14,鍛冶師の姉妹
※2016 7/17 理技の読みをアーツに変更しました。
遺跡街に来た翌日、俺は早速ハーフリング姉妹の鍛冶屋の前に来ていた。
今は俺一人だ。
バルデスさんとアルサート、レイヤの二人はシュタインさんの要請で街の門近くに建てられた役所に応援に行っている。
勇者の腕輪の処置を二人に知られない為だ。
シュタインさん曰く、”二人は騎士団の所属。 それなら定期的に街の外と手紙で連絡を取り合っている筈。 ならば、君の秘密や腕輪の事を知られる訳にはいかない”
そういう事でシュタインさんの提案で二人から一端離れて行動できる様にシュタインさんが二人を役所に縛り付けているのだ。
鍛冶屋の三階にあるベランダを見た。
相変わらず下着が干されている。
二人には羞恥心が無いのか?
いや、此処は人通りが殆ど無い。 故に人目を憚らず下着を干しているのだろう。 それに鍛冶仕事は火を使う。 熱いから汗を良く掻くのだ。 必然、着替えや洗濯回数は多くなるだろう。
俺は詮無い事だと考えを止め、鍛冶屋の扉を潜り中に入る。
「「いらっしゃ~い」」
二人のハーフリング姉妹の鍛冶師、シャルンとコリンが元気な声で迎えてくれた。
姉のシャルンが応対してくれる。
「早速来てくれたんだ。 それで用件は?」
「武器と防具を一式、お願いします」
「武器はどんなのがいいの?」
俺は迷わず答える。 此処に来る前から決めていたのさ!
「バルデスさんの様な大剣を!」
「「いやいや! あんなの無理だから!」」
二人は声を揃えて返答する。
「ええ~、どうしてです?」
二人は困ったな~といった具合で答える。
「あんな大きい剣、うちの設備じゃ作れないよ!」
「例え設備が在ってもシャルン姉さんの腕じゃ無理。 ドワーフでないと作れないわよ……」
「そもそも君、あんなの扱えるの? 武器関係の熟練度は幾つ?」
俺は胸を張って答えてやった!
「剣術スキルが熟練度10 !」
「……嘘はよくないよ」
「男の子だから見栄を張りたいのは分かるけど、それじゃあ女の子に嫌われちゃうよ?」
二人は俺の言葉を信用してはくれなかった。
当然か。 剣術熟練度10は戦神アーガさんでも到達してない域なのだから。
だからって二人共、そんな可哀想な人を見る目はやめて!
「ホントなんですって! バルデスさんやシュタインさんも認めてくれましたよ!」
「「え! バルデスや先生が!」」
二人は目が飛び出さんばかりに見開き、声を揃えて驚く。
「ん~、それじゃあ試さない訳には行かないわね。 姉さん♡」
「そうだね、コリン♡」
二人から何やら不穏な空気が漂ってる。
「試しって?」
「簡単なことだよ。 少し待ってて」
そう言うと二人は何やら準備をしだした。
コリンは何処かから俺の腰ぐらいある台を引っ張り出し、シャルンは作業場の隅に置かれていた立方体の金属の塊をその台の上に置いた。
次いでシャルンは炉の近くの壁に立てかけてあった直剣を俺に手渡した。
何とな~く今からやる事が分かった。 だが、念の為に二人に確認を取る。
「えっと、この剣でどうすれば良いですか?」
「「あのインゴットをぶった斬って♡」」
やっぱりか! やっぱりそうか!
「君の腕が君の言う通りならそんなの簡単でしょ」
「頑張って♡」
二人は言葉とは裏腹に厭らしい笑顔を浮かべている。
畜生! やればいいんだろ! やれば!
俺はシャルンから手渡された直剣をに構えて振り下ろす――が、インゴットに当たる直前ピタリと止めた。
可怪しい。 何か違和感がある。 このインゴットを切れる気がしない。
俺がうんうん唸ってるいるとシャルンが尋ねてきた。
「ん? どうしたのjかな、マサキ君。 もう降参?」
「いや、何かこれ剣術だけで斬れそうな気がしないんだけど……」
ギクッ!
「「ソンナコト、ナイヨ~!」」
二人の動きが一瞬止まり、言葉使いも片言だ。
何か怪しい。
「二人共、何か隠してるね?」
「あ~あ、バレちゃった」
コリンが可愛く舌を出して、失敗失敗とか言っている。
そしてシャルンがネタばらし。
「実はそのインゴット、アダマンタイトなんだよね。 だから例え剣術の熟練度が高くても《理技》が使えないと斬れないんだ」
おいおい、俺は剣術スキルしか持ってないってーのに何ズルかましてくれてんだこの姉ちゃん達。
そもそも《理技》て何だよ?
「俺、《理技》て知らないんだけど?」
「《理技》というのは武器に理力を纏わせた技の事だよ。 武器関連のスキルの熟練度がある程度上がれば自然と会得するスキルなんだ」
「俺、そのスキル持ってない」
「それがそもそも可怪しいんだよ。 学がない農民出身の探求者でも会得できるくらいだもの」
む~、其処まで言われると何か悔しい。
《理技》、理力を纏わせる。
ん? もしかして気のようなものか?
確か気を使うには呼吸法が大事で、息を吸う時は新鮮な空気を肺に満たす様に大きく吸い込み、息を吐く時は細く長く肺を空っぽにする様に息を吐く。
更に呼吸はヘソの下にある丹田と呼ばれる場所を意識して其処から頭の天辺から足の爪先まで気のエネルギーが体の隅々に行き渡り、体の中を循環するイメージを作る、だっけ?
