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戦人の迷宮探索(改訂版)  作者: 乙黒
第四章 剣闘士
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第九話 迷宮探索

 翌日になると、宣言通り雪はやって来た。

 もちろん一人で、だ。

 アンタレスの仲間は暫くこの街にいるらしく、今日は『永久(とこしえ)の迷宮』に潜っているため別行動になるらしい。何せ『永久(とこしえ)の迷宮』は初心者から熟練者まで、様々な人が潜れる唯一のダンジョンだからである。


「氷雨、そんな格好をしてどこに行くのよ?」


 宿に雪が入ると、四人とも戦闘服に着替えている途中であった。

 それは、昨日買ったものであった。


「ダンジョン」


 氷雨はカイトやクリスの用意が終わるまで、ベッドの上で寝転んでいる。彼の用意はマントを着る程度なのですることが無かった。

 マントを着たまま、ベッドに横になっている。

 雪は氷雨たちがダンジョンに行くことを知ると、とある提案をした。


「ねえ、それ、私も行っていい?」


「戦えるのか?」


 氷雨は訝しむような目をした。


「氷雨よりかは戦えるわよ。これでも、“こっち”に来てからずっと潜っているのよ。一ヶ月とそこらの氷雨よりかは“マシ”だと思うわ」


「なら、用意してこいよ。この宿屋で待っているから」


「分かったわ」


 氷雨は姉が迷宮探索に来ることに何の戸惑いも無いのか、すぐに姉の意見に同意した。

 雪は良い返事が聞けると、矢のように宿屋を飛び出した。

 彼女は今日も剣を付けているとは言え、布の服が一枚だけという軽装ではダンジョンに潜る気が無いらしい。それに盾も持って来なかったのも、今日はのんびりとする気でいたからだろう。

 ユウの着替えを終わらせ、次に自分の準備へと移ろうとしていたクリスは出て行った雪の背中を見つめながら氷雨に問う。


「氷雨さん、本当に雪さんを連れて行くんですか?」


「ああ。来たいって言ったからな」


「隊列に変更などは?」


 ソロの冒険者は基本的にいないので、パーティーを組むことになる。

 その際に重要になるのが、どの位置に誰を配置するか、である。

 これはメンバーの数や能力によって違う。それはメンバー同士で綿密な相談をし、そのダンジョンに適したフォーメーションで挑むのが普通である。


「別にねえだろ。姉ちゃんには好きな所にいてもらったらいい」


「そうですか……」


 クリスは苦笑いした。

 普通なら、メンバーが一人増えると隊列も大きく変わるのだが、このパーティーは元より決まった隊列が無いため、変更も無いのだ。

 ハルが加わった時は、氷雨とハルで、それぞれソロのようにダンジョンを攻略していたために、クリスやカイトの出番はモンスターを斃すと得られる結晶石ぐらいしかなかった。

 こんなパーティーも中々ない、とクリスは思いつつも、それで上手く回っているため文句は無い。


「アニキ! 今日はオレも戦っていいんだよな?」


 カイトは既に準備が終わっており、まだ真新しい防具を着ながら、ベッドから少し離れた位置にある椅子に座って、腰につけたナイフを抜いて輝くような目で見ていた。

 早く手に入れた魔法武器の性能を試したいらしく、ずっとそわそわしている。


「いつもどおりだろ――」


「いつもって?」


「俺が獲物を弱らせるから、それをカイトがトドメを刺す」


「ええー。アニキ、オレももっと戦いたいよ」


 カイトはそれに不満があるのか、我儘を言う。


「なら、雑魚いモンスターはカイトに任せる。ま、その時の気分次第だな――」


「本当か! アニキ!」


 カイトはこれまでにモンスターと対等な状態で戦ったことが無い。

 あるのとすれば、氷雨が傷つけたモンスターを作業として狩るぐらいであった。スライムは一人で狩ったことがあるが、あれは基本的にダンジョンの中でも無害な部類に入るモンスターである。

