3 聖ローゼマリー女学院
村から離れた森の奥、広大な敷地に件の学園、聖ローゼマリー女学院はあった。
灰色の石造りの校舎はどこか息苦しさを感じさせる。
高い外壁が敷地をぐるりと囲んでいるのが、逃げられないようにしているかのように思わせるのだ。
「我れらの学舎へようこそ、カメリア嬢。」
門をくぐった私とカメリアを出迎えたのは、まっすぐに伸びた金髪が印象的な少女だ。
彼女は美しく礼をすると、「私はフリーデリンテ、この学園の生徒会長を務める者だ。」と名乗る。
「貴方のことはグレーテくんから聞いているよ。
カメリア嬢のような優秀な探偵が来てくれるとは心強い。」
フリーデリンテはその可憐な容姿と裏腹に、男性的な話し方をする少女だった。
「学園を案内するからついてきたまえ。」と先を歩くその足取りも、歩幅が大きいのだが堂々としている。
フリーデリンテは敷地の南側にある学生寮に私たちを招いた。
「この学園にいる間は寮の一室を使ってくれ。」
「狭いだろうがどうかご勘弁を。」と眉を下げるフリーデリンテに、カメリアは「かまいませんわ。」と微笑んだ。
カメリアに用意されたのは、最上階の角部屋であった。
私はその隣室を使わせてもらえることになった。
私はカメリアの荷物を彼女の部屋に運び入れた。
部屋の広さは想像していたほど狭くないが、装飾がなく実に簡素だ。
部屋の窓は二つで、入り口から向かって右側の窓からは森の木々が、正面の窓からは寮の向かいに建てられた校舎が見える。
なるほど、これでは生徒たちは窮屈に感じるだろう。
寮の部屋に荷物を置いた後、フリーデリンテは死体が発見された渡り廊下に案内すると申し出た。
フリーデリンテに続いて寮を出たところで、眼鏡をかけた若い男性がこちらに近づいてきた。
「フリーデリンテくん、この方がグレーテが呼んだ探偵の方かな。」
フリーデリンテは「ニコラウス先生、こちらが探偵のカメリア嬢と従者のヒルダさんです。」と男性に私たちを紹介した。
男性はにこりと微笑んでカメリアに手を差し出す。
「ようこそおいでくださいました、カメリア嬢。
私はグレーテの兄のニコラウスです。」
「では、貴方が今の理事長ですね。」
ニコラウスは「まぁ、一応肩書きはそうです。」と苦笑いした。
「ニコラウス先生、何をしている。」
ニコラウスの後ろから黒い神父服をきた年老いた男性がこちらに来た。
フリーデリンテは「あちらはガースン神父、この学園の教育責任者だよ。」と私たちに教えてくれた。
ニコラウスは「ガースン神父、探偵のカメリア嬢が来てくださったのです。」と答えたが、ガースン神父は眉を吊り上げた。
「ニコラウス先生、私に断りもなく探偵を呼ぶとはどういうつもりかね。」
「申し訳ありません。
ご報告を怠ってしまったのは私の失態です。
何分この非常事態で慌しかったものですから。」
ニコラウスは謝罪したが、ガースン神父はなおも叱責を浴びせる。
その様子を見て、フリーデリンテはカメリアにこそりと囁く。
「ガースン神父は前理事長のときからの教育責任者なんだ。
ニコラウス先生はまだ若く経験が浅いから、強く意見できないのだよ。
ガースン神父もそれをわかっているからあの態度なのさ。」
この学園の頂点に立っているのはガースン神父、ということか。
フリーデリンテは「さぁ、我々は先を急ごう。」と私とカメリアを促した。
渡り廊下では、数人の警官が集まって捜査をしていた。
その中心にいた女性は、カメリアを見つけると敬礼した。
「この事件を担当いたします、王国警察のスタンフォードです。
カメリア様、ヒルダさん、お久しぶりです。」
熟練の女刑事、スタンフォード警部補は、以前カメリアが関わった別の事件も担当していた。
「警察関係者でない私が立ち入ることを許可してくださいますか。」
カメリアの頼みをスタンフォード警部補は承諾してくれた。
「学園の生徒にとっては、我々警察よりも歳の近いカメリア様のほうが話しやすいこともあるでしょうから。
しかし、情報の共有は徹底していただきます。」
カメリアが「もちろんですわ。」と微笑むと、スタンフォード警部補は「事件解決のため、我々も貴方に協力いたします。」と応えた。
「早速ですが、事件の詳細をお話ししますので、どうぞこちらへ。」
スタンフォード警部補の手招きを受け、カメリアは遺体が横たわっていた場所へと足を進めた。




