2 カメリアへの依頼
「マヤは殺されたんです。
何度も何度も、鞭で打たれて…。」
依頼人、グレーテは涙ながらにそう訴えた。
真剣に耳を傾けていたカメリアは、彼女の従者である私に「ヒルダ、グレーテ様にハンカチをお渡しして。」と命じた。
グレーテが落ち着くのを待って、カメリアは「それで、その犯人を探して欲しいと言うのが私への依頼ですの。」と尋ねた。
グレーテはこくりと頷く。
「いくつもの事件を解決したというカメリア様なら、きっとわたしたちを救ってくださると思ったんです。」
公爵令嬢、カメリア・フォン・シュテルンベルクにはもう一つの顔がある。
それは、殺人事件の真相を明らかにする探偵としての顔だ。
悪趣味な悪女と陰口を叩くものもいる一方で、彼女の聡明な頭脳を頼る者もいる。
目の前に座る少女グレーテもその一人だ。
グレーテは全寮制の修道女学院に通う生徒で、前理事長の娘だ。
グレーテは学園の生徒を代表し、カメリアのもとを訪れたのだ。
潤んだ瞳で助けを求めるグレーテに、カメリアは「私でよろしければお力をお貸ししますわ。」と優しく言う。
「けれども、王国警察に連絡はいたしましたの。」
「マヤの遺体が見つかってすぐ、マザーが警察を呼びました。
今も捜査がされています。」
しかしグレーテは、「警察にはすべての謎を解くことはできないと思います。」と言う。
「あら、どうしてですの。
この国の警察は優秀ですわよ。」
グレーテは「警察を信用していないわけではないんです。」と首を振る。
「でも、学園で起こっている事件はもうひとつあるんです。
その事件は、警察のような近代的な組織に身を置かれている方々にはきっとご理解いただけないのです。」
俯きがちで語るグレーテの言葉に、カメリアは不思議そうに眉を寄せる。
「それはどんな事件なんですの。」
「マヤが殺されるより1週間ほど前のことです。
うちの学園の校庭には、大きな聖母像がありました。
その聖母像は学園の創設時に教会から贈られたもので、創設依頼校舎を見守ってくださっていたのです。
その聖母像が破壊されたんです。」
カメリアは納得した表情を浮かべる。
「信仰の厚くない方や他の教派の方には、ただの器物損害として扱われてしまうでしょうね。
けれども、信仰深い貴方方にとってはとても深刻な事件ですわね。」
修道女学院では、学園の教えの基盤に宗教的価値観がある。
伝統と規律を重んじた教育を施される学園内では、神への信仰は外の世界よりもずっと重要だ。
グレーテは「わたしたちにとって、聖母像の破壊は神へ背く行為。殺人にも等しい恐ろしい行為なんです。」と述べた。
思考をめぐらすカメリアは人差し指で唇をなぞる。
「その聖母像の破壊は、学園内の人間により行われたと貴方は考えておられるのかしら。」
「前日の夕刻までは聖母像はいつも通りでした。
聖母像が壊されたのは夜の間です。
夜間は学園の全ての門に鍵がかけられます。
窓が破られたり、扉が壊されていることはありませんでした。
外の人間がいたずらをしたとは考えにくいんです。」
「学園で他に壊されたものや、盗まれたものはなかったのですか。」
「ありません。」というグレーテの返答に、カメリアは「それでは強盗の仕業ではないのですね。」と述べた。
「聖母像の破壊とマヤが殺されたことに関係があるかはわかりません。
でも、学園には神をも恐れぬ悪しき者が潜んでいるんです。」
ぐっと握りしめていたグレーテの手に、カメリアはそっと手を重ねる。
「ご依頼はお引き受けいたしますわ。」
カメリアはすっと立ち上がり、私の方へ向き「ヒルダ、準備をお願いします。」と命じる。
「修道女学院に向かいます。
ヒルダ、貴方もついてきてくださいますか。」
私は「もちろんでございます。」と答える。
「カメリア様をお守りすることが私の仕事なのです。
どこまでも貴方についていく所存です。」
カメリアは「ありがとう。」と口角を上げる。
そして彼女は依頼人グレーテに宣言する。
「修道女学院で何が起こっているのか、私が明らかにしてご覧に入れますわ。」




