4,王達の策謀
俺達が通されたのは城の中でとても広い空間の室内。 たぶん大広間だろう。
其処には既に王様らしき人物が大広間の奥、中央の椅子に座っている。
顔は俺が居る所からでは良く見えない。
「余がこの国バリストールの国王アーガス・ラング・バリストールである! 勇者達よ、今世界は邪神の脅威により滅亡の危機に瀕しておる! どうか我等に汝らの力を貸して欲しい!」
そこでネリーナさんが質問する。
「邪神って何なんです? 私たちは私たちの世界の歪みを正す為にこの世界に召還されたんですよ。 神様にそんなのと戦えなんて言われてないんですけど?」
周りに居る召還者達は皆一様に頷く。
確かに俺もそんな風に神様から聞いたな。 邪神が居るとは言っていたが……。
それを聞いた王様は驚いた声を上げる。
「何と! 余は神にそなた等勇者を召還するので彼等の力を借り、邪神を討伐せよとお告げを受けたぞ!」
……おいおいおい! カテナイ様よ! 世界の歪みを正すだけじゃあなかったのかよ! それにそういう大事な事は事前に話しておくもんだろうに!
王様はしばらく沈思してから俺達に語り掛ける。
「フム。 では、こういうのはどうだろう? 汝らに三日間の猶予を与える。 その間に邪神と戦うかそうでないか考えて欲しい。 共に戦ってくれるのであれば勇者として身分を保証し、それ相応の報酬を払おう。 もし、邪神討伐に成功すれば可能な限りの望みを叶えよう。 邪神と戦わないにしても別の形――後方支援としてこの国を助けて欲しい。 その場合においても身分を保証しよう。 どうだろうか?」
再び召還者達は近くの者と相談する。
「私、そんなのと戦うなんて嫌よ!」
「戦わなくても良いってんならそれでも良いかな」
「ホントに戦わなくてすむのか?」
「さああな?」
「俺は戦うぜ! 英雄になって王女と結婚するんだ!」
などと話している。
最後のセリフはさっきの目立ちたがり屋さんだ。
其処でランディーのおっさんが手を叩いて自分に注目を集めさせる。
「皆、此処で考えてても仕方ない! 時間はあるんだ! 三日間それぞれ考えてから答えを出せば良い! 今日は色々あったから皆も疲れただろう? そんな頭じゃあ冷静な判断は下せない! 今日の所は休ませてもらおう!」
皆ランディーのおっさんの意見に賛同する声を上げる。
「皆の者よそうするが良い。 ゆっくり休める部屋に案内させる。 其処でじっくり考えればよかろう」
そうして俺達666人の召還勇者はそれぞれ部屋に案内された。
☆☆☆☆☆☆
場面は移って会議室。
王は重鎮達を集め再度会議を開く。
「王よ。 今後どういたすのですか? 何かお考えがあるので?」
宰相が王に質問する。
「ウム、彼等に時間の猶予を与えたのは彼等の為ではない。 彼等召還者達に対抗する時を稼ぐ為のもの。 内務大臣よ。 例の物は準備させておるか?」
例の物とは召還者達に身に付けさせる行動抑制の能力を持つ装飾品である。
「ハッ! 既に部下に命じてドワーフ奴隷共に作らせております。 三日後には必ず用意いたします」
「急げよ」
「ハッ!」
「宰相よ、今日の様に大広間に彼等を集めよ。 軍務大臣は選りすぐりの兵士達を大広間に待機させ伏せておくのだ。 彼等がそれを身に付けたら包囲、脅迫し余の言う事を聞かせる。 さすれば彼等を邪神と戦わせる事が出来よう」
「しかし、それでは彼等が反発するのでは? 下手を打つと彼等の力で反撃されるやも知れませぬぞ」
宰相は王が考えた作戦の不安要素を述べる。
「ではどうせよと?」
宰相は王の質問に答える。
「そうですな……では脅迫する前に召還者達のステータスとスキルを調べるのはどうでしょう? 行動抑制に抗う事が出来なければ脅迫する。 抗う事が可能であれば王が彼等に申した表の意見を実行する。 ただ、単にそのまま実行するのではなく彼等に探りを入れて弱みを握り、それを持って彼等を脅迫するのです。 反発は……ある程度望む褒美を与えてやれば逸らす事が出来ましょう」
「ウム、名案である。 宰相の意見を採用しよう」
「ハッ! 有難き幸せ」
「では、細かい事は前日に調整を……」
こうして勇者達の与り知らぬ所で王達は策謀を巡らせるのであった。
全ては国の為、己の為に。
☆☆☆☆☆☆
俺達召還者は部屋がある建物に案内されそろぞれ個室を宛がわれた。
さて、これからどうするか? 結局の所邪神の説明は聞けなかった。 邪神がどういったものなのか分からなければ判断しようが無いんだけど……。
そういえば神様、ギフトとか言う特殊能力を一つ授けるとか言ってたな? しかも、それってその特殊能力が教えてくれるって。
どうすりゃあいいんだ?
すると、頭にギフトや知らない筈の色んな知識が頭の中に思い浮かぶ。
「お? おお!」
そういえば神様、この世界の一般常識も授けてくれてたんだっけ?
俺は頭の中でギフトについて検索してみる。
何々?
《目を瞑り頭の中でステータスについて思えば細かい情報を呼び出せる。 通常スキルや固有スキルも同様である》
《ステータス説明》
名前
年齢
職業
Lv(基本レベル。経験の量を表す)
基礎能力(身体能力の合計平均値。数値を上げるにはLvを上げる)
基礎理力(フォースの強さとエンルギー量を表す。高ければ高いほど強く扱える量が多い)
通常スキル(普通に修練すれば手に入る能力。熟練度の限界は才能に左右される)
固有スキル(先天的に個人しか持ち得ない能力。 稀に後天的に手に入れる事がある)
ギフト(神より授かる特殊能力)
※スキルの熟練度の最大限界値は10
俺は頭に浮かんだ説明文の通り目を瞑りステータスについての情報を呼び出す。
本郷 正輝
年齢 19
職業 能無し
Lv0(これ以上は上がりません)
基礎能力 10(召還者(平均100)所かこの世界の一般人(平均30)以下)
基礎理力 0(フォースは扱えません)
通常スキル 剣術 1/1(才能限界が1なのでこれ以上は上がりません)
固有スキル 封印中(使用できません)
ギフト 梱包状態(金貨100,000,000枚を消費する事で開封可能。現在使用できません)
……え~と、どゆ事? 俺、役立たずって事ですか? ご丁寧に職業に”能無し”って表記されてるし。 しかも、親切にも説明文にこれ以上上がらないって残酷な事書かれてるし。
あれ? 目から液体が流れてくるよ? しかも液体の色が真っ赤だよ?
その日、俺は血涙で枕を濡らした。
翌日、メイドさんがシーツを変えに来た時枕が真っ赤に染まってたのを見てビビッて腰を抜かした。