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6,俺のアダ名は貯金箱

今回は残酷な描写があります。 免疫の無い方はそっと閉じて引き返す事をお勧めします。


※2016 7/20 聖女の名前を追加しました。

※2016 8/4 聖女の名前をティファーユに変更しました。

 大広間の一件から俺達は邪神に対抗する為、訓練を義務づけられた。


 朝早く日の出と共に起こされ基礎の体作りをさせられる。


 朝食後はフォース――俺達の世界では魔法や法術といった類の空想上の能力――を学ばせられ、昼食後から夕方までただひたすら武術の稽古である。


 邪神についてはフォースの授業で教師役を務める年配の男性で宮廷付きのフォースの使い手アロイ・マクスウェルという人が昔話を語るように教えてくれた。


「嘗て神代の時代、黄金の時代と呼ばれた時代。 


 人々は年を取らず死ぬ事もありませんでした。


 ある日、主神オーグは人との間に儲けた自分の息子である命の神に”地上で王となり人々を纏め治めよ”と命じました。


 命の神は地上の王の伴侶となる聖女と守護神である十二の獣神達と共に旅をし、地上の人々を助け、徐々に人々の信頼を得て王へと一歩ずつ近づいていきました。


しかし、ある時の事。 一人の青年が聖女を見初め地上の王位を望んだのです。


欲深き青年は獣神を唆し事もあろうに聖女ティファーユを命の神から奪ったのです。


その青年こそ現在我々を苦しめている邪神アシャールなのです。


獣神達に裏切られ青年アシャールに聖女ティファーユを奪われた命の神は絶望し悲嘆に暮れ一人地上を彷徨いました。


 やがて欲深き青年アシャールが地上の王となり聖女ティファーユを自分の妃としたのですがその途端、地上は天変地異に見舞われました。


 王となる運命でなかったアシャールが王となった事で自然の調和が崩壊したのです。


 これに激怒した神々は主神の弟で戦神アーダを地上に遣わしアシャールを殺そうとしました。


 アシャールはこれに対抗する為、禁断の秘術で十二の獣神達の魂を喰らい、その力を取り込み戦神アーダを返り討ちにしました。


 アシャールは倒した戦神アーダの魂も取り込んだのですが、戦神との戦いで負った傷は癒されず毎日苦しみ続けました。


 やがてアシャールは精神を病みその苦しみの中で自身の傷を癒す狂気の術を思い付いたのです。


 アシャールは己の妻でもある聖女ティファーユの皮を生きたまま剥ぎ取りその皮を被る事で戦神アーダに受けた傷を癒し、まだ生きていた聖女の血肉を喰らう事で聖女の不老不死の力を得ました。


 これが邪神アシャールの誕生です。


 次にアシャールは神の住む地に攻め入り神々を封印しました。


 人々は王であるアシャールの所業に恐怖し、アシャールから逃げ出しました。


 アシャールは逃げ出した人々を自身が生み出した異形の者共をけしかけ、悉く殺し尽くしました。


 残った人々は絶望し、滅びをただ待つだけの日々を送りました。


 そんな時です。 襤褸を纏った一人の聖者が現れました。


 聖者は嘗てアシャールに大事な者を奪われた命の神でした。


 命の神は絶望と悲しみの中、それでも人々を助ける事を続けた命の神は人々から聖者と崇められる様になったのです。


 聖者はアシャールに戦いを挑み、アシャールと激闘を繰り広げました。


 戦いの果て、聖者はその身を犠牲にし邪神アシャールをを封じ込める事に成功しました」


 其処で一人の召還者がアロイ先生に疑問を投げ掛けた。


「え? でも邪神は今この世界を苦しめてるんですよね? どうしてですか?」


 アロイ先生が自慢の白い顎鬚を扱きながら答えた。


「話には続きがあるのですよ。 約千年前、銀の時代――まだ理術(フォース)が魔法と呼ばれていた全盛期時代――妖精族が築いたアルフェリアという魔法王国がありました。 アルフェリアはフォースや道具を作る技術に優れていたのですが、己の力に増長し愚かにも周りの国々に戦争を仕掛けたのです。 その時アルフェリアが使用した大規模なフォースの力によって聖者の封印が破られ、アルフェリアは復活した邪神アシャールに滅ぼされました。 お陰で我々は千年もの間、邪神との戦いを余儀なくされたのです。 故に現在この大陸に存在する国は我々アーガスと僅かな小国が数国だけとなりました」


