絶えず育つ花
この物語を手に取ってくださり、ありがとうございます。
人生には、二度と戻らない瞬間があります。しかし、失ったもののすべてが消えてしまうわけではありません。
この物語が、誰かにとって小さな希望や温もりを感じられるものになれば幸いです。
どうぞ最後までお楽しみください。
一歩、また一歩と、私はある場所へと続く小道を歩いていった。
見渡す限り、一面に咲き誇る花々が広がっている。花畑を抜け、ようやく目的の場所へとたどり着いた。彼女を失った後、私が築き上げた場所だ。
扉をノックする前に、私は深く息を吸い、心の内にある感情を抑えようとした。ただ自分を慰めてもらうためだけに、彼らの温かな笑顔を心配そうな表情に変えてしまうべきではない。
扉を叩く小さな音が、室内の賑やかな声に負けず、はっきりと響いた。
ゆっくりと扉を開けると、そこには子供たちが立っていた。
「おかえりなさい、おじいちゃん!」
「おじいちゃん、どうして来るのが遅かったの?」
「そうだよ。ずっと待ってたんだからね、おじいちゃん」
心からの笑みを浮かべ、私は挨拶をしてくれた子供たちに応えた。
「みんな、園長先生が帰ってきたばかりなんだから、まずはゆっくり休ませてあげましょうね」
そう言ったのは、ほかの子供たちより少し年上の、赤い髪の少女だった。
「園長先生、お荷物をお持ちします」
「ありがとう、ダイアナ」
そう言って、私は荷物を彼女に手渡した。
ダイアナが去ると、私は上着の内ポケットから何かを取り出そうとした。
「みんな、今日はお土産があるんだ」
それを聞いた途端、子供たちの丸い瞳がぱっと輝いた。
「なあに、おじいちゃん!?」
「うんうん、プレゼント?」
「プレゼントなら、甘いお菓子かな?」
「園長先生、子供たちに甘いものをあげるのは控えてください。一昨日もあげたばかりじゃないですか」
それを聞いた子供たちは、少しだけうつむいた。
まさか、部屋の中にいたダイアナにまで聞こえていたとは。
私は計画を取りやめ、場の空気を変えるために小さく咳払いをした。
「みんな、もうご飯は食べたかい?」
「まだだよ、おじいちゃん!」
子供たちは声をそろえて答えた。
「そうか。それじゃあ、少し待っていておくれ。おじいちゃんがすぐにご飯を用意するからね」
「やったー!」
自分の部屋へ向かうと、ダイアナが私の荷物を整理しているところだった。
私が来たことに気づくと、彼女は一度手を止めた。
「おかえりなさい、園長先生。旅はいかがでしたか?」
「ああ、何事もなく順調だったよ」
「それはよかったです」
ダイアナは私が着ていた上着を預かろうとした。私は少し名残惜しく思いながらも、それを彼女に渡した。
「園長先生、子供たちに甘いものをあげること自体は構いません。ただ、あまり頻繁にはあげないでくださいね」
私は苦笑いを浮かべた。
「覚えておくよ」
「せめて、長く使えるものをあげてください」
ダイアナが上着の内ポケットを確かめると、中に入っていたものを見て少し驚いた。
「ちゃんと約束は守っただろう?」
彼女はかすかに微笑んだ。
「園長先生、早く着替えてください。長旅でお疲れでしょう?」
仕事を終えたダイアナは、食事の支度をするために部屋を出ようとした。
「そんなに急がなくてもいいよ、ダイアナ。私もすぐに行くから」
そう声をかけたが、ダイアナは振り返ることも返事をすることもなかった。
聞こえなかったのだろうか?
ところで、私がサプライズとして用意していたものは、実はカメラだった。
もし、あの頃にこれを買うことができていたなら、今でも彼女の面影を覚えていられたのかもしれない。
彼女が亡くなった後、私は生前に果たせなかった昔の約束を実現しようとしていた。
かつて、二人で夕日を眺めていた頃のこと。私に寄りかかりながら、彼女は優しい声である願いを口にした。
「ある場所を作ってくれない? 簡素なもので構わないから」
「いいとも。でも、どんな場所なんだい?」
「種が育つことのできる場所。嵐に見舞われても揺るがず、時が流れても、ずっと人々の記憶に残り続けるような場所よ」
「温室のことかい? 植物を育ててほしいということ?」
「違うわ」
「じゃあ、何なんだい?」
「いつか、あなたにも分かる日が来るわ」
もし、あのとき彼女の言葉をもっと早く理解できていたら、何かが変わっていたのだろうか。
「園長先生、園長先生!」
!?
