第9話 成功体験
カードゲーマーって世間的な評価低いし、かくいう俺もあまり良い印象は抱いていなかった。正直なところ、今でも多少の偏見はある。
でもな、なんやかんやで彼らは凄いと思うよ。だって……。
「で、紆余曲折あったけど公式の見解としては、このカードに関しては破壊されないんだよ。同じようなテキストのカードは色々あるけど、このカードだけね」
アホみたいに複雑なんだもん、カードの効果の処理が。
似たようなテキストなのに効果が全然違ったりとか、同じテキストでも公式の裁量で処理が変わるとか、意味がわからんって。確かこのカードゲームって、カードの種類の多さでギネスに載ってた気がするんだけど、全部覚えなきゃダメってこと? 無理に決まってねえか?
「心、お前よくこんな複雑なモノを人に説明できるな」
「えっ、凄い? 私、凄い?」
羨望されていると勘違いしたのか、机から身を乗り出して顔を近づけてきた。キラキラしたエフェクトが見えそうなくらい、目が輝いている。
「まあ、凄いっちゃ凄いかな」
「んふふふ……そっかぁ……ふふふ……」
ここでいう言う〝凄い〟は、羨望とか尊敬とは全くの別物なのだが、ここまで嬉しそうにされると言えんよな。
これはなんだ? 承認欲求? 初心者が回れ右をするほど複雑なゲームを、完璧に理解できているという優越感? 別になんでもいいんだけど、俺を巻き込まないでほしい。そろそろ頭が痛くなってきた。
「あのね、あのね、私さ、大会とか出ようと思うんだけど……どうかな?」
何が? 勝手にすればいいんじゃないの? まさかとは思うけど、一緒に出たいという意味じゃあるまいな? 絶対嫌だぞ? 身内同士でも気を遣うのに、大会でモタモタするとか絶対嫌だぞ?
「私結構自信あるんだよねぇ。運次第では優勝しちゃうかも」
「……そうですか」
「大会って、初心者の人も観戦しにくるらしいよ」
「……そうなんだ。初心者が観戦したところで、早すぎて理解できないだろうに」
えっと、何が言いたいんだ? 別にコイツの順位とか興味ないし、ギャラリーの熟練度とかもどうだっていいんだけど。
「大会出る女性って少ないし、私って自分で言うのもなんだけど、それなりに可愛いでしょ? 少なくとも女性カードゲーマーの中ではトップクラスじゃない?」
〝少なくとも〟なのにトップクラスなのか。女性カードゲーマーの平均的なルックスを知らないからなんとも言えんけど、実際そうなんだろうな。
「勿論全部断るつもりだけどさ、心が痛むよねぇ」
「え、どういうこと?」
あれ、話を聞き逃した? 今、急に飛ばなかったか?
「だからほら、私が優勝しちゃったらアプローチされちゃうでしょ? 微塵も興味ない男性相手でも、フるってのは精神的にキツいだろうなあって」
……? なんの話? どういうこと?
告白を断るのがキツいってのは、まあわかる。でも優勝したらアプローチを受けるというのがよくわからん。カード大会って婚活会場なの?
「小学生のプレイヤーとかもいるし、私の優勝が取り上げられた暁には、苦い初恋を経験する小学生が全国に……。ああ、私って罪な女……」
さっきから何を言ってる? そりゃまあ、本当の意味で罪な女だとは思うけど。無人島に拉致監禁してくるし。
「もしかしてなんだけど……いや、さすがにありえないし、間違ってたらゴメンなんだけどさ……」
「ん? なあに?」
いや、その……めっちゃ聞きづらいんだけど……まさか……。
「カードゲーム上手いとモテるって思ってる? モテるわけないんだけど」
さすがに……さすがにないよな?
