表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/7

6 真夜中の足音

挿絵(By みてみん)


その日の真夜中のことである。


カメリアが借りた角部屋の隣室、階段に近い部屋で寝ていた私は、階段を上がる何者かの足音で目を覚ました。

なるべく音を立てないようにベッドから降り、部屋の扉に耳を押し当てた。


外にいるのは、おそらく1人。


消灯後のこの時間、生徒が出歩くことは禁じられているはずだ。

こちらへ近づいてくる足音の主は何をしているのだろう。


聖母像の破壊も、マヤの殺害も、真夜中に起こっている。

万一のことを考え、私は身につけていた銃に手をかけた。


足音が階段を登り切り、部屋の前を横切る瞬間に私は扉を開けた。


「きゃあ!」


構えた銃の先には、驚いて身体をびくりと震わせたグレーテがいた。


「グレーテ様?」


私はすぐに銃を下ろして呼びかけた。


「ヒルダさん…。」


グレーテの足下には驚いた時に落としてしまったであろう数冊の本が散らばっていた。


「驚かせてしまって申し訳ありません。

お怪我はありませんか。」


私は本を拾ってグレーテに手渡した。

グレーテは「ええ、平気です。こちらこそ起こしてしまってすみません。」と頭を下げた。


「グレーテ様はこんな時間に何をしていたのですか。」


「友達と本の貸し借りをしていたんです。」


「それならば、消灯後でなくともよいのではありませんか。」


しかしグレーテは「この時間じゃなきゃ駄目なんです。」という。


「マザーたちに見つからないようにするには、消灯後じゃないとで…。」


何故隠れる必要があるのだろう。

訝しんだ私の表情を見て、グレーテは慌てて「怪しいことをしていたわけじゃないんです!」と否定する。


「これらの本は、学校では禁書扱いされてるものなんです。

学園側が、生徒たちにとって有害な書物だと判断したので。」


「有害な書物、ですか。」


グレーテはまた「過激な内容の本ではないんです!」とふるふる手を振る。


「ただ、学園の規制はとても厳しくて…。

教会の教えにそぐわないものは全部駄目なんです。

ロマンス小説とか、犯罪小説だけじゃなくって、近代的な科学書や哲学書も禁書になってるんです。」


近年、より一層急速に発展し続ける学問と古くからの戒律を重んじる教会の教えはすれ違うことも多いのだろう。

だから生徒がそれらの学問書を読むことが規制される。


けれども、少女たちは好奇心には勝てない。

幼い頃、だめだと言われても好奇心に勝てなかったことは私にも覚えがある。

グレーテもそうだったのだろう。


「わたしが禁書を読んでたこと、マザーたちに言いますか…?」


上目遣いでちらりとこちらを伺うグレーテに、私は「言いませんよ。」と微笑んだ。


「私は学園の者ではありませんから、禁書を貸し借りしていたことでグレーテ様を叱ったりはいたしません。」


グレーテはほっとした表情を浮かべた。


「でも、貴方方の身を案じる年長者としては、消灯後に部屋を抜け出していたことは見過ごせません。」


「怯えさせたくはありませんが、夜中にひとりで出歩くのは危険ですよ。」と忠告すれば、グレーテは「すみません…。」と素直に受け入れた。


「部屋まで私がお供いたします。」


「ありがとうございます、ヒルダさん。」


私はグレーテを彼女の部屋まで送り届けた。

グレーテが部屋に入るのを見届けた後、自室に向かいながら私は思考にふけった。


グレーテの話からするに、彼女は友人たちと禁書の貸し借りをいつも消灯後にしていた。

生徒たちにとって消灯後に部屋を出ることは日常的なことだったのだ。

真夜中は、学園のおとなたちの監視の目がないから。


それは同時に、真夜中には彼女たちを見守る者がいないということでもある。

破壊されてしまった聖母像を除いて。


だから、あの夜にマヤは…。


学園を包む夜の深い闇が、恐ろしく感じられた。






翌朝、スタンフォード警部補はカメリアにマヤの遺体の解剖結果を知らせにきた。


「被害者は激しく鞭打ちされたことが要因で衰弱し、気を失ったまま凍死してしまったそうです。」


春はまだ遠いこの季節、日が沈んでしまえば外の気温は0度を下回る。

冷たい石畳の上で、気を失ったマヤは誰にも気づかれないまま冷え切ってしまったのだ。


「被害者の身体には、性的暴行を受けた痕跡はありませんでした。

ただ…。」


言葉を濁したスタンフォード警部補に、カメリアは「なんですの。」と先を促す。


「被害者は妊娠していました。」


寮母ゲルダの言葉は誤りでなかったのだ。


スタンフォード警部補は、「解剖は被害者の遺族の許可を得て行っておりますので、結果を遺族に伝えました。」と言う。


「しかし、そのときの遺族の反応が少々気になるんです。」


カメリアは「ご家族の方はなんとおっしゃいましたの。」と首を傾げた。


「被害者の妊娠を知ると、悔しがったのです。

『我々の実験はあと少しで成功したはずだったんだ。』、と。」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