プロローグ
プロローグ
窓の外をふと見上げると、そこにはかねてから楽しみにしていた桜が満開だった。
「わたし、こんな風景を見る余裕があるんだ…。」
住んでいる東京都S区の意外に古びたその総合病院では今ようやく出産を迎えようとする女性が分娩台にいる。その女性は多くの出産経験者が知るであろうその苦痛をそんなにも感じていないと思いながら分娩室の窓の外に見える薄紅色に満たされたサッシに視線を向ける余裕を感じていた。
さくらは自分の名前にちなんだ風景を眺めながら、結婚前に夫である貴宏から言われていた不思議な話を思い出していた。
「霊能力って分かる?」
突然の突飛な違和感を覚えるその単語に正直聞き返していたのを覚えている。
「れ…レイノウリョク?それってあのテレビとかでよくやってるこわいやつのこと?」
「まぁね。」
貴宏は大柄なその体型からはチョット想像できないくらい身体を縮めながら肩を丸めてコソッと話そうと努力しているようだった。
「うん、確かにそうなんだけど・・・。
霊能力って言っても色々あるんだ。それでね・・・その・・・、、、」
貴宏の話は、貴宏との結婚を控えるさくらにとっても何だかホラー映画やファンタジーものの小説かのように感じられる変な話だった。
太古の昔からある超能力のようなものだということ。
いくつかの特殊技能に分かれていて、その一つの家系で続いている能力だということ。
男子にしか伝わらないもので、隔世遺伝で残っていること。
そして貴宏がその能力を引き継いでいて、さくらとの結婚後に授かるであろう子宝に懸念があるということ。
「う~ん、、、なんとなく分かったけど、、、。それって危ないの?」
不安げなさくらは理解できないその内容を受け止めようと聞き返してみた。
「まぁ、ちゃんと理解していれば大丈夫だと思う。使わないっていうことを覚えないといけないけどね。」
貴宏の遠くを見る目線を気にしながらも、さくらは納得をするようなしぐさを貴宏に見せた。
さくらは貴宏とのそんな結婚前の話をうっすらと思い出しながらなぜか出産に挑んでいた。
(お腹の子は男の子らしいし、貴宏の話が本当ならありえないんだよね・・・)
そんな思いを巡らせたその時に、出産担当の医師が声を上げた。
「吉野さん!そろそろですよ!!」