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遺跡の目  作者: 朝倉新五郎
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叡智と自分と

 しばらく心身共に休ませて、起き上がる頃には男は充実感を味わっていた。粘り勝ち、と教授に言われたが古代の叡智との勝負はひとまず1勝である。

 と思ったが「待てよ」と浮き立つ気持ちを押し殺して一考してみることにする。

 もし作業主任が自分で無かったら、自分がこの一連の墳墓群に関わっていなければ、上部から出てきた棺に文様がなければ、もしくはあの棺が本物であったなら。結果は小規模な墳墓群の発掘場所にとどまっていたに違いない。

 男の背筋に突然悪寒が走った。

 「俺が居なければ発見できなかった。」そのことがもし予定されていたことであったなら?決められた道を歩かされていたことになる、自分の意思ではなく誰かの思惑に沿うように古代から定められていた必然。

 それにはまずあの棺自体と埋葬者が何者なのかを知る必要がある。男はテントを出てすぐ棺に向かった。

 「何か新しい情報は出ましたか?」とルーペで表面の観察をしている教授に話しかけた。

 「シャレム君か、今のところ新しい情報は無いが、上から出てきた棺と見比べているところじゃ。まだ開けとらん」2つ並べた棺を見比べてみると色以外ほぼ同じ様に見えた。例の文様か装飾も見た限りは同じである。

 「材質が違いますね」と男が言うと「おそらく斑糲岩と泥岩じゃな。上の偽物とは趣向が違うが、こいつははっきり言うと特別製というところじゃろう」

 「以前の現場をだいぶ留守にしてしまったので一旦戻ってもよろしいか?」特に新しい発見は無いだろうとは思うが、状況は確認しておきたいのだった。「ただ、教授・・・」と言いかけた時に「もちろん開ける時は来てもらうがの」と切り返され「お願いします」とだけ言い残し男は荷物を持ち歩きだした。


 以前掘っていた現場に到着すると、既に掘り出されていた。他の多くの棺と同じ、そう、全く同じものがそこにはあった。

 「カガリ博士、どうでしたか?」とたずねると、メガネの助手は「うん、棺内の副葬品、様式全てが今までのものと同じだね。どうやら向こうだけが違うらしい。」この場所を含め、他の墳墓調査は一旦小休止になるかもしれない。と聞かされた。そして

 「全ては必然、か。頭の痛い問題だよ、ほんとに」教授から聞かされていたのか、カガリ助手も自分の説はおぼろげに知っているらしい。

 「じゃあこれを閉じて、運ぶのは明日にしよう、私も例の特別製を調査したいからね。」そして「手順はいつもどおりなので頼めますか。」と言い置いて男が今来た道をそのまま戻っていった。

 「じゃあやっちまうか、ガルフ。」自分の抜けた穴をしっかりと埋め合わせしてくれた作業主任代理に微笑んで明日の移動作業の準備を整え一息ついた。そしてガルフを見て「今日は一杯おごるよ、ブルク酒だったな」レイハに連絡してくれた礼のつもりだった。

  屈強という言葉に姿を与えればこうなるだろう、といえるほどのガルフは「体が商売道具なんだからよ、無茶しちゃいけねぇぜ?シャレム」と言い、体に似合わず繊細な神経の持ち主だということを改めて教えてくれた。

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