「えっ……」
衝撃の事実が発覚したと言わんばかりの顔をする心。スリーブに入れてまで大事に扱っていたカードを落としたあたり、ガチショックなんだろうな。
いや、ショックを受けたのは俺だよ。幼馴染が小学生レベルの勘違いをしてるんだもの。恥ずかしいよ、俺。
「で、でも凄いって……」
「そりゃ凄いよ。俺には難しいもん。でも惚れるかって言われたら、それは違う」
早い話、先日一緒に行ったカードショップでモテてるヤツいた? 女性客をチラチラ見てるヤツはいたけど、女性客はお互いに友達しか見てなかったよ。
「で、でも! カードゲームのアニメって、主人公モテるよ? ライバル達もヒロイン達も、強い人ほどモテてるよ?」
「残念だが、ここは現実なんだ」
カードゲームのアニメについて詳しいわけじゃないけど、よくあるホビーアニメと同じでしょ? ああいう世界って、ほぼ全ての人間がオモチャに夢中になってるわけじゃん? でも現実は一部の人しか興味を持ってないし、その一部の人達からしても遊びの一つでしかないわけじゃん? うん……そういうことなんだよ。
「で、でもさあっ! 世間では〇〇女子とか、〇〇ガールってワードが浸透してるでしょ?」
「してるけど、だからなんだよ」
多分だけど、マーケティングの一環だろ。特別感を出してあげれば、女性の参入率が上がる的な。いや、知らんけど。
「撮り鉄とかゲームとか、女の子がそういう趣味を持ってたらSNSでいっぱいお誘いくるでしょ? ってことは、カードゲームが強いとモテるんじゃ……」
「違う違う! それオタサーの姫的な感じだから! 言っちゃ悪いけどまともな男にはモテないから!」
女性に飢えてる奴らが群がってくるのはモテるって言わないんだよ。
「でもカードゲーム上手い男の人って自信満々に教えに来るでしょ? フレンドになろうとしてくるでしょ? それはモテるがゆえの自信……」
「違うよ! モテると思い込んでるだけだよ! 今のお前と同じで、勘違いしてるだけなんだよ! 本当にモテるなら初対面でガツガツこねえから!」
「そんなっ!」
あっ、自分の過ちに気付かされた人間ってそういう顔するんだ。漫画だったら背景に雷が落ちてるよ。
「じゃあ必死に勉強したあの日々は無駄だったの……? 転売ヤーだと誤解されかねない勢いでパックを買い占めたお金は無駄金だったの……? 大会上位者や制作会社の人達を呼んで講義をしてもらったのは無駄だったの……? PC版でランクマッチに潜り続けた日々は無駄だったの……?」
なんか知らんけど、かなり努力してたんだな。どれぐらいの期間頑張ってたか知らないけど、積み重ねてきたモノが一瞬で崩壊するってのはツラいだろうな……。
「……五種類ほどカードゲーム極めたんだけど無駄だったんだね? コマのオモチャとかヨーヨーとかその他諸々も極めたけど、だからといって女としての魅力は上がらないんだね? あは……あはは……私はなんて無駄な時間を……」
うわぁ……この人、青春とお小遣いをホビーに捧げたんだ……。多分だけど、百万円どころの話じゃないよな? なんで無駄な努力だと自力で気づけなかったんだ、コイツ……。脳みそもオモチャなのか?
「二人でカードゲームを極めて対戦し続ければ、自然と愛が育まれると思ってたんだけど、私の勘違いだったんだね」
まいったな、かける言葉が見つからない。後のことを考えなくてもいいなら、『少し考えりゃわかるだろ、バーカ!』って言葉をぶつけてるんだが。
とりあえず慰めとくか、コイツなりに頑張ったわけだし。
「……本気だったってことは伝わったよ、ありがとう」
「えっ……」
「方法はともかく、ここまで全力で取り組めるやつはそうそういないよ。恋に落ちるかどうかは別というか、絶対に落ちる気はないけど、俺のために本気で頑張ってくれたのは嬉しいよ。決して好感度は上がらないけど」
恋にここまで真剣になれるってことに関しては尊敬するよ。もうちょっと方法考えてほしいし、可能であれば別の男にその感情を向けてほしいけど。尊敬より憐憫とか侮蔑の感情のほうが大きいけど。それでも凄いってことにはかわりないよ。
「よ、喜んでくれた……? カードゲームを極めたおかげで……?」
うん……?
「本気で愛に生きる女は素敵ってこと? 私の熱意が伝わったってこと?」
「えっ?」
「私の本気を受け止めてくれるってことだよね? 何をしても怒らないし、嫌いにならないってことだよね? もっと本気の私が見たいってことだよね?」
……慰めるんじゃなかったなぁ。なんだったら何も言わず、大会に行かせておけばよかったよ。教えたがりオジさん的な人に囲まれちまえばよかったんだよ。
非常にまずい展開だ。成功体験をさせてしまったよ。厳密に言うと、成功体験だと思い込ませてしまったよ。
「こうしちゃいられないよ! もっと! もっと本を読まなきゃ! アニメを、ドラマを、映画を……ありとあらゆる恋愛物語を見なきゃ! 心理学や薬学、クローン技術、生物学、もっともっと色々な知識を吸収しなくちゃ!」
……尊敬するよ。




