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戦人の迷宮探索(改訂版)  作者: 乙黒
第三章 主と王
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第十五話 ディアブロⅣ

 ディアブロのメンバーの被害は甚大だった。

 ベルを除いたとしても、ほぼ全てのメンバーが倒れている。ハルの魔法は、氷雨がベル一人を斃す間に、メンバーを殆ど魔法で蹂躙したのだ。

 水で。

 氷で。

 炎で。

 雷で。

 石で。

 剣で。

 草で。

 持っていた分厚い本が光り、様々な現象を生み出し、操り、当てて、殺していく。

 その結果、敵は重なり合うように倒れ、テーブルはどれも無残に崩壊し、床も所々抜け、壁には穴も開いていた。まるで嵐が通った後のようである。


 ハルもこの世界に染まっていたので、氷雨と同じく容赦は無かった。

 向かう者は全て敵。

 そう言わんばかりに、全て殺していった。


 ユウはまだ、ハルの手の中でぐっすりと寝ていた。

 氷雨はピクリとも動かなくなったベルから立ちあがり、ハルへと近づいた。

 文句は無い。確かに敵が減ったのは迷惑だが、この人数はいくら氷雨でもきつかった。まともに戦えば負けることぐらい、最初から承知だったのである。


「ハル、やっぱりお前は強いな――」


 氷雨は戦闘衝動が治まったのか、安らかな顔だった。


「そう? 氷雨君が斃したベルって男も相当強そうだったよ」


 ハルの表情には魔法を使った反動か、汗が数滴流れていた。

 どうやら魔法も普通の(スキル)と同じく、体に疲労が増すようだ。それとも体から魔力が倦怠感、とでも云うべきモノだろうか。


「どうしてベルが強い奴だって分かるんだ?」


「だって彼、“名”を持っていたでしょ?」


 氷雨の問いに、ハルが答える。


「“名”持ちって、そんなに簡単に分かる物なのか?」


「うん。特殊なスキルがあったらね」


「それな何だ?」


 氷雨はこれまで一度もスキルを使ったことはないが、興味はあるのだろう。


「『技量(ステータス)読み』――だよ。これは簡単に説明すれば『力量(レベル)読み』の上位種で、それとは違って、レベルと“名”が見れるというものだね」


「それを手に入れる条件は?」


「レベルが四十に達することだよ」


 ハルは平坦な声で言い放った。


「つまりお前のレベルは、それに達していると?」


「うん。……っと、これじゃあ自慢になっちゃうね」


 ハルは恥ずかしそうに頬を掻いた。


「別にそんなのはいい。それより、お前のレベルは幾つなんだ?」


 ハルに、氷雨の興味が湧いたらしい。


「聞くより、『レベル読み』を使った方が早いんじゃない?」


「最近レベル詐欺の奴がいてな、そのスキルは信用できないんだよ」


 氷雨の言う奴とは、ワルツであった。

 全ての人を馬鹿にしたような態度が、鼻につく人間である。


「へえ~。その噂は……本当だったんだ」


「それ、どういう意味だ?」


「いや、“ヴァイスの町”の町にもそれはあったんだけど、実際に使う人がいなくてね。……それより、僕のレベルだったね。僕のレベルは――54。まあそれなりに高いんだよ」


「それは“ヴァイスの町”でもか?」


「うん。あの町では、僕は一番上だったね。もっとも、今では誰かに抜かされているかもしれないけど」


 謙遜しながらハルは喋っていた。

 氷雨もそれに無愛想ながらも相槌を打っていた。


「で、最後に聞くが、一人ぐらいは生かしているだろうな?」


 氷雨がハルに最後に聞いたのは、ただの確認だった。

 

「多分ね」


 悲しそうな顔をハルはしていた。

 彼はハルからいい返事を聞けると、虫の息なメンバーの一人に近づいた。

 氷雨がディアブロのメンバーに聞きたかったのは、ユウの『スレーブ』の鍵である。あのままでは不便だ。首輪があると、この町では物一つ満足に買えず、食堂にも行けない。奴隷は人より価値が下、と思われているからである。

 氷雨はメンバーの一人に近づくと、足で転がして上を向かせる。


「うっ……」


 その者の呻き声が聞こえるが、氷雨は全く情けをかけなかった。


「おい、鍵の場所はどこだ?」


「うっ……」


 だが、その者は答えない。否、脅されて答えたくとも、答える口が動かないのである。

 氷雨はそれでもその男から聞き出したかったのか、胸倉を掴んで強引に状態を起こす。首を支える力も無いのか、男は頭を傾けながら白目を向いていた。かろうじて、意識がある、程度の状態であった。


