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『名探偵の葬列はもう終わった。——不老不死の助手が、80年前の「間違った推理」を正す旅に出る』  作者: 和三盆


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第5話 北の高原、首なし公爵事件 ――真実は首を持たない、だが責任は残る

首がない死体ほど、雄弁なものはない。

語る口を失ってなお、

「なぜ殺されたか」を人に考えさせる。


北の高原は、帝都よりも空が近い。

風は冷たく、音を削ぎ落とす。

私は、霧の中に立つ古城を見上げていた。


首なし公爵事件。

四〇年前。

北方を治めていた貴族、エドガー・フォン・ルーヴェン。

自室で、首を切断された状態で発見された。


犯人は捕まらなかった。

動機も、凶器も不明。

そして――

「反乱を防ぐため」、事件は未解決のまま封印された。


アーサーの手帳には、短くこうある。


『真実を明かせば、戦争になる』


私は城に入る。

誰もいない。

それでも、空気は張りつめている。


寝室。

血の痕は床に残っていない。

清掃されすぎている。


「……消しすぎだ」


首は、見つかっていない。

それが、この事件の核心だ。


私は、壁の裏に隠された小部屋を見つけた。

そこにあったのは、

乾いた血の跡と、古い日記。


公爵自身のものだ。


『私は間違えた。

 だが、引き返せない』


読み進めるうちに、理解した。


公爵は、民を守るために

隣国との密約を結んでいた。

裏切り。

だが、それで戦争は防がれていた。


彼を殺したのは――

忠臣だった。


首を落とした理由は、処刑ではない。

公爵の署名を偽造するため。


死後も、公爵に「決断させ続ける」ために。


私は、真実に辿り着いた。


同時に、気づいてしまった。


この真実は、

今、明かしてはいけない。


公表すれば、

・密約は露見

・国境は燃え

・死者は増える


アーサーは、それを知っていた。


「……あなたは、正しかったのかもしれない」


初めて、そう思った。


私は城を出る。

何も書き換えない。

何も暴かない。


その夜、忠臣は静かに死んだ。

自ら、命を絶った。


真実は、墓の中に残った。


私は手帳に、書けなかった。

未完とも、虚偽とも。


ただ一行、震える文字で書いた。


――『首なし公爵事件:封印』


胸が、痛んだ。

第3話とも、第4話とも違う痛み。


これは、嘘を選んだ痛みだ。


だが――

もし選ばなければ、もっと多くが死んだ。


私は、歩き出す。

正しさが、必ずしも善ではないと知りながら。


次の頁には、何も書かれていない。

初めてだ。


風が吹く。

霧が城を覆い隠す。


首のない真実は、

今日も誰かの平穏を支えている。


私は、問いを胸に残したまま、帝都へ戻った。


「――私は、どこまで真実を選べるのだろうか」


答えは、まだない。

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