望みの物
とうとう男の探すべき場所は無くなってしまった。そのつもりなぞなかったのだが、綺麗に砂と砂利に分けられた小山が2つ出来上がった、それが半月の作業の結果であった。わかっていたことだが、と男は頭を掻き出来ること全てをやりきった、それだけが疲労の中に少々の満足感を混ぜてくれていた。
「さて、教授に報告に行くか」と、この時間なら街へ戻るトラックに便乗出来るな、と考え他の発掘現場を眺めてみた。
さほど遠くない場所に明らかに荷運び用のトラックが走って来たので、そちらの方にゆっくりと歩いて行った。
資材を持ってきたようで、男達が荷台から鉄管やらロープやらを下ろしている姿を確認し、運転手と話しをしようと探し始めた。
「すまねーが、街に帰るなら同乗させてくれねーか?運転手は誰だ?」と声を掛けると意外な人物からの返事があった。
「ファレスじゃないか、久しぶりだな」資材を運ぶ先を見ていた男は後ろから届いた聞き覚えのある声で振り返った。「ブラハムか?大学に残ったんじゃなかったか?お前」と男は二度驚いた。それは男の大学時代の同級生だった。
「それがな、この現場から解読不能な文字らしきものが出たと聞いて飛んできたんだ、俺の本来の分野だからな。しかしお前・・・なんだそのナリは」と言われ「まぁ、好きなことをやるとこうなるんだ、知ってるだろうが」と旧友と拳を合わせた。
「それはそうと、此処で見つかった例の棺の文様の話しだな、このまま教授の所に戻るのか?」と尋ね「そんなところだな、興味があればそこへ行って見ろ。お前の言葉じゃないか」と旧友は答えた
「そうだったな、しかし研究一筋のお前が現場に来るなんざよほどの興味を持ったか?」等々久しぶりに会えた友人と話しを交わした。
「そろそろ、資材の載せ替えも終わったし帰るが、教授の研究室に行くなら乗って行けよ」と言われ帰路についた。
二人で教授の研究室に向かう途中の棺の置いてある広間を見て、画一的だな、俺の目的の物はどこだ。という独り言を聞こえていないふりをし、二人は研究室に入っていった。
教授は二人を見て「よく来てくれた、レトロガ君。シャレム君と一緒とは説明が楽で助かるが、シャレム君の方はその様子じゃと空振りかの?」と言いつつ手招きされたので二人は教授の机の方へ向かった。
「こちらはブラハム・レトロガ君と言って考古学と古代言語のスペシャリストじゃ、そして・・・」と教授が男を紹介しようとしたが「大学の旧友です、確かに古代言語に関してはコイツの知識は役に立つでしょう」と先手を取ったのだった。
「ふむ、ますます説明が楽になるのぅ」と微笑み、教授は一部の説明を男に任せようと考えているようだった。
少し説明をすると教授は「あとはシャレム君が知っているので彼に聞いてみてくれるかの、わからんところはワシに」と男が教授の助手であることを思い出させ、知っている限りの事柄を「石ころの件」以外全て旧友に教えていった。
「ところでシャレム君、ベローダ女史は今日は一緒じゃないのかね?」と訊かれたので、朝から調子を崩していることを伝え、早目に切り上げたいとも頼んだ。
「かまわんかまわん、今日明日解けるようなものでもないからのぅ。女史によろしくと伝えておいてくれるかね」と気を遣われたのと旧友に彼女のことが早くもバレてしまったことで赤面を隠すのに少し苦労することになった。
「ベローダ?あのベローダか?」コソコソとブラハムが聞くので全て話して早速例の一対の棺に案内した。案の定旧友は「なんだこれは」と驚きそして非難するかのように「こんな面白い物を教えてくれない奴が友人とはね」と皮肉を言われた。
「俺は別の作業があったんでな」と本当とも嘘とも言えない言葉で言い返した。
そうこうしていると教授が部屋から広間に入ってきて「そうそう、知らせ忘れておったが、後から出てきた棺のほうが50年程古いそうじゃ。副葬品の整理はまだやっておらんので気になる物があれば言ってくれるか」と言うと、棺の中を指差し「これとかの」と棺の主の足元にある玉を教えてくれた。
「あ!」とだけ男は声を上げそれを手にとった。瞬間悪戯っ子のような表情の教授を見やり「調べさせてもらっても良いですか?」と頼んだ。
答えはYESであり、教授も一昨日見つけたもので男に最初に教えようとしていたらしかった。
その二人のやり取りを聞いても居ないかのように男の旧友は2つの棺を見比べ、資料を集めながら子供のような顔で作業にとりかかっていた。
男は彼がそうなると徹夜も平気で集中することを知っていたので「初日から無理はするなよ」とだけ言って、その日は早目に切り上げレイハのアパートへと向かった。