餓鬼の頃良くやってたけど結局、気が使える様にならなかったから止めたんだよなあ。
まあ、駄目元でやってみるか……。
俺は再び直剣を上段に構え、気の呼吸法を試す。
だが、以前と同じで何も感じない。
こりゃやっぱり駄目かな~と思い止めようとしたその時、体に変化が訪れた。
体の中に血液と全く別の何かが脈打ち、体を駆け巡りだした。
おお! もしかしてこれか! これが理力か!
初めは小さかった理力も体を駆け巡る度に段々と大きくなっていく。
確かこれができるようになれば次は量を絞ったり、範囲を指定したりするんだっけ?
俺はうろ覚えの知識で理力を直剣の柄から刀身、剣先。 そして剣先から刀身、柄へと循環させる。
これがなかなか難しかったが何とかできた。
直剣への理力の循環を繰り返すこと数分――
斬れる! そう確信が持てた時、俺は直剣を振り下ろしていた。
直剣の刃はスッとアダマアンタイトのインゴットに吸い込まれ、そのまま下の台を通り過ぎる。
次の瞬間、アダマアンタイトのインゴットは載せられていた台ごと崩れ落ちた。
「「えっ!」」
その光景を呆然と見詰めるハーフリング姉妹。
「……」
沈黙がその場の空気を支配する。
ピシッ!
今度は壁の方から割れる音が聞こえた。
「「今度は何!」」
シャルンとコリンは音がした壁を調べる。
その間、俺の体は極度に疲弊し、体を支える事もできずその場にへたり込む。
「疲れた~」
「そりゃ疲れて当然だよ!」
「え、何で?」
「其処のアダマンタイント斬る時に街の壁ごと斬り裂いたから……」
二人は半笑いの笑顔を浮かべている。
その笑顔は恐怖に引きつっている。
「「君は一体何者?」」
二人は声を揃えて俺に誰何した。
☆☆☆☆☆☆
「へー、異世界の人間ねえ」
俺は二人に事情を話した。 ていうか話さざるを得なかった。
だって、すんごい怖い形相で俺に迫って来んだもん。
その迫力に負けてつい話しちゃった。
「しかも、今をときめく勇者様とはねえ。 そりゃあ、納得だよ。 だって街の壁はアルフェリア時代の物で壁の上に埋め込まれた宝玉から常に理力が流れてて壁を強化し続けてるから」
「いや、俺はときめいてないし。 それに勇者と言ってもアーガス国王の奴隷みたいなもんだし」
「あー、人間族ならやりかねないわ」
二人は俺に同情の視線を向ける。
「まあ、そういう私達も族長の奴隷みたいなもんだし……」
「え、何で?」
シャルンとコリンは自分達の身の上を語りだした。
彼女達は両親が死に知り合いだったドワーフの鍛冶師に引き取られた。 しかし、邪神との戦いが激しくなるに連れ人出が足りなくなり彼らは王都に徴集された。
まだ独り立ちできなかった彼女達の面倒を見ていたのがこの街の妖精族を束ねる族長でエルフのジャルバンだった。
彼は面倒を見る見返りに人間族を相手に商売をして金を稼げと命じられたのだ。
「私等やディーナさん、ユイファとかはまだましな方。 特技が無い子や人間族とのハーフのコは問答無用で娼婦や男娼にされちゃうの。 コゼットさんやコゼットさんのお母さんのフォンティーヌさんがいい例ね。 ……まあ、コゼットさんは銀髪のイヴちゃんを産んで居住区から追い出されたお陰で娼婦を辞められたけど」
「此処も結構、酷い所なんだな」
「仕方ないよ。 妖精族はこの街の中でしか自由が認められてないから」
しんみりした空気が俺達の間に流れる。
いかん! この空気、俺には耐えられん! 話題を変えねば!
「あっ、そうだった! この腕輪なんだけど……」
俺はもう一つの用事を思い出し、懐から勇者の腕輪を出した。
「これがどうしたの?」
「これに込められた隷属の効果を消して欲しいんだ。 俺は運良くこの腕輪を外す事ができたけど、国王達にバレると面倒だし、かと言ってこのまま身に着けたら効果が発動しちゃうし」
コリンが勇者の腕輪を俺から受け取り色々調べる。
「うん! これなら解除できるよ! ちょっと待ってて!」
そう言うとコリンは部屋の隅に置かれた作業台の上に勇者の腕輪を置いて作業を開始する。
「そういえば君が欲しいのは大剣だったね。 此処に立て掛けてので全部かな。 流石にバルデスの剣程の大剣は無いけど」
シャルンが大剣を一本一本見せてくれる。
しかしどれもこれもバルデスの大剣に比べれば少しだけ肉厚で幅が広く長いだけの物だ。
バルデスの大剣は分厚く幅広で全長は軽く3mはある。 何処かの狂戦士が持つ、とある有名な鍛冶師が冗談で作った竜を殺す為の剣。
あんなのが欲しい!
全部見せて貰ったが自分の納得する剣が無かった。
「残念だけど此処にある物で満足できないなら後は発掘場で見つけるしか無いよ」
やっぱりそうなるか。 仕方ない。 適当な剣を見繕って――ん?
布に巻かれた長くて平体ものから柄らしきものが在る。
「あの隅っこに在るのってもしかして大剣?」
俺に指摘されたシャルンはそれを手に取り巻かれていた布を取る。
それは身幅が広く白い輝きを放つ刀身で鍔が無い見事な大剣だった。
「ああ、これは鍛冶の練習用に打った剣だよ。 でも素材は芯鉄に理力が良く通るミスリルを、皮鉄にはアダマンタイトを使ってるから実践でも十分使えるけどね。 ……もしかして、これが欲しいの?」
シャルンのその問に俺は何度も頷いてからハッキリと答えた。
「俺は、その剣が欲しい!」




