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7,出向という名の左遷

 あれから俺の噂が広まり他の召還者達の俺に対する態度は絡むか無視するかもしくは同情して助けてくれかの三つだ。


 ただし、三つ目はかなり人数が限定される。


 その中でもリーの奴は韓国人のパク・チョンユンと北朝鮮人のキム・ウホが一緒になって俺に絡むというより――


「あの貯金箱野朗! 何処行きやがった!」


「ちょこまかと器用に逃げ回りやがって!」


「絶対にぶっ殺す!」


 と、こんな感じになっていた。


 ちなみにぶっ殺すとは比喩ではなくマジだ。


 リーの奴の俺に対するイジメが日に日に酷くなっていった。


 その中でも許せないのが食事中にリーの奴が俺の目の前で食べ掛けの食事に馬場から持ってきた馬糞を投入した事だ。


 ランディーさん、ネリーナさんがリーに注意してくれたがそれだけでは俺の気が治まらなかった。


 なので、ある時ぶち切れてしまい食堂の隅っこで残飯を漁る黒いあん畜生を潰して食事の時、リーのスープに混ぜてやったぜ。


 しかし佐久間の野郎に《真偽眼》で気ずかれてしまい、その上俺の仕業とバレてしまった。


 それ以来、俺の命懸けの追い駆けっこが始まった。


 身体能力の低さをカバーする為に子供に戻ったこの身体を生かして奴らが通れない狭い隙間を選んで逃げまくった。


 ただ、それからというもの俺の部屋に奴らが張り付いて戻れなくなったので城の中を彼方此方移動しながらの生活を送っていた。


 何処かに良い隠れ家は無いものだろうか?




☆☆☆☆☆☆


 


――城の会議室


 王と重鎮達が一堂に会するその場所に以前は居なかったフォースの使い手であり王家の教育係のアロイ・マスクウェルトとアーガス国の最大戦力である騎士団を束ねる中年の厳つい顔つきに逞しい体躯を持つ騎士団長ドルフ・アビダスが加わった。


 現在の重要課題は召還者達の戦力化である。


 召還者の武術訓練を統括する騎士団長が王と重鎮達に報告を行っていた。


「勇者達の身体能力は精鋭の騎士よりも高いですが戦闘技術は遺跡街の探索者以下であります。 神の恩寵であるギフトを賜っているので一騎当千の働きをする者も中には居りますが……やはり現状では邪神所かその眷属相手ですら厳しいかと思われます」


 王と重鎮達は溜息を吐く。


今現在邪神の侵攻は止まっている。 恐らく別の大陸の国々を攻めているのだろう。 此方としては助かるがまた何時攻め寄せてくるか分からない。 その前に戦力を整えておきたいのだ。


 王が騎士団長ドルフに尋ねる。


「で? 勇者達を戦力として投入できるのは何時ぐらいになる?」


「少なくとも半年は掛かるかと……」


 重鎮達が声を荒げて言いたい放題発言する。


「それでは遅すぎる! もっと早くできんのか!」


「ギフトを持っていても所詮は素人の集まり。 そうそう思い通りにいきますまい」


「しかし! いつ何時邪神がせめてくるのかわからぬのだぞ!」


「我等に残されている刻は少ない」


「戦力が疲弊し徴集した遺跡街の探求者や奴隷共も少なくなった。 せめてバルデスを呼び寄せる事が出来れば……」


「皆の者静まれ! まだ報告の途中である。 アロイ教授報告を」


 宰相が騒がしい重鎮達を制止、次に召還者達のフォースの指導兼教育係のアロイ教授が報告を行う。


「勇者達は一般常識を身につけていましたのでその辺の教育ほ省くことが出来ましたのでフォースの指導を重点的に行っております。 彼等は高いフォースの適正を有しているのでそれ程時間を掛けずに何れは使いこなせるでしょう。 しかし、それには此方も時間が掛かるのは同じ。 せめて三カ月は刻を頂きたい」


「三ヶ月……であるか。 正直、それまで邪神が此方に向かってこない保証は無い。 せめて坊主共がしっかり働いてくれれば時間がかせがるのだがな」


 王が愚痴を零す。


 この世界では死者を生き返らす術がある。 正し五体満足で状態の良い死者に限る等制限はあるが。 その術は神殿や教会が秘中の秘としているので一般には出まわらない。 よって神殿や教会の一部能力に足る者にしか使えないのだが、それを良い事に決して少なくない金品を要求してくるのだ。


