第七話 親友は腐女子な救世主
冒頭からいじめシーンが入ります。ちょっと長いです。
「天音さん、“また”留学するの~?」
「あら、違うわよ?天音さんはイギリスに帰るのよ。ね?そうでしょ?」
「へぇ~~。やっぱ日本の大学じゃ物足りないって?」
……久しぶりに来たな。三人娘め。
この娘達って飯崎先生のファンクラブを実習初日に立ち上げたんだよね。
で、そのご学友様……いや、今は飯崎先生にしておこう……は、あたしとやったファンダンのデュオ以来、何かと声をかけてくるのだ。
その噂を聞きつけて、こうして休み時間毎に別のクラスからやってきて(彼女達は文系クラス)はイヤミを言いまくってるって訳。
「さっすが帰国子女様よねぇ~」
「あら。天音さんは向こうの血が混ざってるんでしょ?」
「やぁだ!!それじゃ、“こんなとこ”にいるのなんて勿体無いじゃん!」
はいはい。さっさと“向こう”へ帰れって言いたいんでしょ?
あたしは単に元吹奏楽部部員だっただけで、勝手に向こうから近づいてくるんだっつーの!
悔しければ管楽器の一つでも演奏すりゃあいいじゃん。
あ、パーカスも大歓迎だよ?但し、ペットの飯崎先生との絡みは殆ど無いけどね……
何て事を心の中だけでブツブツ呟いてると……
「わぁ~~まさに王道!!お決まりの展開ってやつだ!
恋愛モノで出てくる“いや~な脇役”だよね。そういう事するのって!
で、だいたい彼女達って仲間でつるんでイケメンヒーローのファンクラブだか親衛隊だかを結成してるんだよね~~あまりにも行動が単純すぎて笑っちゃうよ…あははははは。
その上、性格が判で押したように皆同じなんだよ?
イケメンヒーローに、“自分こそがつりあってる”って“それぞれが思い込んでいる”ってのが笑えるよ。あはははは……一度ヒロインの悪口を言ってる時の自分の顔を鏡で良く見てみろってぇの!!
間違いなく!女子高生大好き!~な趣味の皆さんだって裸足で逃げ出すね!
あ!でも大事な盛り上げ役且つ、主人公の恋愛フラグ立て係だから、彼女達の存在って絶対欠かせないんよ?
なのにさ、ヒロインに散々嫌がらせしたあげく、イケメンヒーローに嫌われる…ってか大抵拒否られるの!!あはははは……報われないんでやんの!
彼女達はさ、主人公をいじめればいじめる程自分達からイケメンヒーローが離れて行くって現実が全くわかってないのさ!
イケメンヒーローからすれば“誰もそんな事をしろとは頼んでいない”ってーのにね?
でもさ、それが切欠となって目出度く二人は結ばれた……ってのがハッピーエンドの法則かな?
脇役雑魚娘達にいじめられ傷つく主人公を、絶妙なタイミングで現れ、愛しい彼女を救出し、優しく慰めるイケメンヒーロ……そして二人は固く抱き合い、単純でお馬鹿で集団行動しか出来ない根性無しの勘違いナルシスト娘達は地団太を踏んでくやしがるか、イケメンヒーローに完膚なきまでに叩きのめされるのでした……ちゃんちゃん……って、あれ?貴方達どーしたの?」
いきなり登場したかと思うと一気にまくしたてる結花。
そんな彼女のマシンガントークに、金魚のように口をパクパクするか石化している三人娘。
……怒っていいのか落ち込んでいいのかすらわからないらしい。
すると…
パチパチパチ
「ヒロインを救出するのはヒーローの義務!!登場遅すぎですよ?飯崎先生」
「でも、僕の出る幕無かったよね?えっと……君達は……ごめん名前覚えてないや。
でも、ウチのクラスじゃないよね?早く自分達の教室に帰りなさい」
いつの間に教室に入って来たのか白衣姿の飯崎先生が、笑顔で拍手をしながら何故か背後にブラックホール(…って、それが見えるのはあたしだけ?)を背負って現れたのだ。
しかも優しい中にも刺々しい言い方をされてるし……
「「「////////は…はい///////」」」
あ~あ。先生の眩しい微笑を直に見たから、脳内が麻痺しちゃってるよ。あれだけストレートに“部外者は出てけ”って言われてるのに……
「……ホント。単純でお馬鹿だから憎めないキャラなんだよね」
催眠術にかかったようにスタスタと教室から出ていく三人娘達を見て、結花が呟いたのだった。
********
「ところで、しいちゃん?私に何か内緒にしてる事なぁ~い?」
「へ?」
「ヒロ&ソウ……6年前、彼らはこの学校に入学するやいなや生徒役員に立候補し、新入生ながら会長・副会長の座におさまった。
それから彼等の快進撃は始まった。まず、無駄の多かった校則の整理及び改正。名ばかりだった風紀委員会の粛清。生徒会費の運営方針の決定、他校との交流、校内・外の治安維持の為のパトロール要員の確保等など………会長は天音 拓海…たくみとかいてヒロキと読む……で、副会長は飯崎 颯馬。
これってしいちゃんのおにーたまと飯崎先生の事でしょ?
