18,《ショップ》解放、そしてお宝回収
夜、まだ宵の口だがこの世界には娯楽が少ない。
よって殆どが酒場に繰り出すか寝てしまうかのどちらかである。
そのどちらでもない、俺の下宿先の主シュタインさんは書類仕事をしていた。
俺はシュタインさんの仕事部屋でもある書斎の扉をノックしてシュタインさんの許可を得てから入る。
「どうしましたか?」
俺は昼間の出来事――城壁の中で財宝を手に入れた事を報告した。
「フム。 城壁の中にそんな物が在りましたか。 私が此処に赴任してきた時、城壁も調べてみたんですが隠し扉の類は無かったので諦めたんですが……まさか、そんな方法で中に入るとは。」
シュタインさんとハルラさんは城壁を調べるのに二年の歳月を費やしたそうな。
ご苦労なことだ。
「では、財宝の証明の為にも今から確認に行きましょう」
「え!? 今から、ですか? 仕事が残ってるんじゃあ……」
「ええ、ですからこれも仕事の内ですよ」
「他の仕事はどうすんですか?」
「帰って来てからちゃんとしますよ。 それより、中の様子が気になります」
「代官代理としてですね」
街を預かる身としては当然の対応だ。 流石役人の鏡。 代官代理に抜擢されるだけはある。
「いえ、研究者としてです」
「……」
そっちかよ!
その後、シュタインさんに急かされハルラさんも事情を聞いて動向(ホントは隠していたがハルラさんに見破られ)し、三人で鍛冶屋に訪れた。
ちなみに、アルスレートとレイヤはシュタインさんの要請で役所の建物に泊り込みしている。
商人が持ってきた街の物資を見張る為らしい。
従って二人は此処に居ない。
道中、「いや~、女性の感は恐ろしいですね~」とシュタインさんが小声で話しかけてきたのはハルラさんには内緒である。
☆☆☆☆☆☆
「今度は先生も来たんだ」
既に鍛冶屋は店じまいしてシャルンと、コリンの二人は夕食の支度の途中だった。
「すみませんね、コリンさん。 マサキ君から報告を受けて逸る気持ちが抑えられませんでした」
「先生、相変わらずだねぇ~」
苦笑いしたコリンに俺達三人は店の中に招き入れられた。
俺が切った壁は大きな布を天井から吊り下げて壁の穴が分からないよう隠していた。
「早速ですが城壁の中に入らせて下さい」
「りょうか~い」
了承したシャルンが布をまくりあげると壁の穴が露になる。
「ほう、見事に壁を切り裂きましたね。 この壁、どんなに頑張っても誰一人傷つけられなかったのですが」
シュタインさんは壁の切断面を手でなぞりながら感心された。
俺だって斬るつもりなんて無かったですよ。
「マサキ君て《理技》の熟練度は幾らですか?」
「10です」
「「「ふえ!?」」」
ハルラさんだけでなくハーフリング姉妹も驚いた。
「凄いですねえ。 流石、勇者様ですねえ」
冷静に答えるシュタインさん。
アンタほんとに驚いてんのか?
「さて、時間も惜しいので行きましょうか」
☆☆☆☆☆☆
「あれ?」
俺達が隠し扉を潜り階段を下りると財宝の眠る場所ではなく何故か見覚えの無い部屋に出た。
しかも中央には30cm位の大きさの人型の何か、が数匹たむろしていた。
「あれはイービルリトラーですね」
「そんな!? 私達が入った時には何も無かったのに!」
シャルンが驚いて声を上げる。
その声に気づいたイービルリトラーとやらは俺達に顔を向ける。
振り向いたイービルリトラーの顔は醜悪でファンタジー小説やゲームに出てくるゴブリンそのものだ。
「武器も持っていないようですし、先にあれをかたずけましょうか」
「こっちも武器が無いんですけど……」
俺達が城壁の中を確認した時はモンスター何て居なかった。
従って誰も武器なんて持ってきていない。
「大丈夫ですよ、マサキさん。 イービルリトラーはとても弱いんです。 だから蹴飛すだけで簡単に倒せます」
ハルラさんが見本を見せるようにイービルリトラーを思い切り蹴飛ばす。
それはいいけどハルラさん、あんたスカートだろ。
あ、ぱんつ見えた。
「マサキ君、ハルラの勇姿に見惚れてないで君もやらないと女性陣にいいとこ取られてカッコがつかないですよ」
シュタインさんが俺にもイービルリトラーを倒すよう薦めてくる。
あんた、俺がハルラさんのぱんつ見たの怒ってるな?
そうしている間にもイービルリトラー三匹が俺達に向かってくる。
仕方ない、やるか。
「てぇい!」
俺はイービルリトラー二匹を脚で纏めて蹴り飛ばす。
「「グエッ!」」
蹴りが当たった瞬間、イービルリトラーは蛙が潰れた様な鳴き声を上げて宙を舞い、反対方向の壁に激突。 床に落ちて二匹は身体を痙攣させている。
最後の一匹が不利と悟って逃走。
逃がすか!
