第零話 プロローグ
まだ序盤ですが、できるだけ早く前まで追いつきたいと思っておりますので、これからも応援お願いします。
太陽の光が閉ざされた深い闇の中で、壁に生えている白い花だけが明かりをくれる通路があった。天井は高く、右を見ても左を見ても壁。幅は狭く、幅は二メートル程。
そんな通路はただ長く、後も先も闇だけが広がっていた。
ここは、迷宮と呼ばれる場所だった。秘宝が、財宝が、金銀が、数多く眠り、荒稼ぎしたい者にはとっておきの場所である。
だが、そんなメリットばかりの迷宮だが、そこには危険もある。
罠や、怪物が潜んでおり、時には命を失うこともあるのだ。
だが、それを苦とせず、迷宮を突き進むのが、“冒険者”という生業だった。
命を糧に金を求め、犠牲の果てに栄光がある。
冒険者とは、そんな職業であった。
そんな場所にただ一人――灰色の青年は立っていた。
彼は、変わった青年であった。
麻製の服の上を灰色のマントをで包み、顔は愉悦で染まっていて、ただ歩みを進めるだけ。
云うならば、一般人の“格好”だった。これで町に出ても、なんらおかしくないだろう。間違っても、命を糧に金を求める――冒険者の格好ではない。
そんなここに不釣合いな彼が、ここに居たのは理由があった。
それは生きるためだ。
急に独りになった彼は、現在金目の物を持っていなかった。生きるためには金が必要だ。その金を稼ぐため、彼は冒険者になったのである。
今の彼は、そんな職業に就いて早一週間経っていた。
冒険者という職業に慣れない最初は戸惑いもあったが、今は“ある理由”からこの職業に悦びさえ覚えていたのである。
◆◆◆
それは、彼が狭い通路をしばらくの間進んだ時のことであった。そこでは目に強い光が現れ、光の中から音が聞こえたのだ。
「くっそぉ! どうしてこんな低階級にこんな高レベル怪物がいるんだ!!」
それは、不運を嘆く、哀れな者の声であった。
悲痛な声が聞こえる場所は、通路の終わりだ。だが、その続きは壁ではなく、大輪の白い花が天井を多い尽くすほどある広い空間がある。
そこは、剣呑な空気であった。
中世の鎧を着た三人の“冒険者”と、人より二回りも大きい金属で覆われた二足歩行の人によく似た体の構造を持った怪物がいて、お互いがお互いを目で牽制しあっていた。
敵を睨みながらも、弱弱しく立っている冒険者の武器は、それぞれ槍と棍棒と弓だ。
この三人は既にこの戦闘の数分前、力量が22の敵を十体倒しており、本来なら宿に帰って休みたいところだった。
ゆえに体調が万全ではなく、呼吸も深呼吸である。
彼等とは反対に、堂々と立っていた怪物の姿は――異様だった。防具のように纏っている金属が赤色。体の前に逆さに置いた太く、分厚い大剣でさえも赤色である。
その姿は、血を喰らって生きる――まさしく“物の怪”だった。
「異常なんて……!!」
三人の“冒険者”内の、誰かが口にす。
異常とは、本来存在する怪物の突然変異で、それは通常の物より強い。
今のままでは異常に勝てない、それが三人の冒険者の心境だった。
それは彼らが、力量も技も足りなかったからだ。
力量とはその者の強さを数字で表し、通常は高ければ高いほど強い。
そんな力量で異常を表すと40程。
逆に三人を力量で表すと、彼らはそれぞれ20位しかなかった。
それは、冒険者である彼らが、生贄という代償を用意しても、十人集まってやっと異常相手に一人生き残れる確率だった。
これだけでもそれの強さは明らかで、三人に勝ち目は無い。
ところで、技とは武器の熟練度を上げることによって、それを一定以上貯めるとそれぞれに適した技が開放され、その者の体力に応じて何回か使えるようになる一定の現象のことだ。
その現象には色々あり、例えば剣から衝撃波を飛ばせたり、練習もしてないのに槍を連続で突けるようになる。など、様々な種類があった。
「諦めるな! 諦めなければ勝機は必ずあるはずだ!!」
また、三人の内の誰かが言った。
無駄だろう、と灰色の彼は思う。
何故なら彼らが向かう出口は、異常が塞いでおり、自分がいる方に逃げても外には出られず、むしろ迷宮の奥へと続く道なので、もしかしたら“より”強大な敵がいるかもしれない。
――だから、三人は“このまま”の状況では、異常に勝つ以外に、生き残る手段は無いのであった。
「仕方ねえ、ちょっと英雄になってくるか」
そんな絶望的な三人の光景を目の当たりにした彼は、わざとくさい台詞を吐きながら一歩踏み出した。
彼の歩みの矛先は、異常へと真っ直ぐ続く。
相手は難敵にも関わらず、淡々と、まるで家の中を歩くように、彼は足を進めるのであった。
「き、君、止めとけ」
三人の内の槍を持っていた一人が、彼を止めた。
彼の無謀な挑戦を止めさせようとしたのだ。
何故なら彼が、目ぼしい武器も、目ぼしい防具も持っていないからだ。
だからだろう。その一人は、防具どころか武器すら持ってない彼を、その見かけから弱いと判断したのだ。
「本当に……本当に……死ぬぞ!!」
いや、見かけだけではなかった。
彼は力量すらも低かったのだ。それは三人の冒険者よりも、圧倒的に低かった。
「どけ。邪魔だ」
だが、口角が上がっている彼は、その止めた者の手を乱暴に払った。
先程、英雄になる、と大層に言っていた筈なのに、彼に三人を助ける意思は全然無く、むしろ彼には異常と戦いたい気持ちのほうが大きいのである。
どこまでも彼は――獣のような“餓えた”人間だった。
「――さあ、戦ろうぜ」
五メートル先にいる彼の発言で、異常は剣を構えた。 両手を突き出し、その太い腕で大剣を支える。
これで事実上、彼の宣戦布告を異常が受け取る形をなった。
ダッ!
そして、先に仕掛けたのは、灰色の彼だ。
上体を前のめりにし、己が出せる最高スピードで、異常との距離を一気に詰める。
キリキリッ!
敵は彼が近づくのが分かると、独特の歯車が回る音を出しながら、大剣を驚異的な速さで振り落とした。
彼はそれを、右にかわす。が、完全には敵の大剣はかわせず、皮膚を浅く切った。
だが彼は怪我を気にもせず、異常の背後に回る。それは大剣をもう一度振らせる暇など与えないほどのスピードであった。
「――かっっ!!」
次に灰色の青年は背を駆け上がり、両手で大事そうに、顔らしき部分を持った。
そして、首を力強く――廻す。
瞬間、首元からは瞬間的に鈍い音がし、首は顎が上になるように折れる。
そして彼は背から下り、首を――限界まで下に引っ張る。
すると、どうだろう。
捻られ、引っ張られたコードは、それも首にある多種多様の色で覆われたコードは、あまりの“力”に耐え切れず、無残にも千切れる。まるでロボットの首が取れたかのように、彼は敵の首を――取ったのである。
「えっ……!!」
奇想天外な異常の斃し方に、三人は大きく目を見開き、驚愕した。
やがて、彼の手首についた時計のような無機質な声が――鳴った。
――ピコーン、力量が11になりました。