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遺跡の目  作者: 朝倉新五郎
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偶然と必然

 予定期間は2週間、それで出なければ俺の負けだ。そう思いながら男はシャベルを地面に突き立て続けた。この場所の地質学的な調査ではあと5メートル掘れば水脈にあたってしまう。そこから下を掘っても意味は無い。

 男が休みなく掘り続ける間に例の「棺のレプリカ」の調査も同時に始まっていた。簡易テントはすぐ近くに移動され、何か新しい発見があればすぐに男にも届くように手配されている。

 水脈まであとすこし、というところで男のシャベルが止まった。棺ではない、ありえないものが出てきたのだ。

 岩盤、この地域ではそんなものがこの場所に有るはずがない。何かを封じるためかも知れない。男は教授にその件を告げ、横方向に掘ることの承諾を得ることにした。

 だが、地質学者からクレームが出たのである。地層は一定の範囲までで変化がないとのことだった。小さな穴以上の岩の板が入るはずがないということだ。

 つまり、上流から流れてきた巨大な岩がこの穴の終着点だと。

 男は地質学者と言い合いになったが、結局教授の意見を聞く他に道はない。スポンサーの意見は今も昔も絶対なのである。

 「これは意図的に仕組まれた罠だ。」というのが男の意見だった。現在の知識と機材を考えると、ここで岩盤が出てくれば発掘は中止になるはずだ、という矛盾した答えが男の主張する根拠だった。「未来を見通せるならここで終わらせることは確定的事実として成り立つ」しかし、だからこそ掘る、と言うのが男の意見だった。異端の研究者としての確信。それが教授に通用するか、賭けに出た。どちらの意見が常識的なのかは明らかで、調査中止が目前に迫っていた。


 深い穴から地上に上がり、肩で息をしながらどうにかして説得しなければ、と教授のテントに入ったが、教授は地質学者に説得されている最中だった。

 「シュメール人、海の民、アレクサンドロス大王、カエサル、ムハンマド、チンギス・ハーンかね?」挨拶もせずテントに侵入した男に対し教授はそう述べた。「続けなさい」

 「は?」男は肩透かしを食らったように呆けた顔を見せたが「歴史は必然なのじゃろう?」と言われ「俺が考えるところでは、です」と答えた。

 「では、続けなさい、岩盤の下まで迂回する道を探せばいいじゃろう?」簡単に言うがそれでは予定期間を1週間以上超えてしまう、危険度も人夫も資材も大幅に上がる。「例の棺じゃが超音波スキャンの結果が出た、フェイクじゃよあれは」

 男はこの人物を見誤っていた己を恥じた。「ありがとうございます、必ず結果は良い方向に出るでしょう」礼の言葉もそこそこにすぐ男は穴の下に降りていった。

 おそらくこの厄介な岩盤は斜めから入れられたものだ、そうまでして守る人物とは一体誰なのか。そしてこの下には何があるのだろうか。男は自分が偶然に出会った墳墓の異様さに身震いした。

 方向を誤ることはおそらく出来ないだろう。男はその時モグラから研究者に戻り、知識と経験を駆使して掘る方向を探すことにした。


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