 千年も戦いが続いてんのかよ。 よくこの国生き残れたな。


 次に質問したのが大学で歴史考古学を専攻していたハリスさん。


「命の神の名前が出てきませんでしたが何故ですか?」


「復活した邪神が自分を封印した憎き命の神の名を歴史から消し去ってしまったのです。 今ではその名を知る術は我々にはありません」


 召還者達の質問に次々答えるアロイ先生。


 質問に答え終わったアロイ先生は授業の最後に姿勢を正し俺達にこう語る。


「我々は邪神との長きに渡る戦いで色々なものを無くしました。 もうこの国も限界なのです。 改めてお願いです。 我々にあなた方勇者の力を貸して下さい」


 そう言ってアロイ先生は俺達に向かって頭を下げた。


「……」


 俺達は苦い顔になる。


 そりゃそうだ。 だって今の俺達はアーガス国王達の奴隷の様なものだ。 その上、元の世界に二度と戻れない俺達はこの異世界で生きていくしかない。


 結局、邪神アシャールとやらとの命を掛けた戦いを強制されるのだ。


 嫌になるのが普通だ。


「おう、俺に任せてくれ! 邪神なんて一捻りよ!」


 若干一名、KYの目立ちたがり屋なリー君(18歳)だけは元気にそう答えた。




☆☆☆☆☆☆




 その日の夕刻、夕食前の事である。


 俺が食堂へ行く通路を一人で歩いていた時。


「おい、其処のお前! ちょっと待て!」


 と、誰かに呼び止められた。


 誰だろうと振り返って見てみれば、其処には目立ちたがり屋のリー君(18歳)が数名の召還者と共に立っていた。


 リー君は並んで立っている他の召還者の前へ出て偉そうに腕を組んで俺に話しかけてきた。


 俺の経験上、こういう時こういう態度のヤツは碌でもない事をしてくる。


 なので無視して食堂に行く事にした。


「待てって言ってるだろ! ”職業能無し”!」


 ちょっと待て! 何でお前が知ってる!


 俺は冷静を装い尋ねてみる。


「……何の事?」


 リー君はにやけ顔で答える。


「惚けるなよ。 お前のステータスが低いのもギフトが使えないのもぜ~んぶ知ってるんだぞ!」


 何でだ!と思ったら一人見覚えがある奴がいる。


 あいつは同じ日本人で名前は確か佐久間 秀則(さくま ひでのり)(18歳)ギフトは確か《真偽眼眼》とかいう鑑定のスキル持ち。


 そうか! 奴のスキルで俺のステータスやスキルを調べやがったな!


 俺が顔を見るとにへらと笑っている佐久間。


 くそう! 絶対に近ずきたくない奴らに目をつけられちまった様だ!


 兎に角、この場を何とか切り抜けよう。


 心の動揺を悟られないようにしないと。


「コイツのスキルでお前を調べたんだよ。 だっておかしいだろ? お前だけ訓練や授業が別メニューってのは」


 そう、俺の基礎身体能力は低すぎる上にフォースを使う為に必要な理力も無い。 おまけにギフトも使えないときたもんだ。


 自然、皆から置いてけぼりを食らう訳だ。


 結果、俺だけ別メニューが組まれた。


 俺としては何処か別の場所でひっそり暮らしたかったんだけど、この世界読み書き計算が出来るだけで優秀らしい。 その上、邪神の所為で人材不足なのでそうさせては貰えなかった。


「最初は俺達の中で一番優秀だからかと思ったがコイツに調べてもらってビックリ! お前の能力知った時には皆で爆笑させて貰ったよ!」


 ちくしょう! 好き勝手言いやがって! 俺だって好きで能力が低い訳じゃないんだよ! スキルやギフトだって使いまくりたいよ!


「それで? それがお前等に何か関係あんの?」


 俺は込み上げて来る怒りを抑えて尋ねた。


 どうせ碌でもない事思い付いたんだろうけど。


「お前、俺達の下僕になれ」


「はぁ? 何でそうなる?」


「自然界では弱者は強者に従うもんだ。 お前は俺達よりも遥かに弱い。 だから俺達強者に従うもんだ。 当然だろう?」


 それっていじめっ子の屁理屈だよ!


 もうやだ! こいつ等無視して晩飯食いに行こう!


 俺はこいつ等を無視して足早にこの場を立ち去ろうとした。


 しかし先回りしたリーが立ちふさがる。


「無視すんな!」


「邪魔なんだけど? 俺、早く晩飯食べに行きたいんだ」


「この野郎! ギフトも使えない癖に!」


 この言葉を聞いて切れた俺は――


「ギフトなら使える!」


 と、つい勢いに任せて言ってしまった。


 しまった!と思った時には遅かった。


 リー達は厭らしい笑顔を浮かべて俺に詰め寄る。


「じゃあ、今此処で使ってみろよ?」


「そ、それは……」


 言葉に詰まる俺。


「やっぱり嘘か? そうだな? そうだろう?」


 リーは嫌味な言葉で俺を追い詰める。


 俺は意を決しギフトを使う。


 ……どうか奇跡が起きますように!


 すると俺の目の前に光り輝く物体が現れた。


「お、おお!」


 この光景にリー達は目を見開いて驚いている。


 俺も驚いた! だってギフトが使えたんだもん!


 光が収まり物体の姿が顕となる。


「ええ~!?」


 目の前の物体。 それは料金箱だった。


「なんだこれ? でっかい貯金箱じゃん!」


 馬鹿にしたリーの言葉。


 現実は厳しかった。


 そして俺のアダ名が決まった瞬間だった。


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