傍観者
世界には色があるという。
「色とはなんだろう?」彼は考えた
考えて考えて、そして答えは出なかった。
彼は生まれつき眼を病んでいた。その右目はモノの形を、その左目はそれ以外の全てを観ることができた。
青を知らない者が青を教えることができぬように、赤を観ることのできぬ者が赤を知ることができぬように。説明なぞ出来るはずもなく。
ただ彼は他の者のみえぬ「モノ」をみることが出来た。それが幸か不幸かは別として、彼には見えた。誰にも見えないはずのものが。
今あるものをそのままに
伝えることを恐れることで彼は無言を通した。
この世界は偽りで成り立っている
それを伝えることの意味を知っていたから。
彼は答えない、答えることの無意味を知っていたから。
彼は初まりと終わり、悪意、真意、愛、憎悪
全てを観ることが出来た。
永遠でさえもその眼に映るのだ
深淵の恐怖が彼の心を幼い時期に壊し去り
己を造形するという作業にも慣れてしまっていた。
今日が始まった時にはすでに今日の終わりが見えている。
偶然そんな異形のちからを持ってしまった者ならば、恐らく精神の尽くを破壊され廃人同様となってしまうのだろう。
しかし、彼は幸運にも生まれながらにそれを持っていたがゆえに、地動説や進化論を知り神に対しての絶望にも似た感情を持たずに済んだ。
どのような形にせよ、己の世界は外の世界と繋がっており、しかもそれを凌駕していたのだから。