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遺跡の目  作者: 朝倉新五郎
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石ころ

 「オヤジ、俺の部屋だが明日の朝出ることにするよ。このお嬢さんの様子じゃ付きまとわれかねないからな。次の現場を決めるまではもう少しマシな宿で寝起だ。」


これは男なりの気遣いなのだが伝わることはまず無いな、とは思った。女性の次の問いはわかっていたか

らだ。


 「おうよ、そのねーちゃんとシケ込まれたら天井が抜けちまわぁな、けど酒はここに飲みに来てくれよ!先生さんよ!」下品にもすでに慣れてるが、店主の最後の言葉に反応した。


 「先生はやめてくれよ、俺はモグラ稼業が性に合ってんだ、昔のことなんか・・・」まぁいいか、いつもの冗談だしどうでもいいことだ。先生だろうがモグラだろうがなんだって一緒のことだ。


 「さてと・・・」と、女性のほうに目をやり「注文はしないのかい?着いたばかりなら腹もへってるだろ?こんな店だが料理はそこらの上品な店よりは美味いと保証するが食うかね?」


 「お薦めはクライルジャムのパンとロースト肉だがどうする?」酔っているからか話し相手が欲しいからか。「先に言っとくが、今日はこれ以上の質問は無しだ。あともうひとつ、今日は俺のオゴリでいい。」懐具合がかなりいいからな。と酔った男は女性をまっすぐ見て言う。


 「旅費なら私も・・・」と女性が言うが早いか「俺のくだらん論文を読んでくれた礼だ!」ちょっと酔いすぎたか?と思いながらも男は言い放った。


 では、ということでその日の夜はほぼ変わりなく過ぎていった。


 ただ、散り散りになっていた客達が近くのテーブルに移ってきていることだけは除いて。


 店も終わりかけてそろそろ寝る時間になり、支払いのために今日貰った少し厚めの札束から1枚の100デナル札を上手に引き抜けずにコロリと石ころを床に転がしてしまった。


 「あ、」とだけ女性は声を出し、その石ころを拾って返してくれた。


 「これは?」と訊かれたが「ん、まぁその、なんだ、なんとなく持っていたいって思ってな」瞬間「しまった!」と男は声に出さずに頭の中で叫んだ。


が、「ちょっとした重石のようなもんだ、札押さえさ」と切り返した。


時すでに遅し、女性の目に疑問の歌が満ちていた。「明日はヒマなんだが、それに今日は、質問は無しってことだったよな。」頑なを通そうとし「んじゃあ明日からは職探しにでも付き合ってくれるか?」と冗談めかして男は女性に少しの希望を与え、2階の宿へと登っていった。


 「あぁ、この街じゃ女性独りの夜道のひとり歩きは安全だから送る必要はないよな?」と階段の途中で言ったが他の男連中が「たりめーだ!」と一斉に合唱したのでそのまま自分の部屋へと帰ることにした。

 やれやれ、明日からの日々が思いやられる・・・とだけ呟いて。

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