「とりゃ!」
「グギャ!」
ベチャ!
勢いつき過ぎて天井に激突。
そしてそのまま潰れて天井に張り付いたイービルリトラー。
かなりグロい。 そして女性陣は俺から距離を取る。
「幾らなんでもこれは無いわー」
「やりすぎだよ、マサキ」
「私でもこれはちょっと……」
いや、別に狙ってやったんじゃあないんだよ?
「ハッハッハッ! 女性陣に見事引かれてしまいましたねえ」
「アンタがやれって言ったんだろうが!」
「いやだなあ。 私は此処までしろとは言いませんでしたよ」
きいぃーー! ああ言えばこう言う! 屁理屈言うなや!
チャリーン!
ポテッ!
シュタインさんと言い合っていると天井から何か落ちてきた。
「ん?」
床に落ちたそれは良く見ると金貨とチーズだった。
なして金貨とチーズが天井から降ってきたんだ?
「ああ、イービルリトラーを倒したからお金とアイテムがドロップしたんですね」
なるほど。 これが世に言うドロップという奴か。
ピロリ~ン
頭の中で音が鳴る。
続いて女性っぽい機械の合成音でアナウンスが流れる。
『モンスターからのアイテムドロップを確認。 《ショップ》の解放条件を満たしました。 《ショップ》を解放します』
おっ! ギフト《HES》の機能の一部が解放されたようだ。
「どうやら此処はダンジョン化が始まったようですね。 ダンジョン化が始まれば爆発的に空間が拡大していくとダンジョン関係の資料には記録されています。 急いだ方がいいですね」
シュタインさんに促され、俺達は部屋の奥に在る階段に向かった。
☆☆☆☆☆☆
階段を下りると其処は昼間来た財宝のある場所だった。
ピロリ~ン
おや? また、頭の中で音が鳴った。
『《王家の隠し財宝》ダンジョンをクリアしました。 ダンジョンをクリアしたので《ダンジョンメイカー》に登録されました』
おお! 今度は《HES》の機能が利用できるようになったぞ。
後で確認しよう。
「マサキ君から報告は受けていましたが、まさか此処までの規模とは思いませんでしたよ」
「凄いですね、旦那様。 ……あれは、何かしら?」
ハルラさんが指差した方向の先にある壁。 その壁には此処からでもハッキリと分かる黒い大きな穴の様なモノが穿たれていた。
「このダンジョン、どうやら発掘場に融合されかけているようですね。 あれは多分空間の歪みでしょう。 確か記録によれば空間に歪みが生じた際、一日前後でダンジョン同士の融合が始まると記されていました。 しかし、そうなると此処の財宝は発掘場との融合に巻き込まれ消滅するでしょう。 そうなると此処にある財宝の調査は出来なくなりますね。 非常に残念です」
う~ん、せっかく見つけたお宝の山が消えて無くなるのはもったいない。 何か方法は無い物か?
そうだ!
俺は《HES》を起動させた。
3Dパネルディスプレイとリクライニングチェア、料金箱が出現する。
「うわっ!? 今度は何!」
「変なのが出て来た!?」
「旦那様、これは……」
「どうやらマサキ君は此処の財宝にある金貨でギフトを解放できたようですね」
俺は四人に構わず《ショップ》を開き、売られているアイテムを確認する。
収納に便利なアイテムは……。
おっ! 《圧縮収納バック》っていうのがある。
何々、”収納したい任意のアイテムを思考すればアイテムの出し入れが自由自在に出来る。 最大100種類の物を収納可能。 同じアイテムなら99個、貨幣なら一億枚迄”と。
値段は金貨100枚か。
そこら辺の床に転がってる金貨を使って買うか。
そうそう、ついでに倉庫も拡張しておこう。
☆☆☆☆☆☆
俺は《アイテムショップ》で買いまくった《圧縮収納バック》を使って財宝の回収を行う。
此処に居る四人にも協力して貰い約二時間掛かって財宝の回収を完了した。
もちろん、四人には報酬として財宝入りの《圧縮収納バック》を十個ずつ渡した。
シャルンとコリンは初め受け取ろうとしなかったが俺は強引に二人に押し付けた。
「「ありがとう……」」と二人ははにかみながら受け取ってくれた。
シュタインさんは財宝よりも《圧縮収納バック》が気に入ったようだ。
ハルラさんは”これで家計が助かる!”と大喜び。
どうやら俺が思ってたよりシュタインさん家の台所事情は苦しかったようだ。
俺はといえば《HES》の拡張した倉庫に《圧縮収納バック》を突っ込んだら約四百個、1/3埋まった。
《圧縮収納バック》がなければアイテム倉庫がパンクしていただろう。
財宝を回収した後、シュタインさんとハルラさんが空になった財宝置き場を暫く調査した後、俺達はハーフリング姉妹の鍛冶屋に引き返した。




