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戦人の迷宮探索(改訂版)  作者: 乙黒
第二章 円舞曲
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第五話 遠征

 氷雨が命からがら逃げている同じ日の夜。

 地下へと深く伸びる永久(とこしえ)迷宮(ダンジョン)に、暗く閉塞な空間があった。明かりは太陽ではなく光る花で、周りは石。階層は地下は15階だ。

 細い道を数分歩いて出るのは、人ではなく、怪物(モンスター)ばかりであった。


 そして、15階層のある転送(テレポート)近くに、三人の者がいた。

 転送(テレポート)とは、永久(とこしえ)迷宮(ダンジョン)に設置されている。階層を跨ぐ際に使われる装置であった。


 この迷宮(ダンジョン)では1階、15階、30階、45階に用意されている。

 一回の利用毎にお金がかかるが、手軽に下層へと行けるので、ある程度以上の実力がある冒険者たちはその気軽さからよく利用するのであった。


「レン、分かっているな?」


 最初に喋ったのはアキラだ。眉目秀麗で、細いフレームの眼鏡をかけていた。

 鎧は黒い革で作られており薄くて軽そうで、武器は細く長い白い棍棒だ。棍棒は長さがどこも均一であり、どちらからといえば普通の棒であった。


「ああ、こっからが本番なんだろ!」


 アキラの問いに答えたのはレンだった。

 赤く穂先は厚い槍を持っている。鎧は赤黒い薄い金属の板を、何枚も重ねたような重厚な形となっており、防具自体は大きい。

 だが、アキラはゲームプレイヤーになる以前スポーツをやっていたのか、氷雨までとは行かないがかなリ筋肉がしっかりしている。

 だから防具の着こなし自体に問題は、全く無かった。


「これからが本番ね!」


 迷宮(ダンジョン)内特有の浄化作用によって腐臭はしない。だが、本来なら命を賭ける迷宮(ダンジョン)探索と云うデスゲームに、猫目を鈍く光らせている女性がいた。

 マミだ。

 胸と腰のみの軽装備に、背中には矢筒。手には金属製の弓。

 口元のほくろが、変わらずの妖艶さを醸し出していた。

 

 レン達は“黄昏時”を抜け出すと、すぐに迷宮(ダンジョン)へ訪れていた。

 目的は――遠征だ。

 より深い場所に潜るためには、当然広い迷宮(ダンジョン)では一日では足りない。数日間に渡って迷宮(ダンジョン)で過ごし、冒険することを総称して――遠征と云うのである。


「思えば私たちって“遠征”、今回が始めてよね?」


 マミがおもむろに呟いた。


「そうだな。そう思えば、どうして俺達はこれまで“遠征”をしなかったんだ?」


 レンが疑問を疑問で返す。

 まだこの階に来てから一匹も怪物(モンスター)に会ってないので、会話するほどの余裕はあるのだ。


「資材も力量(レベル)も足りないから、ボクがまだだと判断したんだ。だから遠征のことは知ってたが、話題には出さなかった。本来ならもう少し地道に力量(レベル)を上げてから、“遠征”をしたかったのに……」