 財務大臣が流れ出る汗をハンカチで拭いながら王に発言する。


「奴らの強欲の所為で国庫の負担はかなりのものであります。 この非常時ですのでせめてもう半分位額を減らしてくれれば良いものを教皇は首を縦に振りませぬ」


 既に何度も値切り交渉を行っているのだが頑なにそれを拒み続けているのだ。


 彼等の主張は国が救わない貧しい者や奴隷達を助けるのに必要であるからと言うものだった。


「邪神の目が此方に向かぬのを祈るばかりですな……」


 宰相がそう締めくくる。


 会議は終わり、と皆が思って席を立ち去ろうとした所、アロイがそれを制止する。


「お待ち下さい。 まだ、話は終わってはおりませぬ」


「ん? 他に何かあるのかアロイよ?」


「一つ問題がございます。 一部勇者達の間で不和が生じています。 それについて御相談したい儀が御座います」


「あの事か……」


 王は苦い顔をする。


 正輝やリー達の騒動は王達の耳にも届いている。 というか目の当たりにしている。 だが相手はギフト持ち。 如何に制約の腕輪を身に着けさせているとはいえそれを頻繁に発動させれだ他の召還者達が不満を持ち下手をしたら此方にまで火の粉が掛かる可能性がある。 なので何も対処せず傍観を決め込んでいるのだ。


「リー殿は強力なギフト《砕斬(さいざん)》を持っておりその為、正輝殿を擁護する方達も手が出せず注意するに留まっております。 リー殿はまだ使いこなせていないので使用しておりませぬが、もし使いこなせるようになれば、正輝殿を死に至らしめる可能性があります。 そうなれば少なからず他の勇者殿達が動揺し、悪影響が出ぬとも限りませぬ」


「それで? どうしたいのだ?」


「正輝殿を遺跡街に派遣という名目で他の勇者達から離すというのではどうでしょうか? 聞けば正輝殿のギフトは金貨一億枚が必要との事。 流石にこの国でもそんな法外な金額を工面するのは容易では御座いません。 しかし、あの街でならばそれも可能かと存じます」


 アロイの本音としては例え強制された師弟の関係といえど正輝は己の教え子である。 その教え子が不遇に晒されているのだ。 それにネリーナやランディー、ハリスといった面子からもその相談を受けていた。 何とか力になれないものかと思い付いたのがこの策である。


 それにあの街にはアロイの教え子の中で一番優秀だった生徒が居るのでその人物に任せるつもりであった。


 王はしばし思案する。


 このまま正輝を城に置いておけば正輝を虐げるリーと正輝を擁護する他の勇者との諍いが起こり下手をすると両者に死傷者が出ぬとも限らない。


 正輝を遺跡街に追い遣れば城は静かになるし、何より皆が訓練に集中できるようになる。


 可能性は低いが正輝がギフトの能力を覚醒させればもしかしたら化けるかも知れない。


「……良かろう。 この件、アロイ教授に任せる。 好きに致せ」




☆☆☆☆☆☆


 


――二週間後


 その日、俺はフォースの授業が終わるとアロイ先生に呼び止められた。


 何のようだろう?


 早く逃げないとリーの野郎に捕まってしまう。


 この間、逃げ切れずに捕まってしまいボコボコにされ死にかけた。


 ランディーさんの《自動回復》のギフトで治癒して貰えなければ死んでいたかもしれない。 そんなのごめんだ。


「先生何のようですか? 俺早く逃げないと……」


 焦る俺に先生は”まあまあ”と言って落ち着かせようとする。


 そんな事言われてもリーの奴が直ぐ其処まで……ああ! もう 来やがった!


「あなたに遺跡街に出向して貰います」


 突然の事で一瞬、何を言われたのか分からなかった。


「遺跡街? 出向?」


「詳しい話は馬車の中でしましょう。 私に付いて来て下さい」


 先生はリーを武術訓練に早く行くよう促して追い払い、スタスタと前を歩いて行く。


 俺は言われるが儘、先生の後に付いて行った。


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