 カイトは“初めての冒険”に心を躍らせていた。


「おねえちゃん!」


 既に腰に結晶石を入れるポーチまでつけたユウは、ベッドの上で着替えるクリスを見ていた。彼女は寝間着の薄い服を脱いで、分厚い布の服を着ようとしていた。

 ちなみにその間、氷雨は眠かったのか、ベッドの上で目を瞑りながら横になっていた。


「なんでしょうか?」


「おねえちゃん、やっぱりきれいだね!」


 ズボンは既に履いていたが、上半身の服を脱ぎ、半裸になった時にユウがクリスに言った。

 彼女のシミ一つない白い肌が、ユウには美しく見えたのである。


「ユウちゃんも、綺麗な肌をしていると思いますよ。まだ、柔らかいです」


 クリスは羨ましがるユウへ、布の服を上下とも着てから頬をぷにぷにと押した。

 子どもの柔らかい肌は、どうやらクリスには羨ましく見えるらしい。

クリスは少しユウの頬を押してから、服の上から革の防具をつけ、腕にガントレットを嵌める。最後に腰にナイフがしまってある鞘をつけた。

両手を開いたり閉じたりしながら確認するのは、新しく買った装備の調子であった。


「氷雨、用意が終わったわよ」


 そしてその時、雪が扉を勢いよく開けて入ってきた。

 その格好は、誰もが冒険者だと思う。

 昨日と同じく鎧を着こみ、今日は腰の剣だけではなく、右手に円楯も持っていた。これが雪の戦闘スタイルか、と雪の冒険者姿を氷雨は注視した。


「なら、行くか――」


 その合図により、五人は宿から出た。



 ◆◆◆



 雪の住んでいた『ヴァイス』の『骨の迷宮』とは違い、『永久(とこしえ)の迷宮』では通行証がいる。

 その為、五人はまずギルドで通行証を発行してから、ダンジョンへと向かった。

 ダンジョンに入る時、持っていた通行証をそれぞれ門番に見せる。

 氷雨以外の四人は手甲などの防具をつけているため、通行証は腰のベルトに通していた。

 そして、階段を下る。


「氷雨、このパーティーのリーダーは誰なの?」


 最初の階段を下っている時、雪が氷雨に質問を投げかけた。

 パーティーのリーダーは、迷宮探索では大きな意味を持つ。

 そのパーティーの方針を最終的に決定できる権利を持ち、尚且つ、ダンジョン内での命令は絶対という権限を持つ。

 その分、求められる資質と能力は高く、ダンジョンではパーティーの生存に関わる重要なポジションだ。


「リーダー? まあ、俺だな」


 氷雨たちのスタイルは自由なので、リーダーなど決めたことは無い。

 だが、あえて言うなら、自分だと、氷雨は思った。

 まず、ユウは論外として、カイトはリーダーとしてまだ幼く、ダンジョンの知識には深いが決定的な決断力にまではまだ頭が回らない、と氷雨は思った。

 クリスは別にリーダーでもいいが、きっと断るだろう、と予測する。

 となれば、自分がリーダーしかないな、と氷雨は考えた。

 と、言っても、氷雨はリーダーの重要性をまだよく分かっていなかった。


「なら、今日、私はどうすればいいの?」


 雪はアンタレスにて染み付いた習性で、リーダーの命令を聞こうとする。


「さあ?」


 氷雨は雪を見ず、下に続いている闇だけを愉しみにする。


「さあって、ここにいてほしいとかないの?」


「俺の前に出なければそれでいい――」


 氷雨はそう言って、階段も終わり1階に立った。

 見慣れた場所だった。

 ここにはもう何度も潜っている。

 その度に、ここを通る。

 死への通り道と言ってもいいだろう。

 氷雨はここ以外のダンジョンは『名無しの迷宮』しか知らなかった。だが、ここが他のダンジョンより特別なのは、よく分かっていた。

 ここの特徴は、何と言ってもその広さだ。

 一階はまだマシだが、十を超えるとその凄みがよく分かる。

 中には下へと続く階段が二つも三つもある階も存在し、ダンジョンを出るのが“帰還符”と呼ばれる強制的にダンジョンの一階へ遅れる道具を持っていなければ、餓死するようなダンジョンなのだ。

 氷雨はそんな死への入り口を、いつもと同じように跨いだ。


「雪さん、このパーティーは基本的に自由です。お好きなように動いたらいいと思いますよ」


 戸惑う雪にアドバイスをするクリス。


「そう――」


 雪は異様に思いながらも、他のメンバーの動向を見つめる。

 隊列は自然に決まっていた。

 一列であった。

 先頭が切り込み隊長の氷雨。それに続くように足並みを揃えるのが、既にナイフを抜いたカイトであり、眼光は鋭く、氷雨の背中を一心に見つめる。そして少し距離を置いて、クリスとユウが寄り添うように並んでいる。

