで仲裁はしない。 本人曰く、”めんどくさい”だそうだ。


「そろそろ街に着く頃だ。 遊んでないで降りる準備をしておけ」


 もうそんな時間か。 しかし、俺には荷物は無い!


 この世界に転生してから一ヶ月。 色々あって下着すら手に入れていない。 なので俺は今、手ぶらだ。


 一応、アロイ先生経由で王家から貰った金貨十八枚を料金箱に入れている表示板000,000,018には。


 これだけあれば一年は十分生活できるのだという。


 しかし、何気に便利だな料金箱。 これに入れておけば盗まれる心配が無いのだから。


 ちなみに料金箱に入れた金貨は返金釦で払い戻しができる。


「あ! 街が見えてきましたよ!」


 ロスマリンが幌が開いている前方の出入り口の方を見て知らせてくれる。


 俺も視線をそちらに向ける。


「壁?」


 見えたもの。 それは聳え立つ巨大な壁だった。


「話には聞いてたけど、実際、間近で見ると圧巻だね」


「何で街にあんなデカイ壁が在るんだ?」


「元々は妖精族が築いた城壁で邪神の力で国を消滅させらてもあれだけは残ったらしいよ」


 アルサートが俺の疑問に答えてくれた。


「しかし、デカイな。 高さは10m位か?」


「確かそれくらいだった筈。 街の出入り口は一箇所だけで半年に七日間だけ門が開くんだ。 それが今なんだけどね」


「えっ!? それって流通的に拙くないか?」


「仕方がないんだよ。 まだ門の仕組みが解明されてないから自由に開閉できないんだ。 偉い学者さん達の話では門の開閉は何らかの設定がなされているんだろうっていう話しだよ。 それに生鮮食品以外はモンスターからドロップする物で賄えるし。」


「生鮮食品は自分達で育てればいいだろ」


「そうもいかないよ。 見てごらん、この荒れた大地。 此処等辺一帯、邪神の力の影響で作物が育たないんだよ」


 確かに。 こんな固くて栄養がなさそうな土地じゃあ植物は育たないか……。 現に雑草もあんまり生えてない。


「だから半年に一度、開門の日に出来るだけ生鮮食品や街で賄えない物を溜め込んで置くんだよ。 幸い、保存する為の道具やフォースが在るからね」


 物知りなアルサートと喋っていると門が見えてきた。

 

「おや? 小屋がある」


 街壁の外側には馬小屋を供えた小屋が建っていた。


「あれは門が閉まっている間の連絡用としての小屋だよ。 あの小屋の中に転送用の道具があって、それを使って遣り取りをするんだ」


「だったら、それを使って食料を転送すれば……」


 アルサートが”君、馬鹿なの?”と言いたそうな視線を向けて話す。


 この野郎、ホントに遠慮がなくなったな……。


「そんなの、とっくの昔に試したさ。 でもね、そしたらそれらがカラッカラに干からびて出てきたんだ。 しかも豚なんか何百年も経ったミイラみたいになって出てきたって話しだよ。 無事だったのは腐らない酒類や剣や羊皮紙位だったらしいんだ」


 そりゃあ確かに使えんな。 でも、熟成には使えそう。 馬鹿にされるだろうから言わないけど。


 そんなこんなと話していたら馬車が門を通過した。


 其処で馬車から降ろされ門の近くの建物に入れと役人に言われた。


 先ずは此処で簡単な身辺調査や身分証明を行うらしい。


 レイヤが近くの受付の人に何やら手紙を渡す。 後で聞いたら身分証だと言われた。


「アンタら先生のとこの客人カ。 話は聞いてるネ。 先生呼んでくるヨ」


 妙な訛りがある喋り方だなと思って眼鏡を掛けた受付の人の顔(整い過ぎてもはや一種の芸術品の様な茶髪の少女)を見たら耳が異様に長かった。


「ん? 坊、エルフが珍しいカ? 外で妖精族の奴隷見た事無いのカ? 何処の田舎出身ネ?」


 おお、ファンタジーの定番! 薄い本の主役! エルフ! エルフですよ!


 ちょっと興奮気味に見てたらエルフさんに引かれた。


「ぼ、坊、何興奮してるね! お姉さんの身体は売り物じゃないヨ!」


  ああ、かなり警戒させてしまった。


  ええい! なら、これだ!


