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4 マヤという少女

挿絵(By みてみん)


「遺体が発見されたのは、昨日の朝7時ごろ。

礼拝堂へ向かうためここを通りかかった女生徒たちにより発見されました。」


交差しながらアーチを描く屋根を大理石の柱が支える渡り廊下。

その冷たい石畳のうえに傷だらけのマヤの遺体は横たわっていたという。

彼女の手は紐のちぎれたロザリオを握りしめていたという。

最期の瞬間、彼女は何を祈ったのだろうか。


「被害者の血痕が礼拝堂近くから彼女が倒れていた地点まで残っていました。

被害者は礼拝堂近くにて鞭で打たれ、そこから寮の方へと逃げようとし、ここで力尽きたものと思われます。」


「目撃したものはいなかったのですか。」


カメリアが問うが、これまでに犯行の目撃者は見つかっていないのだという。


スタンフォード警部補は資料を確認しながら詳細を続ける。


「被害者が最後に目撃されたのは寮の消灯時間である一昨日の22時。

被害者と同室の生徒によると、朝6時半の起床時に被害者は寮の部屋にいなかった。

22時から翌日6時半までの間に犯行が行われたことになります。」


「学園の外から誰かが侵入した形跡はございましたか。」とカメリアが質問すると、スタンフォード警部補は「ありません。」と断言する。


「この学園の門は事件当日の夜も鍵がかけられていました。

門の鍵は南京錠で、学園の事務室にて鍵を管理しています。

学園の周辺は高い外壁に囲まれており、侵入は容易くはありません。

外壁に何者かがよじ登ったような形跡は見られませんでした。」


「外部による犯行でないなら、学園の内部の者の犯行ということになりますわね。」


カメリアの意見にスタンフォード警部補も「我々もその可能性が高いと見ています。」と頷く。


「聖ローゼマリー女学院は全寮制で、生徒だけでなく学校関係者も寮で生活をしています。

学園にいたのは理事長のニコラウスと教育責任者のガースンの二人の男性。

他に教員を務めるマザーと寮母、そして女生徒たちです。」


その中に、神をも恐れぬ魔女が潜んでいるのか。


「あまり考えたくはないのですが…。」とスタンフォード警部補は顔を曇らせる。


「被害者の遺体は鞭で打たれていましたから、他の生徒によるいじめであったという線も調べなければなりません。」


被害者の少女はいじめのすえ、命まで奪われたのだろうか。

もしもそうなら、あまりに残酷だ。


「被害者が犯人にどのような暴力を受けたのか詳しく調べるため、解剖による捜査を進めています。」


スタンフォード警部補は、「解剖結果は追ってお伝えします。」とカメリアに約束した。





カメリアと私は、生前のマヤの人間関係を調べるため、グレーテに話を聞くことにした。


マヤと同学年だったグレーテは、マヤを「とても人気のある子でした。」と語る。


「マヤは医者の娘で成績が優秀、その上容姿端麗でしたから。」


「それだけ目立つ存在だったのなら、やっかみを買うこともあったのでは?」


私はそう尋ねたが、グレーテは否定する。


「入学したばかりの頃はマヤを気に入らない子もいました。

マヤに対して、平民なのに調子に乗るなって貴族の子たちが悪口を言ったことがありました。

でも、そのときマヤは言ったんです。

『そういうことは私のうちより多くの寄付金を学園に納めてから言ってちょうだい。』って。」


近代化の進む今の時代、医師とは貴族身分でこそないが、最も裕福な職業である。

下級貴族よりも多額の財産を抱えていることも少なくない。

マヤのうちもそうした裕福な医師だったのだろう。


その一件以来、マヤを攻撃しようとする者はいなくなったのだとグレーテは語る。


「家の裕福さ、成績、容姿、どれもマヤに適う者は同じ学年にいませんでしたから。

マヤと対等なのは生徒会長のフリーデリンテ様だけだと皆が思っていました。

マヤは常に輪の中心にいました。」


学園の女生徒たちのヒエラルキーにおいて、マヤは上位に位置づけられていたらしい。

表立っていじめられていたわけではなさそうだ。


しかし、カメリアが「最近マヤの様子に変わったところはございませんでしたか。」と聞くと、グレーテは思い当たるところがあると答えた。


「冬の長期休暇が明けてからでしょうか。

マヤはよく体調を崩すようになったんです。

食事ができない日や、貧血で授業を休み寮で寝ている日が多くなりました。」


「最近になっての体調不良は少々気掛かりですわね」とカメリアは思案する。


「生徒の世話をしている寮母に聞くのが良いのではありませんか。」


私の提案にカメリアは「良い考えですわね、ヒルダ。」と同意した。






マヤの体調不良について話を聞きたいとカメリアが言うと、寮母ゲルダは顔を青くした。

ゲルダはただならぬ様子で、「どうかこのことは内密にしていただけませんか。」と訴える。


「他の教員や学校関係者、そして生徒たちの耳には絶対に入れないようにして欲しいのです。」


「私は秘密は守る人間でしてよ。」


ゲルダはようやく重い口を開いた。


「あの子は、マヤは…。

子を宿していたのです。」



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