 雪はアンタレスの時と同じように最後尾だった。

 足りていないのが、そこだと思ったらしい。


 五人は、細い通路を進んでいく。

 どうやらこれは氷雨が選んでいるようだ。

 二股や三股に分かれた通路の内、大部屋らしきエリアを度々雪は目にしたが、先頭の氷雨はそこを選ぶことが無かった。

 避けているようだった。

 おそらく大勢のモンスターに囲まれた時、武器を“一切”持っていないユウの危険性をできるだけ排除するためだと雪は予想した。

 なるほど、と思った。

 考えていないようで、どうやら考えているらしい。

 それでも、氷雨はパーティーリーダーには向いていないな、と雪は苦笑する。


 普通のメンバーなら、こんなリーダーには命を預ける気にはならない。

 何故なら、指示が無ければ、各々が好き勝手動いて自滅するのが多々あるからである。

 それに子どもをパーティーに入れるリーダーなど、愚かだという判断しか下せない。

 迷宮探索は子どものお遊戯会ではないのだから。


 それを覆す程の信頼関係が四人にはあるのだな、と雪は感じた。

 氷雨のことがよく分かっている姉ではなければ、きっと自分も付いて行かなかっただろう、と雪は思った。


「それにしても、『永久(とこしえ)の迷宮』は、こんなにモンスターと会わないの?」


 もうダンジョンに入って数十分経つのに、モンスターの足音さえ聞こえないことを雪は不思議に思った。

 『骨の迷宮』なら、もう三度は遭遇しているだろう。


「ゆきおねえちゃん、いっつもこうなんだよ!」


 前をクリスと手を繋いでいたユウが言った。


「そうなの……」


「雪さん、勘違いしないでくださいね。私がだいぶ前に他のメンバーと潜った時は、こんなことは無かったのですから」


「このパーティーの誰かが、『隠密』の(スキル)を持っているのかも知れないわね」


 クリスの補足に、雪はクスリと笑った。

 そのまま、一階ではどんなモンスターとも遭遇せず、五人はどんどん下に降りていく。

 細い通路を選び、先頭を歩く氷雨が(トラップ)に注意することもなく、悠々自適にダンジョンを散歩するように歩いて行く。

 すると、前から足音がした。

 モンスターが、現れた。

 狼の形をしたモンスターである、ルー、であった。

 ダンジョンではよく出るモンスターのため、雪も記憶には知っていた。

 氷雨が、そんなルーに向かって走る。

 彼は、マントに隠れた足を上げて、飛び掛ってくるルーの脳天に踵を落とす。


「なっ――!」


 雪から驚きの言葉が出た。

 まさか――氷雨が素手で戦っているとは思わなかったのだ。

 手に武器を持っている雰囲気は無かったが、マントの中に武器の一つや二つは隠されているものだと思っていたのだ。

 素手だと不利なのだから、雪は剣と盾を選んだ。

 だから氷雨も武器を手に取っているはず、と勘違いしていたのだ。


「さ、一気に行くぞ――」


 雪は氷雨の予想外の戦闘スタイルに、まともな声すら出ない。

 前から足音は多く聞こえる。

 先ほどの氷雨が攻撃したルーは、カイトが頭にナイフでトドメを刺して、ユウが結晶石の腰のポートに閉まっていた。

 雪が氷雨に、その戦闘スタイルに文句を言う暇すらなかった。

 氷雨は多くのルーに向かって、涼しい顔で攻撃を当てて行く。

 カイトが、そのトドメを刺す。

 取りこぼしたモンスターは、クリスが炎の魔法で殺す。

 そして落ちた結晶石を、ユウがすぐに拾う。


 早い、なんて攻略スピードではなかった。

 破竹の勢いでダンジョンを走るように過ぎていく。

 安全性なんて必要ないのか、と雪は恐怖するようになった。

 何故なら、誰が失敗してもこのパーティーは破滅するからである。


 氷雨が目の前のモンスターに負ければ、全てのモンスターが攻撃力の低い三人に襲いかかってパーティーは破滅するだろう。

 カイトの取りこぼすモンスターが増えれば、たちまちクリスの援護が間に合わなくて、彼女とユウは死に至るだろう。

 クリスの援護が遅れれば、ユウは襲われ、それを助けようとパーティーは壊滅するだろう。

 ユウが結晶石を拾わなければ、このパーティーは稼ぎを得ない。財政的にパーティーは死亡するだろう。


 問題点はそこだけではない。

 パーティーのメンバーも、まともな人間を、誰ひとり雪は見当たらなかった。

 化石とも思える素手の格闘家――氷雨。

 九才という若すぎる戦士――カイト。

 この世界でおそらく最年少の冒険者――ユウ。

 クリスはまだまともに見えるが、魔法のスタミナは尋常ではない。


 だが、それらに警鐘を鳴らす暇は無かった。

 後ろから、モンスターが追いかけてきたのだ。

 私の出番か、と思いつつ雪はアンタレスの時と同じように殿をしようとした。

 けれども、それよりも早く氷雨たちは進んで行く。

 なるほど、とまた思った。

 殿に人数を割くよりも早く攻略するのが、このパーティーの方針のようだと雪は気づいたからだ。


 歪でいながら、けれども、パーティーとして成り立っているこの四人。

 雪はすることが無いので前を見据えつつも、“まだ”生き残っているこのパーティーを怖く思った。

 それは、ダンジョンの休憩所である“泉”に着くまで続く。


最近気づいたんだが、この作品は題名に戦人の迷宮探索とあるのに、主人公の氷雨が迷宮を探索しているのがあまりにも少ないような気がする。

タイトル詐欺ではないか、と思った。

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