「俺、お姉さんの様な綺麗な人、初めて見たから見惚れちゃったんだ……。 ごめんなさい」


「そ、そうカ! ワタシそんなに綺麗かネ! もっと話しをしてあげたいケド、ワタシ、今、忙しい。 でも、一週間したら暇になるからその時、お姉さんの雑貨屋に来ると良いネ!」


 と言って、奥の部屋に入っていった。


 よっしゃあ! 秘儀”猫被りの術”成功! フッ! ちょろいぜ……。


 何だよ? レイヤにアルサート。 その嫌なものを見た様な顔は。


「マサキさん……」


 俺の名を呟く声が聞こえた方に視線を向けると、ちょっと悲しそうな顔のロスマリンが居た。


 遣っちまったぜ!


「あ、いや! ロスマリンはとっても可愛いよ!」


「!? も、もうっ! マサキさんたら……」


 ロスマリンは照れて真っ赤になった顔を誤魔化す様に俯いた。


 あ、危なかった。 何とか誤魔化せたな。 こんな良い娘に嫌われたら立ち直れないぜ。


「チッ!」


 アルサートから舌打ちが聞こえたが敢えて無視した。


暫くして奥から顔に丸眼鏡を掛て無精髭を生やし、ブロンドの髪をボサボサにした青年が受付のお姉さんを伴って現れた。

 

「あなた方が……そうですか。 私はシュタイン・ハインツ。 この街の代官代理で普段は魔法王国や発掘場を研究しています」


「本郷 正輝です。 これからお世話になります」


 俺は軽く自己紹介する。


「僕は彼の護衛の騎士でアルサート・コウエルといいます」


「同じく、レイヤ・マスキアです」


 二人とも敬礼して名を名乗る。


「此方こそ」


 シュタインさんも軽く挨拶を返す。


「すみませんが今はちょっと手を離せなくて……ですので彼に街を案内して貰って下さい」


 彼? 誰だ? と思った瞬間、後ろから大きな影が射す。


「きゃ!」


 ロスマリンはビックリして悲鳴を上げた。


 振り向くと巨大な大剣を背負った中年の大男が其処に立っていた。


「おっと、すまん! 驚かせちまったな。 許してくれ嬢ちゃん」


 男は済まなそうな顔をしてロスマリンに謝った。


「俺の名はバルデス。 この街で探求者をしている。 宜しくな」


「あっ、俺は――」


 俺が自己紹介しようとしてバルデスさんが手で制した。


「自己紹介ならいい。 さっき、後ろで聞いてた。 街を案内してやる。 付いて来い。 ついでに其処の嬢ちゃんも案内してやる。 さっき驚かせたお詫びだ」


「わざわざ有難う御座います」


「いいって。 先ずは手続き済ませてこい。 案内はそれからだ」




☆☆☆☆☆☆




 バルデスさんはその風貌に似合わずとても親切だった。


「此処がさっきのエルフ――ユイファの雑貨屋だ。 必要な生活用品を売ってる。 その隣が酒場だ。 探求者に仕事も斡旋している。 マスターはゲインっていうおっさんだ。 ちょっと挨拶して行くか」


 バルデスさんが酒場のドアを開け、酒場に入るとプ~ンと鼻に突くアルコール臭が漂っていた。


 中ではまだ朝だと言うのに野郎共が酒を酌み交わし、酔っ払っている。


 テーブルで一人で飲んでる酔っ払いのおっさんがバルデスさんに声を掛けた。


「バルデスの旦那! そっちの餓鬼共は新人かい? 態々、新人教育とはご苦労なこったな!」


 バルデスさんは挨拶代わりに手を軽く上げて答えた。


 その間にもズンズン先へと進んで行く。


 奥にはカウンターが在り、白髪の年配のおっさんが木製のコップを磨いていた。


「よう! バルデス、何か用か?」


 白髪のおっさんは磨いているコップを磨きながら陽気に話しかけてきた。


「ああ、新人を連れてきた。 今日からシュタインの所に居候する奴らだ」


「ほう? じゃあ、例の奴か?」


「ああ、そうだ」


 何か意味深な遣り取りしてるぞ。 何だ?


「ふむ、そうか……。 俺はゲイン。 この酒場のマスター兼探求者の仕事の仲介人だ。 仕事が欲しけりゃ、此処に来な。 俺がお前等にぴったりの仕事を紹介してやる」


 俺達も挨拶して此処での用事は済んだ。


 酒場に出ると今度は近くの建物を指差す。


「んで、この建物が食堂だ。 エルフの母娘が遣っている。 後、食材なんかも取り扱ってる。 飯が食いたきゃあ此処で食え。 ただ、今は半年に一度の開門日だから仕入れで留守中だ」