「ああ、ダイアナ。どうしたんだい?」
「園長先生、何か考え事でもされているのですか? ずいぶん長い間、ぼんやりなさっていましたよ」
「いや、何でもないよ」
「おじいちゃん、ご飯は一緒に食べないの?」
「うん! ご飯、おいしいよ。おじいちゃん!」
「みんなで食べておいで。おじいちゃんはあまりお腹が空いていないんだ」
そう言って、私は一人の子供の頭を優しく撫でた。
もしあのとき、そうなっていたら、今ここにいる子供たちと出会うこともなかったのかもしれない。
私は一体、何を考えているのだろう。
湯飲みを手に取り、沈んでいく茶葉を眺める。立ち上る香りが、心を静かに落ち着かせてくれた。
「ダイアナ、最近の孤児院の様子はどうだい?」
「いつもと変わりありません、園長先生。ただ、一つお願いがあります。どうか、これ以上観葉植物を増やさないでください」
「すまないね、ダイアナ。観葉植物の世話で、君の仕事を増やしてしまって」
「それで、園長先生。もう増やさないと約束してくださいますか?」
「残念だけど、ダイアナ。長年続けてきた趣味というものは、そう簡単にはやめられないものだよ」
「園長先生、お願いですから、もう観葉植物を増やさないでください!」
私は小さく笑った。
「分かったよ。少し減らすことにしよう」
なぜか、彼女は私の言葉を聞いて驚いたようだった。
「本当に減らしてくださるんですか?」
「ああ、もちろん」
「それに、今まで孤児院の運営を君に任せきりにして、苦労をかけてしまってすまなかったね」
そう言いながら、私はお茶を一口すすった。
「いいえ、園長先生。私はむしろ、毎日楽しくやらせてもらっています」
「それならよかった」
私は小さくつぶやいた。
彼女の笑顔と優しさは、子供たちにとって、まるで本当の姉のようだった。いつか彼女が大人になったとき、この孤児院の運営を任せようと思っている。
そよ風が花々を舞い上がらせ、運ばれてきた香りが、過ぎ去った遠い日々を思い出させるようだった。
ベンチに腰掛け、私は日が沈むのを待っていた。
かつて咲いていた花が、再び同じ姿で咲くことはない。これから育つのは、新しい花の種だけだ。
そして、新しい花を古い花と比べるべきではない。なぜなら、新しい花は、誰かの代わりになりたいなどとは思っていないのだから。
地平線の彼方に広がる黄金色の光は、まるでマリーゴールドの花のようだった。それも今では、すっかりヒヤシンスの花へと姿を変えていた。
「園長先生」
私を呼ぶ声の方へ顔を向けた。
「ああ、ダイアナ」
やって来たダイアナは、温かいお茶を載せた盆を手にしていた。
「お疲れさまでした、園長先生」
「ありがとう」
「……園長先生、大切なことをお忘れではありませんか?」
何かを忘れている? 一体何だろう。
尋ねてみても、ダイアナは何も答えなかった。それどころか、私の腕を引いて、部屋の中へと連れていった。
扉が開くと、室内の明かりが目に入り、視界が少しかすんだ。何が起きているのか確かめる間もなく、そこには一列に並んだ孤児院の子供たちがいた。
ダイアナの方を振り向くと、彼女はようやく私の腕を離した。何も説明することなく、私に何かを手渡すと、そのまま子供たちの列に加わった。
手渡されたものを見て、私は信じられない思いだった。まさか、ダイアナがこんなことを考えてくれていたなんて。
それを台に置き、タイマーを設定する。そして、私も子供たちの列に加わった。
たとえ、その美しさがかつてとは違っていても、もう一度帰る場所を与えてくれた君に、私は心から感謝している。
最後まで読んでくださり、ありがとうございました。




