犬の気持ちに本気でなってみた男の話
「犬って何考えてんのかなぁ……。」
俺は今日で三十歳を迎えた。この機に、愛犬の気持ちを考えてみようかと思う。
俺は一人暮らしをしていたが、二年前、一時の衝動に身を任せてブルドックを飼い始めた。その時からの付き合いである愛犬「ソース」は俺の一人暮らしに花を添えてくれている。
「ソース」は俺の事をどう思っているのか。自分の名前がソースであることは不服ではないだろうか。俺はそんな気持ちでいつもいる。気が気ではない。
「……取りあえずドッグフード食ってみるか。」
俺はまず、そこで過ちを犯した。「ドッグフード」とは、犬の食べ物だ。基本的に、人間が食べる用には作られていない。結果。俺はお腹を壊す羽目になった。あと、美味しくはなかった。
「くそ、ソースにこんな物を食べさせていたなんて、なんて可愛そうなことをしていたんだ俺は、飼い主失格だ。もうソースにこんな思いはさせない。」
そして俺は、やってはいけない過ちを犯した。
ソースは、俺が良かれと思って与えた食べ物によって、死んだ。
「ソース……。」
俺は二匹目のペットとなる愛犬、ラブラドルレトリバーの「金閣寺」を飼った。
「金閣寺。俺はソースの死を、無駄にしない。」
俺は犬の気持ちになるために、ドッグフードを再び食べた。懲りてないという訳では無い。俺は人間と犬は違う生き物だということを知った。そのまま俺は、ひと月、ドッグフードのみを食べ続けた。何度も吐きながらも、それを続けた。
すると、俺の体に変化が起きた。正確には、異常が起きた。
俺の頭は、犬の言葉を理解できるようになった。もちろん愛犬の「金閣寺」の言葉だけ、だが。
俺は狂気にも似た喜びを噛み締めていた。
「金閣寺、俺、ソースに許してもらえるかな?」
―ソースって誰だ? そう金閣寺は言った。
「お前と一緒に住む前の俺の友達だった犬だ。俺が食べさせてしまった物によって死んでしまったんだ。俺のせいなんだ。俺が悪かったんだ。」
―許してくれるよ。そう金閣寺は慰めた。
と、彼は考えていた。とっくに彼の頭は壊れていた。
犬の声なんて、聞こえる訳がない。だから、「異常」だと言ったんだ。
それでも彼は今、幸せなのだろう。それならばいい。
ソースは最後も彼の幸せを望んでいたのだから。