第7話 水門区、消えた孤児たち ――正義は刃だ、だが振るう者を選ぶ
水門区は、帝都の底だ。
水路は濁り、
建物は傾き、
子どもは名前より先に空腹を覚える。
孤児が三人、消えた。
記録はない。
騒ぎもない。
底の街では、人が消えることは珍しくない。
だが今回は違った。
「あなたが動いていると聞いた」
背後から声。
振り返ると、若い警吏が立っていた。
第2話で命を救ったあの青年だ。
「……まだ警務にいるの」
「あなたのおかげで」
その目は、尊敬と警戒が混ざっている。
「だが今回は、あなたに好きにさせない」
「なぜ」
「英雄アーサーは、街の安定を優先した。
あなたは違う。
あなたは、真実のために秩序を壊す」
痛いところを突く。
「子どもが消えている」
私は答える。
「秩序は、守れていない」
彼は黙った。
地下水路。
匂いが濃い。
恐怖と、薬品と、甘い香。
私は走る。
警吏もついてくる。
辿り着いたのは、廃倉庫。
中で見たものは――
子どもたち。
檻。
そして白衣の男。
「帝都の未来を選別しているだけだ」
男は言った。
「病弱、無能、反抗的。
不要な芽を摘む。
それが本当の慈悲だ」
まただ。
また“慈悲”。
だが今回は違う。
檻の中の少女が、震えながら私を見る。
「……たすけて」
その一言で、何かが切れた。
私は動いた。
一瞬だった。
白衣の男は壁に叩きつけられ、
意識を失う。
警吏が息を呑む。
「あなたは……」
「今回は、記録だけじゃない」
檻を破壊する。
子どもたちを抱え上げる。
警吏が言う。
「これが公になれば、水門区は暴動になる」
「ならない」
私は答える。
「今夜、全員保護。
証拠押収。
あなたが指揮を取る」
「俺が?」
「英雄になりなさい」
彼は震えた。
だが、頷いた。
翌日。
水門区は騒然となったが、暴動にはならなかった。
孤児院の改革が決定。
地下医療施設摘発。
子どもたちは生きている。
私は屋根の上から、それを見る。
胸が熱い。
これは後悔ではない。
これは――怒りの後の静寂だ。
警吏が屋根の下から言う。
「あなたは、アーサーとは違う」
「そう」
「だが……間違っていないと思う」
私は初めて、少しだけ笑った。
夜風が吹く。
次の頁をめくる。
――『英雄アーサー、処刑記録改竄疑惑』。
帝都が、ついに本丸を差し出した。
私は呟く。
「――ここからが、本当の戦い」




