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禁忌の第七王子と精霊の少女─その恋は王国の理を覆す─  作者: 七天宮 凛


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第62話 決断の夜

 夜の集まりへ向かう途中だった。

 廊下の先に、人影。

 視線が、襟元へ落ちる。

 白銀の飾章。


 見間違えるはずがない。


 ――アストラル王国。王族付きの護衛。


 リアンは、足を止める。


 気配を殺し、物陰へ滑り込んだ。


「レイヴン殿下。姿が見えず、探しました。

 先に動かれるなら、一言いただけると――」


 レイヴンは答えない。

 ただ、視線だけを向ける。


「……父上に伝えろ」


「ミストフォルン王は、支援を望んでいない」


 ほんの一瞬、沈黙。


「俺は、しばらくここに残る」


 それきり、口を閉ざした。


 ――何をするつもりだ。



 部屋の中央にあるテーブルを囲み、全員が腰を下ろしていた。


 クラウスが、ゆっくりと口を開く。


「これからのことを決めよう」


 短い言葉が、場を引き締める。


「ティアラの父を救うため、精霊国へ向かう」


「その上で――光絶の儀も、止める」


 空気が、わずかに張り詰めた。


 リアンが、間を置かずに言う。


「……俺は行く」


 言い切った。


 リリスが、そっとリアンを見る。

 それだけで、十分だった。


「……私も、行きます」


 静かだが、確かな声だった。


 ルカが、肩の力を抜くように笑った。


「精霊国、一度行ってみたかったんだ」


「――だから、僕も行く」


 軽く笑ったまま、目は逸らさない。


 ユラが、クラウスへ一瞬だけ視線を向ける。

 すぐに、言葉を続けた。


「私も、同行させてください」


 その声に、迷いはない。


 そのとき――

 扉が、静かに開く。

 レイヴンが入ってきた。


 誰も、口を開かない。


 レイヴンの視線だけが、ティアラに向いている。

 そのまま、席に着く。


 クラウスが、軽くレイヴンに視線を向けた。


「ちょうどいいな。今決めてるところだ」


「精霊国に行く。ティアラの父を救うために」


 短く、要点だけを告げる。


 レイヴンは、何も言わない。

 ただ――ティアラを見る。


 クラウスの説明を、黙って聞く。


「……俺も行く」


 一瞬だけ――

 リアンと、レイヴンの目が合う。

 言葉はない。

 だが――

 同じ場所へ向かう意思だけは、はっきりと伝わる。


 けれど――

 見ている先は、違っていた。


 異を唱える者はいない。


 ティアラが、顔を上げる。

 ひとりひとりを、確かめるように見ていく。

 最後に――リアン。

 ほんのわずかに、表情が緩んだ。


「……ありがとう」


「みんながいてくれて、よかった」


 小さな声だった。

 それでも、はっきりと届いた。


 場の空気が、少しだけ柔らいだ。

 

 クラウスが、ひとつ頷く。


「じゃあ――明日の朝、出発だ」


 そこで一度、言葉を切る。


「問題がある」


 リアンが目を細める。


「……アストラル領か」


「ああ」


「避けては通れない」


 ルカが肩をすくめる。


「目立てば終わりだね」


 短い沈黙が落ちる。


 クラウスが言う。


「――だから、先に動く」


「――明日の朝だ。準備しておけ」


 空気が、変わる。


 ――もう、止まらない。




 ――ミストフォルン領内での大規模な精霊反応と、ほぼ同時刻。


 霧が、わずかに揺らぐ。

 風ではない。

 外界で起きた“何か”に呼応するように――境界そのものが、軋んだ。


 精霊国ルミナシア


 静謐の間に、淡い光が脈を打つ。


「――反応、検知」


 低い声が、静かに落ちた。


「座標、外界。ミストフォルン領内」


 短い沈黙。


「王族核の出力、急激に上昇」


「広域展開――複数対象への同時干渉を確認」


 空気が張り詰める。


「……人のために使ったか」


 別の声が、淡く応じた。


「使用規模、異常」


「……一人で扱える量じゃない」

 

「それでも」

 

「……それでも、維持している」


 短く、返る。

 光の像が浮かび上がる。

 そこに映るのは――

 銀の髪の少女。

 無数の命を繋ぎ止めた、その中心にいる存在。


「……理を、越えたな」


 誰かが、そう呟いた。

 沈黙が落ちる。


「精霊王の判断は」


 問いが、静かに投げられる。

 すぐには、声は返らない。


 だが――

 空間が、一瞬だけ“書き換わった”。


 次の瞬間。

 同じ答えが、全員の中にあった。


「……干渉の許容範囲を逸脱」


「放置は不可」


 その判断が、言葉になる。


「対象、外界にて覚醒段階へ移行」


 淡い光が、わずかに強まる。


「――回収を視野に入れる」


 その決定は、静かに全体へと浸透していく。

 迷いは、存在しない。


 ――だが。


 ひとつだけ、わずかな揺らぎが生まれる。


「……だが」


 低く、続く。


「これまでとは違う」


「今回は――」


 わずかな間。


「禁域に触れている」


 空気が、静かに張り詰めた。


「……本来、触れてはならない領域だ」


 誰かが、抑えた声で言う。


「生死の理に、干渉している」

 

 その事実だけが、重く落ちる。


 光が、ゆっくりと収束していく。

 それが導きなのか、

 あるいは――制約なのか。

 まだ、誰にも分からない。


 確かなのは、ただひとつ。

 精霊国ルミナシアは、

 すでに次の段階へ移ろうとしている。








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