「ごめんって! アキラ。そう言うなよ」


 レンはアキラに平謝りをする。

 アキラはこの“遠征”の前、実は大反対していた。

 だが、レンが早く“奴隷の彼女”を愚直に素直に助けたいという熱い思いに押し切られ、今回のレンの案に乗ったのである。


「まあ、済んだことだから仕方ないけどさ……」


「さっすが! アキラ! 話が分かるぜ!」


「痛いぞ。レン」


 レンはアキラの肩をばんばんと、叩いた。

 彼は目が笑っていてとても嬉しそうだが、アキラは迷惑そうにしている。どうやらレンは力の加減が、余り出来ていないのだ。


「レンとアキラ、相変わらず仲いいわね!」


 そんな時、二人の傍からマミが出てきた。


「んなわけねえだろ!」


「そんなわけないだろう!」


 マミはくすくすと笑っている。

 揃って大声を張り上げた二人が、面白おかしくてしょうがないのだ。


「そんなわけ……あるでしょ!」


「どこがだよ。なあ、アキラ?」


「うん。全くもってその通りだ。どうしてボクが、こんな馬鹿と仲がいいんだ?」


 レンもアキラのこの意見には、深く頷いていた。


「うんうん。って、おい、こら! 誰が馬鹿なんだよ!?」


「レンに決まってるだろう? 君が馬鹿じゃなくて、誰が馬鹿になるんだよ? まあ、自覚してないのは仕方がない……か」


 この時、ささっと何かが動く音がした。

 即座に三人は臨戦態勢へと入る。

 レンはちゃきっと槍を中段に突くように構え、アキラは正眼の構え。マミは右手で一本矢を持った。弦は引かず、あくまで弓に矢を携えるだけだ。


「アキラ、てっめえ、覚えとけよな……」


「ふん、君が覚えてられるとは思わないけどね」


「こらっ! 二人とも喧嘩しない! 今日始めての戦いなんだから、気を引き締めなくっちゃ!」


 マミはレンとアキラに活を入れるのと同時に、自分にも気合を入れていた。

 不安なのだ。

 弓を持つ手が震えた。

 もし矢で相手を斃しきれなかったらと思うと、もし仲間が自分を庇って大怪我を負ったら、もし現れた怪物(モンスター)異常(イレギュラー)だったら、と思うと毎回ここに来て震えるのだ。


 何回訪れた15階層でも、例えこれが絶対に簡単に突破しなければならない関門でも、危機感は拭えない。死と云う概念が漠然なこの場所で、平和な世界をなに不自由なく歩んできた彼女は、やはり――怖かったのである。

 ――生と死の境界線が曖昧な迷宮(ダンジョン)が。

 

「マミ、絶対大丈夫だって! なんたって俺がついてるじゃねえか!」


 そしてその度、レンが励ましてくれる。


「レン、ボクだっているんだぞ?」


「俺を馬鹿って言ったお返しだ」


「君って奴は……。マミさん、安心していいよ。もしマミさんがしくじったら、レンを楯にしてでも守るから!」


 そしてその度、アキラが緊張をほぐしてくれる。


「おい、アキラ、冗談だよな?」


「ほ……いや、冗談だ」


「おい! 今本気って言おうとしてただろ!」


「そんな事より、前を見てみなよ。いっぱいいるよ?」


 数十メートル先にいるのはルーだ。

 狼のような怪物(モンスター)である。氷雨もよく狩ってた比較的弱い怪物(モンスター)でもあった。

 だが、レンが(スキル)でこの目の前にいるルーを見てみると、氷雨が戦ってた力量(レベル)1ではなく、15。

 軽く見積もると、1階層にいるルーよりも十五倍は強いだろう。

 

 それに、この階層のルーは単独ではなく、ほぼ数十匹まで群れる。

 斃せる難易度だけで云えば、氷雨が数十日前に斃した際の、二十倍以上であった。

 それ位、迷宮(ダンジョン)は奥へ奥へと潜るほど、大きな戦力が必要になってくる。さらに20階層以降には、(トラップ)さえも出現した。


「なんかアキラに話を逸らされたな……。よし、ここは急いで突破するからな! 目標は20階! 金の稼げなさそうな雑魚は全部無視だ! 狙うは一攫千金だっ!!」


 レンはアキラにいいようにコントロールされながらも、今後の方針を決定した。


「了解だよ」


「オッケ~!」


 その隊長のレンの案に、アキラもマミも了承する。

 もしレンの発言が間違っていれば、死なない為に二人とも疑問の言葉を投げかけるがろうが、今回の指示は的確だ。


 迷宮(ダンジョン)の攻略には、戦闘の技術だけでなく、冒険者としての資質も問われる。

 どこで戦い、どこで逃げ、など的確な判断が、冒険者として必要になるのだ。これができない冒険者は命を落としたり、一生戦えない体になったりするのである。

 

「じゃ、1、2、3、な!」

 

 じわりじわりと滲み寄ってくるルーに、レンは言った。二人は深く頷く。

 ルー達はまだ数十メートル先だ。鋭い嗅覚ゆえに三人の居場所が分かっているが、絶好な好機を狙うため一気には攻めなかった。


「1!」


 三人は腰を深く落とした。クラウチングスタートまでとは行かないが、それでも早くスタートダッシュを踏むために、少しでも体勢を落としたのだ。

 ルー達は三人が逃げも隠れもしないので、喉も鳴らさず少しずつ歩むばかりである。


「2!」


 三人は暗闇に紛れるルーを深く睨んだ。三人の中では誰一人、敵をルーだと気づいていない。ただ力量(レベル)が15で大量の敵だと気づいただけなのだ。

 一方のルー達は、レンたちを嗅覚だけで、ほぼ全ての情報を得ていた。

 体長、武器、防具など、をである。


「3!」


 一気に二人が疾走した。先陣を切るのは、レンとアキラのツートップだ。その二人の後ろを追うように、マミが矢を数本放ってから走った。


 ワオォオオオオオオオオン!


