5,王達の脅迫
三日後、邪神と戦うかどうかの返答をする日が来た。
それ迄に王様の命を受けた騎士達にステータスやスキルを調べられた。
材質は透明なプラスチックのような弾力のあるキャッシュカードサイズのカードを手で直接握らせられた。
何でもこれは古代に栄えた魔法王国の遺跡から発掘した道具で作られたステータスやスキルを確認する為の物だそうだ。
素肌に直接当てればステータスやスキルを見る事ができるらしい。
騎士さんが俺の握ったカードを見て目を見開いて驚いた。
そして次に俺を見た時、騎士さんがとても哀れんだ顔で――
「……強く、生きろよ!」
と、励まされた。
騎士さん、同情するなら力くれ!
「どうしたんだ、あの騎士? 涙ぐんでたぞ?」
偶々通りかかったランディーさんが俺に問いかけてきた。
「実は……」
俺は事のあらましを語った。
「なっ!? マジかそれ!」
すげー驚かれた。 大げさですよ、ランディーおじさん。
「どうしたのです? こんな所で大声を出されて」
俺の隣の部屋に居たインド人の大学生ハリス・アラシャド(21歳)がランディーさんの大声に釣られて部屋から出て来た。
「ああ、すまない。 実はコイツのステータスとギフトが……」
それを聞いたハリスさんもビックリ!
「ええ~!? ほ、本当ですか! ありえませんよ! 僕、興味本位で他の人達のステータスやギフトの事ととか聞いて回ったらレベルは1~5、基礎能力は100前後、理力とやらは1000前後、ギフトの内容に関しては答えてくれない人も居ましたが全員使えるようでしたよ」
「俺はこの身体になってから《自動回復》っつうの使えるし……」
「僕はフォースが……ああ、フォースというのは魔法のような力で僕はそれらの知識を全て網羅した《理術の理》というのが使えます」
「だよなあ。 少なくとも金貨100,000,000枚が必要なんてなかったし……正輝、お前その身体に不具合でもあるんじゃないか?」
「そうですね。 神といえども間違いはあるでしょうから可能性は無くもないでしょう」
ランディーさんは俺のステータスの低さやギフトの使用不能についての考えられる可能性を上げ、ハリスさんはそれに同意する。
「兎に角正輝よ、お前さんは大人しく皆の後ろに目立たない様に隠れていた方が良い。 それにこの事は他の奴には言うな。 自分の力に増長した奴等がお前を差別して傷つけるかもしれん」
「僕の国もカースト制度が廃止された今でも国民に差別意識が根強く残っていて社会問題になっています。 正輝君は選民意識が強い人達の標的にされ易いでしょうね」
俺もイジメにあった経験上良く分かる。 人は自分より下の人間を認識すると残酷になる生き物だ。
「でも、邪神と戦えって王様達が強制してきたらどうするんです?」
「幾らなんでもその能力の低さで流石にそれは無いと思うぞ。 もしそんな事すれば他の奴等が反発する」
「そうでしょうか……」
俺は今一つ不安が拭いきれなかった。
そして現在、大広間に集められた俺達召還者。
「勇者達よ、今日が約束の期限だ! 願わくばより良い返答を期待する。 と。その前に汝らに渡す物がある! 内務大臣よ。 例の物を此処に」
「ハッ!」
王様は内務大臣よりお盆に載せられた何かを手に取り俺達に見せる。
「これなる物は汝らの身分を国が補償する証の腕輪。 これさえ身に着けておれば国内での身元は保証される。 サイズの手直しが必要か身に着けて確認して欲しい」
王様がそう言うと兵士が召還者達に腕輪――ブレスレットを手渡してきた。
皆、王様に言われた通り身に着けてみる。
俺も皆同様ブレスレットを身に着ける。
すると一人の召還者がブレスレットが外れないと周りに聞こえる声で言葉を漏らした。
その真偽を確かめようと他の召還者達がブレスレットを外そうとするが外れないようだ。
段々と騒ぎになってくる。
「どういう事だよ! この腕輪外れねえぞ!」
「わ、私のも外れない!」
「おい、お前! 確か鑑定のギフト持ってただろう!」
俺の近くで男が別の男性に詰め寄った。
「お、俺だってこれ着ける前に鑑定したよ! そしたら《身分を保証する腕輪》って出ただけだから分からなかったんだよ!」
男は焦りながらもそう答えた。
そんなギフトもあるのか。 商売に役立ちそうなギフトだな。
などとと思案する余裕がある俺。
何故俺が落ち着いているのかというと俺のブレスレットは外れるからである。
試しに何度か身に着けてみたがちゃんと外れる。
どゆ事?
「静まれ勇者達よ! 汝らが今身に着けた腕輪には余等に逆らえぬ様に行動抑制のフォースが刻まれておる。 鑑定に類するギフトの所持者でも看破が出来ぬよう隠匿の細工を施させた。 故に見破る事が叶わぬかったであろう。 このような卑劣な手段を用いてすまぬと思うがこれも国の為、国民の為に汝らには全員、これから邪神と戦って貰う」
王様の一方的な要求に終には皆切れてしまった。
「ふざけんな! これ外せ!」
「てめえら全員ぶっ殺すぞ!」
「私、戦うなんて嫌!」
皆、不満を爆発させ王様達に暴言を吐く。
だが突然、何名かの召還者達が苦しみもがきだした。
すると王様は威圧込めた冷たい声で俺達に語り掛ける。
「言い忘れておったが、もし余等に逆らえば汝らが身に着けた腕輪が苦しみを与える。 場合いによっては汝らの命を奪うであろう。 ちなみに余等にスキルやギフトの類を使用して余等を害そうとした場合はその能力を封じて苦しみを与える。 故に今此処で言うておくぞ。 余等に逆らうな。 余等の命に従え」
「……」
苦しみもがく召還者達を見た他の召還者達は皆一様に顔を青ざめさせた。
王様が今度は優しく穏やかな口調で俺達に語り掛けてきた。
「もちろん、ただでとは言わぬ。 報酬も支払おう。 もし、邪神討伐を果たした者には余の出来うる限りその者の願いを叶えよう」
そう言われてハイそうですかと素直に従う人間なんかいないだろうと思っていたら例の如くあの目立ちたがり屋さん――中国人の青年リー・シャオロンが手を上げて質問を王様に投げ掛ける。
「王様! もし邪神を倒したら王女様と結婚させてくれますか?」
「ん? ウ、ウム、叶えよう」
それを聞いた目立ちたがり屋さん、大声を上げて喜ぶ。
しかし、王様は困った様な声で言う。
「だが勇者よ。 余の娘――王女はそなたと釣り合う年の者は皆嫁いでおる。 他には八歳になったばかりの王女しか居らん。 ……それでも良いのか?」
それを聞いた目立ちたがり屋のリーは声を大にして喜ぶ。
「よっしゃあ! 対象範囲だ!」
それを聞いた俺や他の人達は思い切りドン引く。
「くそ! 先を越された!」
と、悔しがる声が聞こえて皆更にドン引く。
誰だ! ペド野朗は!
俺はそいつを見た。
同郷の日本人だった……。
「こいつらには絶対近ずかないでおこう」
心の中で固く誓うのだった。