第二話 初恋は忘れた頃に……
一気に6年後まで話がとびます。
「今日から教育実習の先生が来るんだよ~~♪」
「…そうみたいだね」
「え~っ!何その反応!教育実習生って言ったらお約束のアレでしょ?」
「アレ?」
「んもう!しいちゃんったら鈍いんだからっ!!」
頬を膨らませながらそうプリプリしているのは、高校で出来た友人である石原 結花……結花と書いて“なぎさ”と読む…である。
あたしと正反対のルックス……ミニマムな身長。昔の少女漫画かぁ?ってくらいおっきなお目目。ちっさい手足は多分キッズサイズだろう……を持つ彼女は恋愛小説にはまっているちょこっとオタクの入ったどこにでもいる女子高生だ。
「偶然教育実習に母校に来た大学生と女子生徒……あ、ココは男子でもOKだよ?…で、二人は実は知り合いでしかもその大学生は初恋の人だった!!
これって正に『ベタな恋愛モノ』の王道じゃん?それを生で見れるんだよ?な・ま・で!!」
―――――これも腐女子って言うのかな?なぎさはあくまでも傍観者希望らしい
「王子様タイプかな?それとも騎士様?私のベストは年上攻めだから勿論“タチ”で!!それで相手役の生徒が“ネコ”だったら言うことなしっ!!!贅沢言えば自称ノンケが“先生の個人授業”によってBLの道に目覚めてゆくの!!ああ~~たまらんっっ!!!」
……完璧にBLじゃね?それに、“宇宙語”がかなり飛び交っていたけど、誰もがスルーしてるのか全く注目されないってのが凄いよね?
そんなこんな言いながら私達は校舎の中に入り、教室を目指したのだった。
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神様!この状況を説明して下さい!!
今、あたしの目の前……正確に言えば教壇の前……に立っておられるのはアノご学友様であらせられるのだ。
しかも年齢を重ねられたご学友様は更にオーラに磨きがかかり、すべてバージョンアップした御姿になられていた。
当時、本物の女子高生よりもセーラー服がお似合いだろうなぁ~だったルックスは、スーツた姿が眩しいっ!!是非執事服も!いや、騎士様コスも似合いそうだ……に変貌を遂げられていた。
―――――――偶然教育実習に母校に来た大学生と女子生徒。二人は実は知り合いでしかもその大学生は初恋の人だった!!
今朝、結花が握りこぶしで熱く語ったあの言葉が甦る。
な…何でご学友様が教育実習にいらっしゃるの?って!この学校ってヒロキ様とご学友様がかつて多くの武勇伝を残された学校だったっけ?
編入試験を受ける時、きちんと確認すれば良かった~~~~っ!
…なんて後悔しても後の祭りである。
そう。あたしと両親はあたしが中学に入学してから間もないある日、この町から引っ越したのだ。所謂とうちゃんの会社の都合ってやつで。
だから勿論3年という期限付きの転勤だった。
ヒロキ様は一人こっちに残って、とうちゃんが用意したワンルームマンションから地元でも有名な難関国立大学の法学部に通っていたのだが、ご学友様がどちらの大学に進学されたのかは一切聞いていなかった。
……あたしもわざわざ聞かなかったしね
3年間だけ英国で過ごし、時期が来たので再びこの町に戻ってきたあたしは、付近で帰国子女受け入れOK~な高校の編入試験を受けた筈だったのだが……(学校はヒロキ様が独断と偏見でお決めになった為、確認を怠ってしまったのだ)
編入試験を難なくクリアしたあたしは、晴れてこの学校の生徒になったのだった。そして、編入1日目であっという間に打ち解けて友人となったのが石原 結花である。
あたしゃ、てっきりご学友様は欧米あたりの超有名で超難関大学にでもご留学あそばされてるかと思っておりやしたよ!
だって、お兄が言うにはイイトコのぼんぼんらしいし?
まさかお兄と一緒の、庶民でも入れる国立大学を受験されたとは思いもしませんでした。
………お兄の妹だって絶対バレるよね……
ご学友様の自己紹介などまるっきり無視していたのが悪かったのか、気が付けばクラス中があたしに注目していた。
「???」
「(コソッ)天音の番だよ」
「え?」
隣の席の子に小声で囁かれたが何を言っているのかわからない。すると…
「君は確か……天音 紫苑さんだったかな?得意科目と苦手科目を教えて貰えるかな?」
教壇から後光が差している……!!
女性との目の形をハートに変えながら、実に美しい笑みを浮かべてご学友様は座席表片手にそう仰ったのだった。
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「ちょっと!聞いてないよっ!」
『……正しい文法で言い直せ』
「だ~か~ら!“ご学友様が”“ウチの高校に”“教育実習に来られる”という事をあたしは聞いてないって言ってんのっ!!」
『“ソウ”の事を聞かれなかったから答えなかったまでだ。要件はそれだけか?忙しいから切るぞ』
「待っ………あ~あ。切れてやんの」
家に帰るやいなや、あたしはすぐさまヒロキ様の携帯に電話した。“あのお方”に関する情報があまりにも少ないので。
しかし、掛けてからものの数秒で切られてしまったのだ。
と、その時……
♪♪♪♪♪♪♪♪♪
“やけに重低音が響いているサウンド”が切られた直後の携帯から流れてきた。
「久しぶりだな……この曲聴くのも」
曲名は『魔王』。そう。これが俺様お兄様ヒロキ様専用のメール着信音なのだ。
以前ならイヤイヤ確認していたメールも今日は“オボワラ”な心境なので速攻で確認する。
が……………
『T大学理工学部4年在学中。現在セフレは山ほどいるが本命無し。担当教科は物理。吹奏楽部の副顧問を希望。
貴重な情報をくれてやるからありがたく思え。だが、くれぐれもアイツに“アレ”がばれないようにしろよ?』
セフレがどうたら、本命がどうたら…なんて情報いらんわいっ!!
それに、ど~こ~が貴重だっつーの!!
いや!それよりも、アレって……やっぱり“アレ”だよね……
ヒロキ様から届いたメールを見て、あたしは思わず頭を抱えたのだった。
無理難題をふっかけてくるヒロキ様からのメール限定で着信音を設定している主人公です。
って、2話過ぎても『ご学友様』の御名前が出てこない…(笑)