 矢に刺された仲間が数人いた。だが、どれも致命傷には至っていない。

 ルーも急に走り出した三人に、牽制のため高らかに吠える。その遠吠えはボスが仲間へと出す、突撃の指令と報復の折り合いも兼ねていた。

 三人の少し後、ルーも数十匹が一斉に走り出したのだ。


「えっ!?」


 マミが驚きの声を上げた。敵の正体がルーだったというのもあるが、数が尋常じゃないのだ。

 ルーは群れるといっても、精々十匹まで。それ以上は特別な理由が無い限り、集まることが無かった。

 だが、作戦はそのままである。

 もし変更があるなら、誰かが止まったり声をかけたりするはずだ。

 三人は固い絆で繋がれている。この程度の苦難で、負けたりするようなそんな弱いものではないのだ。


 最初にルーと立ち会ったのは、――アキラだ。

 飛び掛ってきた一匹のルーに向かって、走りながら長い棒で側面を叩く。ルーは力のベクトルを横に逸らされたので、頭から地面を滑る。

 マミは前から来たそのルーを飛び越え、事なきを得たのだった。


 次にルーと相対したのはレンだ。

 真っ直ぐ噛み付いてきたルーの攻撃を、(スキル)で受け立った。

 ――槍(スキル)『疾槍』。

 真っ直ぐ伸びた槍は、ルーの甘く開いた口内を狙う。


 ――槍は赤きまま、紅を浴びた。そのまま血で槍が滑り、牙が柄を持っていた手の寸前まで来る。

 レンは突き刺さったルーを横に振り回した遠心力によって、槍から放す。ごろん、とレンが屠ったルーは、地面へ横たわった。


 そのレンが槍を振り回した隙を、狙う怪物(モンスター)がいた。

 ルーである。

 その開いた胴体に、ルーは噛み付いたのである。衝撃は大きく、レンの体は大きく浮いた。


「うっ……!!」


 幸い牙は鎧に拒まれて、身体には届かなかった。この階の怪物(モンスター)にとっては脅威の代物だが、レンは僥倖だった。

 まだ、この階層で良かったのである。

 これが30階、40階だと、ルーも簡単に鎧を牙で貫いただろう。


「うおぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


 レンは一回、全てを振り切るように大声を出し、噛んできたルーを柄で全力で叩いてから、また先へ走り出した。次に前からやってくるルーは避け、避けられないルーは槍で払うように切った。

 どれも突いて殺そうとは、しなかったのだ。


(クッソ! 甘かった。注意が甘かった。こんなので、こんな実力で、誰が守れるんだ!)


 彼は走りながら、深く自分が弱いと反省していた。

 例え鎧で助かったとしても、レンは楽観などしない。どこまでも強くなりたいと思うストイックな男だったのだ。


(ボクも見習ないとな)


 レンの様子を近くで見ていたアキラも、深く丹田に力を入れた。

 そして、鈍器とも云えるその棍棒で前からやってくるルーを、上に下に横に、最低限の動きで殴り始めたのである。

 どれも死へと繋がる致命的な打撃とはならない。

 だが、先を切り開いて進むには十分な攻撃だった。


(凄い凄い! 道がどんどん開いていく!)


 その頃、マミは目の前の二人に驚いていた。

 細い道を埋め尽くすほどのルーを、先頭二人がどんどん蹂躙していった。まるでドミノを崩すように。

 

 やがて、道が終わり、大きい広間に出る頃、遂にルー達は居なくなる。三人の道程には、傷ついた怪物(モンスター)ばかりが倒れていたのだった。

遠征について、無駄だと言う意見もありましたが、作者としては必要と思ったので書きました。これが無いと、第二章ではダンジョン描写が少ないことになるので、題名に作品の内容が合いませんからね。


もしよろしければこれらについてのご感想、ご評価などをいただけると、とても嬉しいです。よろしくお願いいたしします。


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