気付き
順調に事は進み、シャワー付きのアパートの契約も済ませ、さてどうしよう。となった時に男はポケットに入れていた石ころのことを思い出した。
ほんのいたずら心からだったが「ベローダ女史、この石は一見ただのそこらじゅうにあるような石だが、実は発掘現場からくすねてきた石なんだ。何故かわかるか?」謎掛けのようだがそれはほんとうにただの遊びだ。
「そうですね」とレイハが手に取った時にそれは起こった。
「なんですか!これは!」ポンと頭上高くに放り上げられた石を男は自分の目の前でパシンと取った。それは意識しての行動ではなく自然な行為のように見えたが、実のところ男は眼前の女性以上におどろいていたのだ。
「・・・すみません、あの、静電気ですか?でもそれは、それは一体?」
「わからん、俺も気になって取っておいたものなんだが」やはり何かあるのか、この石には。と疑問が頭をもたげたが、それはすでに疑問ではなくなっていた。
「他にも同じようなものをお持ちなんですか?」レイハは尋ねてきたが男は頭を2度横に振り「ここに来る前に売っぱらってしまった。こんなただの石じゃなく紫水晶と自然金だったんでね。」とこたえた。
「王たるもののみが持ちえる宝物・・・」レイハは呟いた。瞬間
「何故それを知っている?!それは削除したはずの一節だぞ!」男は突然怒りに似た感情を爆発させた、削除したはずだ散々迷った挙句に。世の中にそれを知るのは自分だけのはずなのだ。
「頭に・・・浮かんだ言葉です、口が勝手に動いたとしか」レイハの表情は明らかに恐怖に支配されていた。
「やはりこの石はおかしい、俺の行動と君の言動だ。他に何か感じたことがあるか?」男は目の前の女性に向かって質問をした。完全には自制心を取り戻していない今しかない。
「私が手にするものではないということだけは直感ですが感じました」
直感だと?仮にも2分野で学士号を取った者の言うことではない、理論で語るべきことだ、が、正直なところ自分でも論理的に証明することは不可能だとわかっている、こじつけと予測それに直感。危険だがこの女性は自分の求めていた人物なのかもしれない。
暫く二人の間に沈黙が「まるで初めからそこにあったかのように」続き、男はやっと口を開いた。「貴方の感覚はおそらく私より鋭敏なのかもしれない」自分のことを私などと言ったことがここ数年あっただろうか?自称モグラの顔は研究者の顔に戻ってしまっていた。