確か二人とも吹奏楽部に所属していて、全国大会で優勝してんだよね?」
「…………」
「今規格外のイケメンティーチャー見習いの高校時代ってどんなだったんだろうねぇ……」
「……………(大汗)」
「きっとそこらの女生徒よりも女子度が高い女顔で、スラックスよりもスカートが似合いそうな美少年……ってところ?いや、案外セーラーなんて着ちゃってたりして。
でさ、言葉遣いもオネエで「そんな事無かったよ!」……ふぅん。やっぱ会ってるんだ?」
わぁーーーーーーーーーーーーーっ!あたしの口の馬鹿っ!!
「さ、正直に洗いざらいはいて貰おうか?」
「う……わざと黙ってたつもりじゃなかったんだけどさ。ヒロキさ…じゃない…あっ…兄の、コンサートの時に一度だけ……」
「ほぅ……で?」
「控室に差し入れ持ってった時、ひっ…一言二言交わしただけだよっ!」
「で?」
「で?…って。だ・か・ら!あの日以降会ってないのっ!!」
「ふぅん……やっぱ綺麗だった?」
「そりゃあもう!!髪なんかつるっつるのさらっさらでシャンプーのCMに出て欲しいくらいだったよ!
目がちょっと垂れててでもおっきくて、睫毛なんてバッサバサでさ。
その上、背が高くて腕と脚が長いから制服がめっちゃ似合ってた。勿論セーラー服だって似合ったと思うよ?」
「へぇ……見惚れちゃった?」
「もち!!だって“後光”が差してたんだよ?2ndペットも最高だった!区民ホールがどこかのライブ会場かと思うくらい会場が盛り上がったんだよ!とっても恰好良かったんだよ!」
あたしは当時の事を思い出し、気が付いたら止まらなくて、大事な部分を強調するように力説していた。
すると……
「やっぱり王道パターンだったね!それってしいちゃんの初恋でしょ?で、つい最近初恋の君に再会した…と。次に来るのは初恋の君による主人公への思わせぶりなアプローチなんだけど……」
「………あんまりアプローチ受けたくない」
「ほぅ?何か“やんごとなき”理由があるのかね?」
「………実は……」
あたしはお兄の命令でやった事や、コンサートの後、別人になりすましたまま飯崎先生とデート紛いのお出かけをした事などを話した。……スウェーデン語で告白された事も
結花は特に何を言うでもなく、ただ、黙って聞いていてくれたのだが……
「しいちゃんが自己紹介の時にどっかの国の言葉をちょろっと話したけど、それってスウェーデン語だったんだね」
「うん。当時の事を思い出したら咄嗟に出ちゃった」
「そっか。しいちゃんがこれ以上飯崎先生に近づいて欲しくなければ、私、助けたげるよ?」
「え?」
「主人公はちょっとミステリアス部分があるのが良いのさ!彼女が逃げれば逃げる程“雄の狩猟本能”が刺激されてイケメンヒーローが追いかける!これぞ王道中の王道ってやつ?
ま、教育実習終了まであと数か月。この結花様がいたいけな白羊ちゃんを腹黒狼から守ってあげるから大船に乗った気でいなさいな!」
小さな手でドンと胸を叩く結花はとても頼もしく見えて……
「頼りにしてます」
親友の言葉の中にいくつか気になるワードが含まれていたけど、あたしはそう言って彼女に頭を下げたのだった。
結花の腐女子度を上げると共に、颯馬の腹黒さをちょこっとだけ表現してみたつもりです。