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遺跡の目  作者: 朝倉新五郎
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つながり

 「この店は昼と晩だけだぞ。」考えていたとおり、昨日の女性はすでに待っており、テーブルで書き物をしていた。

 「おはようございます、シャレムさん。日記を書くのが習慣で、書きながら待たせてもらっていました」女性はどうやら本当に真面目なようだ。俺なら「掘った、飲んだ、寝た」の1行で済むのだが。

 「それより昨日は忘れていましたが、私はレイハ・ベローダといいます。人類学と考古学を学びました。」男を発見し、笑顔で自己紹介をしてきた。

 なんだ、俺よりよほど優秀じゃないか。と言ってしまえば嫌味になるので黙っていたが、その代わりに「まずはメシを食いたいから、屋台でも行くとしよう。ベローダさん」

 そう口にして思い出したのが、イムラビ・ベローダ博士の名だった。

 「もしかして父上はベローダ博士なのか?」忌むべき存在、憎むべき男、物理学の権威ベローダ。今では感情は感傷に消化され、心を動かされることも無いが。

 「はい、イムラビは私の父になります。シャレムさんにとっては聞きたくない名でしょうけれど・・・」申し訳無さそうに女性は述べた。

 「問題無いよ、博士は正しいことを行っただけだからな。」

 それにしてもおかしいのは、あれだけ否定した論文を何故ベローダ博士は書斎に置いていたのだろう?本人に尋ねられるのなら1週間の旅程など気にもせず行けるのだが。

 「実は、父はずっと考えていたようなのです、ご存知だとは思いますが父は物理学者で考古学は専門外なのですが、何故か書斎には歴史の本が大量にありました。公式を導き出す為に晩年には数学も学んでいたようです。」

 興味を持っていたどころじゃない、もしかすると証明しようとしていたのか?一笑に付し、完全に否定した異常な研究を。男はしばらく呆然としていた。

 そして、シャレムさん、と呼ばれ我に返った。

 「そうか、アプローチを変えて時空の歪みから計算すれば。」そういったが、自分はもう研究者ではないのだった。そして

 「博士がそんなことをね」こみ上げてくる複雑な感情を一言だけで片付けた。


 朝食ついでに人夫募集所にも寄り、ひと通りの書類に目を通したのち宿探しを始めることにした。この街に来た時よりはだいぶ荷物が増えているしゆっくりと腰を落ち着けるためにアパートにでもしとこう。金のある内に確保したほうが良いだろう。

 「アパートを探そうと思うのだが、構わないかね?」と女性に聞き、自分の部屋があれば飲み屋で話す必要もなくなる。「あんたは当分俺につきまとうんだろう?知識欲だけでこんな街まできたんだ。休みの日くらいは話せる準備はしとくよ。」と言うと

 「そうですね、父の研究のどの部分を刺激したのかと、もちろん考古学的な経験もお聞きしたいと考えています。」ニコリと笑顔を出されては皮肉を言う気も失せてしまった。

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