妄想
簡単に考えてもやはりあの棺の装飾はおかしい。男はアパートに戻った後も考え続けた、明日も早いのだが一向に眠気が来ない。
昔の研究からすると「遺産」と近いものがあるのだが、規模が小さい上に時代が新しすぎる。ギリシャ以前の暗黒時代やインダス文明、アメリカ大陸等歴史が詳細にわかっていない時期や場所のものならわかる。しかし文明や文化がかなりはっきりと研究されている部分での出土なら新たな謎になってしまう。
あの文様はやはり文字か、そしてこの石。他の遺跡でもそうだったが副葬品ではない確率が非常に高いのだ。宝物と呼べるようなものとは違う。
人類の歴史は破壊の歴史と言って良い。しかも秩序正しい破壊によって新しい時代が紡がれていく・・・一見無意味な破壊ですら俯瞰して考えると新旧の交代劇のように思われて仕方がない。
「この世界はこのようにあるべき姿として誰かが設計したのだ」と科学者にはありえない考え方をしてしまうのも、全てがひとつに向かって進んでいる、進まされているという妄想にも自分なりの根拠があるのだから。
疲れが出たのか男は考えながらも眠りに落ちていった。