 食堂の近くにある井戸で水を汲んでいた褐色の肌でダークグレーの髪を持つ美女がこちに気づいてバルデスさんに声を掛ける。


 ちなみにこの人の耳も長かった。


「あら? バルデスさん、こんにちは。 新人さんを案内してらっしゃるんですか?」


「ああ、そうだ」


 褐色の美女が俺達に挨拶してくれる。


「わたくし、ディーナと申します。 其処の建物で薬師を営んでおりますので、具合が悪くなった時には遠慮なく来て下さいませ。 それでは、失礼します」


 ディーナさんは物腰柔らかで丁寧な挨拶をすると自分の家へと帰って行った。


「ディーナは見ての通りダークエルフだ。 薬師としての腕は多分、この国で一番だろう。 診察代も格安で診てくれる。 後は武具屋だな。 店はこっちにある」


 そう言って、街の壁の所まで遣って来る。


 その建物は三階建てで壁にぴったり張り付いていた。


 ベランダには物干台が在り、洗濯物が干されている。


 遠目では分からなかったが近づくとそれはどうも女性物の下着の様だ。


 ロスマリンがそれに気づいて慌てて俺の目を両手で塞ぐ。


「マサキさんは見てはいけません!」


「うわっと! なに! 何で!」


「お前等、じゃれてないで中に入るぞ」


「「はい!」」

 

 俺は両目をロスマリンに両目を塞がれたまま建物の中に進む。


 そうすると密着している頭に胸が当たるわけで……。


 ロスマリン、結構な物をお持ちで。


「も、もう中に入ったんだからいいだろ、ロスマリン」


 俺は心の内を読まれる前にロスマリンの手を振り解いて離れる。


「あっ! はい、そうですね!」


 ロスマリンは俺から離れた。


「もういいの? 面白かったのに」


「そういう風に人をからかわないの!」


 声がしたほうを見ると二人の少女が此方を面白そうに見ていた。


「こいつ等が探求者の武器や防具を作ってくれるシャロンとコリンだ」


「ども! コリンだよ!」


「シャルンよ。 宜しく」


 彼女達に次いで俺達も各々自己紹介した。


 二人とも背が低く、大人の半分位の背丈しかない。


 その代わり胸が異様にデカイ! 体格に合わないデカさだ!


「コイツ等は双子の姉妹でハーフリングだ。 姉のシャルンが武器を、妹のコリンが防具を作ってる」


 二人共に髪は亜麻色で、髪型は姉のシャルンがポニーテル、妹のコリンがツインテールだ。


「ホントは彫金や装飾が専門なんだけど、この街じゃ需要があんまり無いから食べていくのに仕方なくね」


「それにね。 その手の物が得意なドワーフは皆、国に取られちゃったからこの街で武具が満足に作れるの私達だけなのよね」


 コリン、シャルンが事情を語る。


 二人共苦労してんだな。


 ……それにしても、やっぱりデカイ!


 ついつい胸に目が向いてしまう。


「どうしたのかな、君? 顔が赤いよ」


「何でもないです!」


 俺は慌てて胸から視線を逸らす。 だが、その先にはコリンの胸があった。


「んふふ♡ これが気になる? 私達ハーフリングの女は背が低い代わりに胸が凄く発達するの」


 コリンは見せ付ける様に態と腕を胸の下で組んで胸を盛り上げる。


 大きい胸が更に大きく見える! こりゃたまらん!


 ゴン!


「いたっ!」


 シャルンがコリンの頭頂に拳骨を落とす。


「こ~ら! マサキ少年をからかうんじゃないよ、コリン!」


 シャルンがコリンを止めてくれたので事なきを得た。


 危うく愚息が起っきしちゃうとこだったよ!


「さて、用事も終わったし行くか」


「「また来てね~♡」」


 店の外に出ると一端来た道を引き返し、酒場と食堂の前に戻る。


「忠告しておくが中央から奥の方には余り行くなよ」


「どうしてですか?」


「そっから先は妖精族の居住エリアだからだ。 あいつらの大半は俺達人間を恨んでるからな」


 レイヤにアルサート、ロスマリンは納得して頷いた。


 俺には事情がさっぱり分からん。


 なのでバルデスさんに質問する。


「お前は知らなくて当然か……。 いいか? あいつら妖精族の国はフォースを暴走させて邪神を復活させちまった。 だから二度とそんな事が起きない様、人間族が妖精族の生き残りを管理する事を決めた。 そしてこの街を作り閉じ込め、もし外に居ようものなら奴隷として売り物にしても良いって、お偉いさんが決めちまったのさ。 自分達の自由と尊厳を奪った人間族を恨まないはず無いだろ?」


 なるほど。 そういう訳か。


「まあ、春を買いたいなら別だがな」


 バルデスさんは俺とアルサートを見てニヤリと笑った。


 レイヤとロスマリンに向けられた視線が突き刺さって痛いです。


 バルデスさん! 余計なこと言わないで!


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