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遺跡の目  作者: 朝倉新五郎
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変った棺

 ひと通り過去の資料を見終わり、パターン化の同一性を確認すると、男は頭の中で言葉をまとめながら教授の居るはずのテントへと急いだ。郊外へ出る前に日頃の癖で少しの間人夫募集所に立ち寄ってみた。今の現場より魅力のある場所は無いか、ただそれだけの単純な理由からだった。しかし、男が見つけた急募用の張り紙台に載っていたのは、こないだの棺の開封の仕事であった。

 「開封?」と首をひねり、しかし行き場所は同じ場所だ。と何も考えずに教授の下へと先を急いだ。

 たどり着いた良く知っているテントの外側で教授はうろうろとあてもなく歩いていた。「思索中か」と声をかけるのをためらっていると「シャレム君か!?」と向こうから捜し物を見つけたかのような声で呼ばれて少し男は驚いたが「はい、お話が・・・」と言いかけるやすぐに「募集所からかね!?」と訊かれ「はい、習慣で立ち寄りましたが」最後まで言葉を言わせないぞ、とでも思っているのか「そうかそうか、開封の件なんじゃが、君の目に止まるように急募にしてもらったんじゃが、そうかそうか」明後日の方向を向いた話に男が戸惑っていると教授が見た覚えの無い速さで語りだした。

 「つまり、継ぎ目が無いということですか?」男はだらだらと語る老人に窮屈を覚え説明の途中に割り込んだ。

 「そうなんじゃよ、つまり・・・」また教授が説明しだしたので「私の過去の資料を読み返したのですが、共通点がいくつかあります」と、再び止めた。無礼は承知の上のことであるが、興奮した研究者ほど厄介な者は少ないので仕方のない処置だと自分を納得させた。

 「ふむ?」とやっと話が止まったので男は語りだした。

 「アッシリア?しかし時代が全く違うじゃろう?」顔を赤らめて呼吸困難になりかけていた初老の教授は男の説明にしばらく耳を傾け、そう答えた。

 「博士、あ、いや教授、私はインダス、シュメール、ミュケナイを専門にしていたのですが、その後一つの解にたどり着きまして。」とうとうと男は半日以上かけて調べた事実を語ると。

 「なるほど」と一言言われたきり、また話を戻された。「棺が開かないんじゃよ」

 さっきから何度も聞いたよ、と飽き飽きしながら教授にその場所まで連れて行かれた。もう散々だ、開かないならくさびでも打ち込めば良いのに。と考えながら以前目近で見た棺をもう一度目の前にすると、教授の言いたいことが理解できた。

 「重量は石の成分から算出しましたか?中が空洞ではないと言い切れる根拠は?」男はモグラから研究者に戻ってしまっていた。

 「砂岩だとするとじゃな、空洞は無いことになる。が、この棺らしきものの表面はコンクリートかもしれんのじゃ。一部を削ってみたが中身は花崗岩らしい。」

 男は驚愕した、古代コンクリート?花崗岩?なにもかもが今までと違う。「教授、古代コンクリートの技術は時代的に合いますが、花崗岩ですか?」

 「そう、これは偽装か装飾か・・・」教授が話しだしたが「開けましょう」と男は言った。

 「破壊は出来ん」教授の目は真剣だったが「棺で無いなら・・・」男は教授の言った「偽装」という言葉に気がついた。

 「教授、掘りましょう、あと5メートルだけ」男は言った。

 もしこれが偽の棺だとすれば、他の場所で出てきた棺も偽の棺かも知れない、あの画一化された副葬品と人骨は「本物を隠すために人為的に配置されたもの」と考えられなくはない。

 「教授、私に掘らせてください。」男は脅迫にも似た願いを告げた。


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