第8話 英雄の墓は嘘を守る ――神話を壊す者は、最初に石を投げられる
英雄アーサーの墓は、帝都中央広場にある。
白い石柱。
永遠の火。
市民はそこに花を供える。
今朝、その墓が爆破された。
石柱は崩れ、
炎は消え、
広場は怒号に包まれている。
私は瓦礫の前に立つ。
「……始まった」
背後から声。
若い警吏だ。
「あなたの仕業ではないだろうな」
「違う」
だが、匂いがする。
火薬ではない。
恐怖と、計画の匂い。
墓石の内部に、空洞がある。
私は指をかけ、石を砕く。
中から出てきたのは――
改竄された処刑記録の原本。
警吏が息を呑む。
「これは……」
「誰かが隠していた」
群衆がざわめく。
「英雄を冒涜するな!」
怒号が飛ぶ。
私は記録を開く。
そこに書かれていたのは、
第2話の事件名。
帝都・連続小指切断事件。
犯人欄には、二つの名。
一つは獄死した男。
もう一つは――
警務総監の祖父の名。
空気が凍る。
「……これは偽造だ!」
誰かが叫ぶ。
だが私は知っている。
紙の匂いは八〇年前のもの。
「アーサーは、貴族を守った」
広場が静まり返る。
警吏が私を見る。
「公表すれば、帝都は割れる」
「そう」
「それでもやるのか」
私は一瞬、迷う。
第5話の痛み。
第6話の報い。
思い出す。
だが、今は違う。
「今回は、隠す理由がない」
群衆に向き直る。
「英雄は、嘘を選んだ。
だがそれは、街を守るためだった」
ざわめき。
「問題は、嘘そのものではない。
嘘を永遠に神話にしたことだ」
警務総監が現れる。
「記録を渡せ」
その声は冷たい。
私は渡さない。
「これを公表する」
「内乱になるぞ」
「ならない」
私は言う。
「真実を受け止めるほど、帝都は弱くない」
一瞬の沈黙。
その瞬間――銃声。
記録が撃ち抜かれる。
群衆が悲鳴を上げる。
黒衣の男たちが現れる。
「証拠を回収せよ」
警吏が剣を抜く。
「あなたの味方になるとは思わなかった」
「英雄は尊敬している。
だが、嘘は守らない」
二人で背中を預ける。
戦いは短い。
黒衣は退いた。
だが記録は、半分燃えている。
残ったのは、
改竄を示す一文だけ。
広場に沈黙が落ちる。
英雄は、完全ではなかった。
その事実だけが残った。
私は空を見上げる。
神話は壊れた。
だが街は、まだ立っている。
警吏が言う。
「これで終わりか?」
「いいえ」
私は呟く。
「嘘を守る者たちがいる」
視線の先。
黒衣の男の一人が、遠くで微笑んでいる。
胸元には、
アーサーの紋章。
――英雄を守る組織。
私は理解した。
本当の敵は、
死んだ男ではない。
神話を利用する者たちだ。
夜風が吹く。
広場の火は、再び灯される。
だが、もう以前と同じ光ではない。
私は言う。
「次は、彼らを暴く」
若い警吏が静かに頷く。
帝都は、揺れ始めていた。