「ちっ――」


 氷雨も選んだ男が喋れないのを感じ取ったのだろう。

 すぐに胸倉を放して、別のディアブロのメンバーを振り返った。


 ――その時だった。人の山の中から、男が立ち上がったのは。


 大きな大剣を携えていた。

 白い髭と白い髪を生やしていた。

 右目を黒い眼帯で隠してもいた。


「とんだ伏兵だなぁ――」


 しゃがれた低い声が、呻き声ばかりのコミュニティ内に響いた。

 フォルカーだった。

 ディアブロの長にして、妙齢の戦士。熟練した腕を持ち、それを年を経て、より濃い物にした凄腕の(つわもの)である。


「何故……?」


 ハルが驚きながら、ほぼ無傷で、大剣を杖にして立っていたフォルカーに目を見開く。


「何故って、そりゃあ~お前さんの魔法が通じねぇからだよぉ~」


 フォルカーは不敵に笑いながら、ハルを見据える。

 ハルはそんなフォルカーにムカついたのか、それとも己の魔法が通じないことに苛立ったのか、理由は自身にも分からないまま魔法をぶつける。

 それは炎だった。

 雄々しく、強大な炎だった。

 まるで神が生み出した聖火のような。


 ぶつかる。

 ハルの生み出した渾身の炎と、大剣を床に突き刺しフォルカーが盾にしたそれに、両者はぶつかった。

 すると、瞬時に黒煙が舞いあがった。

 それによりフォルカーの姿が見えなくなるが、煙はすぐに晴れる。

 ほぼ無傷のフォルカーが、そこにはいた。


「なっ……!」


 ハルの驚きが、辺りに響いた。

 ハルはそれでも諦めきれなかったのか、今度は龍のような稲妻(いなずま)を放つが、それでもフォルカーは無傷だった。

 魔法だけでのし上がってきたハルには、受け入れ難い現実がそこにはあった。


「おい、どうしてだ?」


 言葉を失くしたハルの代わりに、氷雨がフォルカーへと尋ねた。


「この大剣のおかげだぁ」


「その大剣が、魔法を受け付けないのか?」


「そうだぁ――」


 氷雨はいい相手に巡り合ったため、頬を釣り上げる


「ちょっと待ってよ! 並みの魔法耐性なら、僕の魔法には通じないはずだよ!」


 だがそれでも現実を受け入れたくなかったハルは、叫ぶようにフォルカーへと訴えた。


「ドラゴンでもかぁ?」


「えっ……?」


 情けない声が、ハルから出る。


「ドラゴンの吐く炎を耐えきった大剣に、並みの魔法耐性……なんて言葉を放つのかぁ?」


「それは……」


 ハルは顔から、精気が消えたように青ざめた。


「この世界で最も強い生物と云われるのがドラゴンだぁ。その吐く炎は、野を焼き、山を焼くと云われているんだぁ」


 それは人が扱う炎とは、別枠とされる。

 威力も、規模も、温度も。

 ハルもこの世界の書物でしか見たことは無かったが、もしそんな存在がいて、それが吐く炎に耐えきった剣なら――。


 ハルは絶望した。

 これまで魔法が通じない相手と戦うことが無かったハルに取って、フォルカーとの出会いには絶望を与えた。

 目の前が真っ暗になったかのようだった。

 例えば、あの大剣を打ち破る、といった想像ができない。

 例えば、あの大剣を避けて本体を攻撃する、といった想像ができない。

 魔法が通じないと分かると、自分はすぐに勝つのを諦める。

 もしかしたらこの精神の弱さが、ミノタウロスとの戦いを譲った自分の本性なのかも知れない、と自覚すると、ハルは目から涙が溢れてきた。

 雫がぽとりと、抱いていたユウの顔に落ちた。


「で、お前は勝ったのか? ドラゴンに――」


 だがそんなハルとは裏腹に、氷雨はそこが重要だった。

 氷雨とハルは、ある意味で対局であった。

 戦いをひたすら求め、強者と戦うことを望む氷雨。

 戦いをできるだけ望まず、勝てる戦いしかしないハル。

 どちらがいいというのは分からないが、氷雨のほうが常人ではないのは確かであった。


「勝ったさぁ――」


「どんな風に?」


「あいつの固い鱗を切り裂き、肉も切って、真っ二つにしたのさぁ――」


 フォルカーは余裕綽々に語る。


「へえ――」


 氷雨はそんないい敵に、いいようのない感情がまた体を刺激する。

 敵を斃す、それ以外が必要が無いかのように全身が沸々と脈動した。

 人としてはあってはならない反応だが、少なくとも氷雨は戦士としては一流だった。戦いに、慈悲や思いやりなんていう感情は無用だ。

 人を殺すための肉体と、それを行うための頭があったらいい。


「おい、ユウの鍵をありかを知ってるのか?」


 氷雨はフォルカーに頬ずりを今にもしそうな体を、まだ、開放しない。


「この扉の後ろの部屋に置いてある」


 フォルカーも、自分が手塩にかけて育てたコミュニティを潰した相手に対し、殺意が湧いていた。


「お前を殺すには、ちょうどいい理由だな」


 氷雨が言う。


「お前さんが死ぬにも、ちょうどいい理由だろうよぉ」


 フォルカーが言う。


「ひさ……め……くん?」


 ハルが呟いた。

 フォルカーが動いたのは、その時であった。ハルが口を開いたのと、ほぼ同時期であった。

 大剣を、ぶん、と力一杯に下に振りおろす。

 氷雨とフォルカーの間は大きく離れているので、フォルカーの攻撃は普通に見れば無駄だろう。そして氷雨ももうテーブルの上には乗っていないのだから、足場を攻撃するわけでもない。

 だが、それには大いに意味があった。

 振った直後の剣から、三日月状の“何か”が出たのだ。

 『飛斬』であった。

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