第五話 酒は飲んでものまれるな2(颯馬side)
前回サブタイトルに関連した内容が出てこなかったので、変に思われたかもしれませんが、今回の話ででソレがおわかり頂けると嬉しいです。
颯馬sideの話が続きます。今回は少々短めです。
「で、どう言う事なの?」
「…思ったより早かったな。そうだ。ラウラ=(イコール)紫苑だ。ついでにジェニファーもあいつだ」
俺はその日の晩、奢るからと言ってヒロを呼び出し、行きつけの居酒屋の個室で飲み食いしている。
そしてタイミングを計って“レイの”事を聞いてみた。で、返ってきたコメントがコレだ。
「ジェニファーってちょっと頭の悪そうなアメリカ女の……」
「ああ。紫苑には色んなタイプの女をやらせてみたんだ。お前には会わせてないから知らなかったとは思うが、他にも『堅そうなジャーマン娘』や『情熱的なラテン娘』ってのもやらせたな……」
全くの無表情でつらつらと過去の悪戯……にしちゃ彼女への被害が大きいが……を今さらながら自白する相棒。
俺はヒロのグラスに酒を注ぎながら今日あった事を話した。
「実はさ、今日部活でヒロの妹……紫苑ちゃん…?…と合わせたんだ。彼女のペット、ヒロ仕込みだよね?」
「ファンダンか……懐かしいな。ああ、何だ、紫苑のヤツ俺のメール見てなかったのか」
「メール?…って!もしかして……昨日、俺に、今週と来週のスケジュール聞いたのってその為とか言わないよね?」
「よくわかってるじゃねぇか」
相変わらずの無表情でアルコール度数が高い酒を美味そうに飲むヒロ。
あまり表情に出ないけど、今日はどうやら機嫌が良さそうだ。
タイミングを見計らって、俺は一番聞きたかった事を質問してみた。
「何で俺達に紫苑ちゃんの事を一切明かさなかったの?どうして、わざわざ別人に変装させた彼女ばかり会わせたのさ?」
すると、ヒロは一瞬考える表情を浮かべ、箸とグラスを置いてからポツリと話し出した。
「………紫苑は近所のガキどもや学校の連中からいじめられてた。その容姿のせいで。
ひいじーさんの姉……十代の頃病気で亡くなったんだが……に瓜二つのアイツは、幼稚園に入った時から浮いていた。保母のヤツでさえアイツを腫物にでも触るように扱いやがった。
小学校に入る時、紫苑は親父に執拗に眼鏡をせがんだ。視力が悪い訳でも無いのに分厚いフレームのだっせえ眼鏡を欲しがったんだ。勿論、伊達だ。
そしてやたらと前髪を伸ばして顔を隠すようになった。背が高いからと、わざと猫背で歩くようにもなった。
……俺はアイツに自信をつけさせたかった。背筋を伸ばしてどうどうと街を歩かせたかった。
顔をあげて人の目を見ながら話をさせたかった………それだけだ」
いつもの無表情を崩し、苦笑を浮かべながら話すヒロは、“妹を心配している兄貴”の面をしていて…
「でも、それにしたって俺にだけでもラウラの正体を教えてくれても…」
「なら聞くが、ソウは信じられるのか?お前らに会わせた、あの“彼女”は普段はランドセルを背負ってペコちゃんみてぇな頭をして制帽を被って小学校に通ってたんだぞ?」
「………そう言われれば自信無いかも…」
「だろうな」と呟いてソウはグラスを持ち上げると、ソレをぐいっと一気にあおった。
そしてグラスを置いてから両手で拳をつくりテーブルを叩く。
「だが!!!」
バンッ
「もう少しでアイツは見た目と年齢が追い付こうとしている!!」
「うん。そうだね。だから俺彼女と「あと3年待て!」って?!どうしてさっ!!」
「紫苑は……まだ、初恋しか経験して……ない………それと………zzzzzzz」
って!ここでつぶれちゃうって有り?
もしかして、ソウ、めっちゃ酔っ払ってた?だから普段より口数が多かったの?
いや!それよりも!!『あと3年』って何だよっ!!既に6年も経ってるんだよ?!
『それと』の続きは?!まだ彼女に何かあるの!!
超高級ブランデーや高価な日本酒の瓶ばかりが転がる畳を見ながら、俺は今度ヒロと飲む時に『自白剤』を用意しようかと思ったのだった。
紫苑の悲しい過去……って言っても大方予想通りだったと思います……が出てきました。
俺様でもヒロキはちゃんとお兄ちゃんしてたんです!何しろ作者の中で“彼”は“隠れシスコン設定”ですので、可愛い妹の初恋もちゃんとチェック済みなんですね(笑)
ちなみに、ヒロキが“アレ”と言っていたのは“ラウラ”に化けていた主人公が颯馬に告白された事でした。
次回からは主人公sideに戻ります。ヒロキに振り回され、初恋の相手である颯馬と急接近……ハラハラドキドキな紫苑の苦労は続きます。
ホント、俺様と腹黒がタッグを組むと最強ですよね……。