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遺跡の目  作者: 朝倉新五郎
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研究の橋

 「いつも一緒だな、お二人さん」冷やかしの声が「辺境亭」で聞かれた。それはそうだろう、しかし断じて自分の意思ではない。

 「オヤジ、俺はいつものをくれ」男は単純明快な注文をし「君は何を食う?それとも飲むか?」この言葉が後にとんでもない結果に導かれる最初のそれだったことに気付くのは全て終わってからなのだが、ともかく気軽に口にしたものだった。

 その日の夜、二人は初めてひとつの部屋で眠ることになった。ただし、男にとっては人生でも数少ない、いや、最悪の夜だったということだけは間違いなくいえた。

 「今日が休みで良かった」と思いながら、昨晩の出来事を整理していると「おはよう・・・ございます?あの・・・昨日何か」と言われかけた時に、男は固いソファの上で横になったまま「あんた酒癖悪すぎる」とだけ答えると、レイハは顔色を変えて「申し訳ありません!またやってしまいましたか。」と溜息混じりに、だが慣れたように言った。

 「店の酒全部飲む勢いだったよ、力自慢の大男連中のあっけにとられた顔ったらなかったぜ?」思っていた台詞と違っていたのだが、男は何故か楽しくなって数年ぶりに大声で笑ったのだった。

 それを見て「実は、いつものことなのです」悪びれたふうもなくレイハはさも普通に答えた。


 二日酔いは無いようだな、酒も残っている様子は無いし、大した女傑だ。これなら放っといて課題に取り組める。あの文様が文字であるなら、と開いたノートに石摺りが数枚挟まっているのを確認した。

 確かにあの模様には見覚えがある。教授には自信がなくて言えなかったが知っていた、いや、知っているはずなのだ。

 

 「貴方って女性に恥をかかせるのを好むのかしら?それとも私に興味はない?」唐突に発せられた言葉の方向に振り向き、少し首をかしげ横に振った。知的にも身体的にも魅力的なのは語るべくもない。男はただ単に没頭する分野を決めていただけなのだ。

 「軽口を言えない程度には俺は研究者の毒に侵されてはいないが、自分自身の決めたことには背かない。」確固とした意思をレイハに伝えた。

 「ストイックな人って私は好きよ?」と言われても心は動かなかった。その代わりに「俺はどちらかと言えばエピクロス派だ、わかっているだろう?」と返した。

 とにかく、今日と明日は作業がないから確認すべきことを完了したい。と伝えると、意外にもレイハは承諾し「じゃあ、もう一度眠るからうるさくしないでね」と勝手な注文を口にし、自分のものであるはずのベッドを再度占領したのだった。

 男は気にもせずノートと資料を確認し続けた。長い一日には慣れていないが、どうしてもこれだけはモグラに戻る前に調べておかなければならない。我が身以外に初めて起きた事象と、証拠、それに以前研究していた内容の再確認。それだけで丸一日は掛かるだろうが、とにかく今はそれを行うのが自分の仕事だ、と感じていた。


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