第九話 兵(つわもの)どもが夢のあと……
前回とある意味繋がってます。が、主人公視点なので“彼女達”の運命をまったく知りません。
……世の中知らない方が良い事の方が多いんですよ…
「ね、あの娘達、HR学園に転入したんだって?」
「嘘っ!あそこって偏差値が……な、お馬鹿娘の掃き溜めじゃん!彼女達ってそこまで成績悪かったっけ?素行は最悪だったけど…」
「ま、E組の評判も平均点も下げてた彼女達だったから、担任の先生もホッとしたんじゃない?」
廊下で聞いた話。
ああ。また、誰かが転校したのか……。
2年の二学期以降からこの学校では脱落者が続出するらしい。授業について行けないとか、大学進学を諦めて専門学校に行くとか……
学区内屈指と言われるこのエリート校は、進学先の大学も学校で強制的に決められているのだ。
……あたしがヒロキ様に勧められた英国の大学はかろうじてお眼鏡に適ってたらしい
でも、それよりも気になるのは……
「ファンクラブ強制解散させられたらしいぜ?」
「おっかけのやり過ぎで会員全員が定期試験で赤点とったって?」
「ここは学び舎で“タレント事務所”じゃねーっての!それに、会員って文系クラス女ばっかだったよな?」
「せめて“王子様”にお褒め頂くよう、物理ぐらい頑張るっつーもんじゃね?」
「これでやっと少しは静かになるな」
「ああ。ただでさえ受験控えてるっつーのに。迷惑だったよなアレ」
「「「「そうそう!!」」」」
「あ~!せいせいした!」
「「「「同感!」」」」
男子達の中では不評だったみたいね。あの集団。
でも全員赤点だったから強制解散って……さすがエリート養成学校だわ。
何処まで行っても成績重視なのね…。
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「平和って良いね」
「?」
「あ゛~~~~っ!“ひと仕事”の後のフルーツ牛乳って最高だわ!!達成感と同時に味わうと癖になるね!」
昼休み、弁当を食べる前に腰を片手に牛乳瓶を絵に描いたような飲み方で一気飲みする結花。
ひと仕事って…さっき呼ばれて物理化学研究室に行ってたっけ?
飲み終わった瓶を袋に入れるとイスを引いて座った。
今あたし達がいるのは結花が所属する物理科学研究部の部室……第二実験室だ。
ホルマリン漬けの“みなさん”に見られながらの食事が平気になったあたし。
……慣れって恐ろしい
「結花、先生に何か仕事頼まれてたの?」
「ん……仕事っちゃあ仕事だね」
「言ってくれれば手伝ったのに……」
「まさか!しいちゃんの手を汚すわけにはいかないよ!」
「手を汚すって……拭き掃除でもしてたの?あたし、掃除は得意だよ?」
あたしの言葉に突然親友の手が止まる。
何?あたし変な事言った。
しかし、結花はすぐ様本来の目的を思い出したようで、机の上に置いてあるお弁当のふたをパカっと開けた。
手を合わせて「いただきます」と言ってから箸をつかみ、タコさんウィンナーを挟むと小さな口に放り込んで咀嚼し始めた。
「結花?」
「(もぐもぐもぐもぐ…………ごっくん)やっぱウィンナーは赤が一番!それにタコさんだったら言うことないね!って、ああ、掃除ね……うん。ある意味掃除って言うのかなぁ。
“アメシロ”と“アブラムシ”を撲滅してたの」
「わぁ~~~この季節でも“ヤツ”っているの?あたしアレ苦手なんだぁ……」
「そう?で、“先生様”も一緒に頑張ったんだよ」
「え?飯崎先生も?」
「うん。まぁ、正直に言えばあと“報道部”や“生徒会役員”、それと校長先生に副校長先生でしょ?それから教務主任の先生と学年主任の先生にも手伝って貰ったけど……」
「????報道部と生徒会役員?その上校長・副校長と教務主任と学年主任の先生まで?」
「うん。“理事会”を引っ張り出すにはソレしかないからね」
「理事会?!そんな大がかりな害虫駆除が必要だったの?」
そうだよね。一匹一匹やっていたんじゃ増える一方だから薬とか使って徹底的にやらないといけないんだよね…
そう言えばアブラムシは天道虫に食べて貰うと良いって、昔、お祖母ちゃんが言ってたな……
「大変だったね結花。これ……椎茸の肉詰め……で良ければ食べて?(ひょい)」
「わぁ~~っ!ありがと!しいちゃんの味付け私の超ど真ん中なんだよねっ!(もぐもぐもぐもぐ…………ごっくん)あー最高!んでね、“農薬散布”も手伝って貰ったから“二度と湧かない”と思うよ?」
「それなら安心だね。みんなここの金木犀を楽しみにしてるから」
「そうそう。“心を和ませる木”を維持する為なら…ね?さて、弁当に集中しようか。あ!しいちゃん、その信太巻美味しそう!このアスパラベーコンとトレードヨロ!」
ひょい
「あ……って!もう!味付けは保障しないよ?」
「(もぐもぐもぐ…………ごっくん)いやぁ~絶品かな絶品かな♪しいちゃん良妻賢母になれるね。煮物が得意な女房って最高!いつでもウチのアニかオトトのところに嫁に来ていいからね~」
「………また、冗談ばっかり…」
「んにゃ本気も本気!“アレ”に比べるとルックスは劣るがそこそこなイケメンだし、何より性格が従順だからお買い得よ?うちの兄弟。
ってな訳で“頑張ったご褒美”にこの肉団子とハンバーグもトレードね?」
ひょい
「あっ……!もう。結花のおかずの方が絶対お金と手間かかってるよ?」
「(もぐもぐもぐ…………ごっくん)これも美味美味。ああ!もういっその事お弁当毎交換しようね?」
「へ?…って!ちょっと……!」
抵抗している間もなく机の上のお弁当が蓋だけを残して前後入れ替わる。
結花のお弁当は確かおかかえシェフの手作りの豪華弁当だったはず……本当にあたしの“地味弁”で良いのかな……
「美味しそうだね~~」
「残念でした!コレ、全部私が“ご褒美”に貰ったんですよ~~っだ」
「くすくす……“俺には”無いのかなぁ…」
「ふむ。先生様も“一役買った”んだから褒美は与えられて当然か。んじゃこの卵焼きを進呈しようぞ」
ひょい
「(ぱく……もぐもぐもぐ…)ん…いい出汁加減だね…(もぐもぐもぐ……ごっくん)ごちそう様でした。姫、褒美の品、有難く頂きました」
「うむ。これからも任務に励むがよい」
「御意」
あたしを無視して交わされる謎の会話。
褒美って?任務って?
それよりいつの間にご学友様はここにおいでになられたの?
?(クエスチョンマーク)が並ぶあたしの頭の中。にもかかわらずあたしの弁当を平らげた親友は「満腹♪」と言ってうっすいお腹をさすっており、ご学友様は「今度は俺にもお弁当作ってね?」とウィンク付きで囁きながら去って行ったのだった。
親友とご学友様が“した事”に主人公は全く気が付いていません。
また、結花は昼休みに“彼”が紫苑に会いに来る事を予測して自分のテリトリーに連れてきています。(それも主人公はわかっていません)
しっかり“ガード”しつつ、ちゃっかり“報酬”を貰う、友人様お嬢様結花様なのです。