胎動と不可知
ここはどこだろう?とその存在は目を瞑りながら考えていた。
意識の芽生えは早く、温さの中その存在は考えた。
「レイハ、今日は収穫があったんだぜ?ほら、これ。教授から渡されてね。」と男は石を目の前に差し出してみせた。
「また石があったの?3つ目ね、他の二つと共通点を探すのね?」レイハは男の持ってきた石を見ながら「いつも通り見た目は普通のただの石のようね」と言うと、急に意識の糸が切れたかのように男の方に倒れこんできたので、慌てて支えると「なんだか目眩がするわ、横になっていいかしら?」と言うのでベッドへ運び「貧血か?何か違和感は?」と男はうろたえた様子でレイハに尋ねると
「空を飛んでるような感覚ね、浮遊感かしら大丈夫よ安心して」とこたえが帰ってきた。
「そうは言われても安心出来るかよ、ユイリも用事で出てるし今日は此処に居座らせてもらうぜ?」と身重の婚約者を寝かせ、自分のアパートから荷物を取ってくることにした。「30分だけ待ってろ、すぐ戻る。動くなよ?」と言い残し足早に、というより駆け足でアパートに向かった。
男はアパートに到着して、予めまとめてあった資料と石ころ2つ、それに少しの衣類を大き目のザックに詰め、来た時と同じようにレイハのアパートへと戻った。
往復で大体15分、新記録を出したが男は肩で息をしており、まるで大事のように慌てた様子を見てレイハはクスクスと笑った。
「大丈夫って言ったのに、貴方ってそんなに心配性だったかしら?もっと豪胆な人だと思ってたのに・・・」と言われかけたが「女の体はわからん、俺は医者じゃねぇし、問題無くても大体のヤツはこうなるはずだ」と畳み掛けた。
「そうね、貴方は自分が信じられる事しか信じない。誰になんと言われようと、常に自分にとっての最善を尽くす人だったわね。そういうところ、私好きよ?」とレイハに言われ、男は息を整えながら「それじゃまるで頑固者って言われてる気がするぞ?」と答えると「あら、そうじゃなかったの?」と返されて「まあいい、お前は寝てろ」と荷物をテーブルに置き、「ユイリが夕方来るはずだし、診てもらえ。医者に行くほどのことでもないんだろ?」と、改めて自分の人生の破壊者であり構築者に向かって、言われる前に言われそうなことを先に言っておいた。そして、いまさらながらにユイリの有り難さを確認したのだった。
ゆっくりと日々が過ぎてゆき、ブラハムはさすがと言うべきか解読法を数種類試している段階となった。ただ、男には全く解らない解釈での解読なので質問すら出来ず、旧友の作業を横目で見るのみであった。
当然男には男の作業があり、教授の資料や各国から送られてくるFAXをカガリや新しい助手と共に片付けながら、時折説明を求められそれに応えるというなんとも気長な仕事内容だ。ただそんな中でも気楽だったのは、対外交渉や訪問者の相手はカガリと新しい助手が行ってくれることと、勝手気ままにだがレイハもやってきては助けてくれるのだった。
考古学を修めたレイハに理由を訊ねるのはおかしなことであるが、教授からの提言でもあり、研究室に来たい時に来ても良いとのことで、無給ゆえに作業は書類整理程度でほとんど行わないが、教授の書棚から好き勝手に書物を取り出しては男の帰り時間に合わせて帰るという暇を持て余したような時間の使い方だった。ただし、レイハが研究室に来た日は不思議と作業が捗るので、男は自分の作業を行いながら見物していると彼女は整理整頓が異常と言える程上手く、結果として他の作業が滞り無く進むのであった。
教授もその点を分かったようで、レイハの来ない日は男に「今日はレイハ君は遊びに来ないのかね?」と訊ねるようになっていた。そして、後で気がついたのだがレイハが来た日の日当は5割増しになっていたのだ。「遊びに」来た上に勝手に書籍を読み、2時間程度「働く」だけにしてはえらく待遇の良い仕事だ。そのことを教授に言ったのだが「これらのファイルはほとんどがレイハ君の仕事の結果じゃぞ?その上、電話の取次までしてくれる。いっそ秘書にしたいくらいじゃよ」と笑い「ワシの先手先手を取りよる、シャレム君は尻に敷かれるのじゃろうのぅ」と不敵な笑顔でかわされたのだった。




