第7話 畳み掛け
「おはよう! 今日もいい天気だね!」
「……ああ」
出会った瞬間に体をベタベタ触ってきたのだが、これは一体なんですか? ボディチェック? 俺、これから要人にあうの? 用心しなきゃいけない相手には会ってるんだけど。
「心? 俺、何も危険な物は持ってないよ?」
「き、危険なモノ……!?」
おい、なんでそこで赤面する? 体中くまなく触られてる俺が赤面するのはわかるけど、なんでお前が?
「そ、そんなところ触れるわけないでしょ! エッチ! 最低!」
おい、なんで後ずさる? 誤解を受けるようなことを言わないでもらえるか?
「やっぱり男の子は、そこを触って欲しがるんだ……どうする私? このチャンスを掴むべき……?」
またなんかブツブツ言い出したし。〝掴む〟って聞こえた気がするけど、やめてくれよ? 嫌な予感がするからさ。
「とりあえず一歩前進だね……ふふっ、我ながらさりげなかった……」
「おーい? 置いていくぞー?」
「あっ、ごめんごめん。行こっか」
なんか知らんけど、作戦が上手くいった時の顔をしてるな。正確には、作戦が上手くいったと思い込んでる時の顔だけど。
まあ、今日は食パン咥えてないし、芋けんぴもついてない。だからよしとしよう。
心は今日も、相変わらず教科書を持ってきていない。これが通常運転だから、それは別にいいんだけど……。
「あっ、ごめん……」
顔を赤らめながら、触れ合った手を引っ込める。
うん、わざとだよね? この授業だけで十回以上はこのやりとりしてるけど、明らかに触りにきてるよね? なんで毎回顔を赤らめることができるのか、不思議でならないんだけど。
どうせアレだろ? なんかの本で『ボディタッチで男の子の気を惹きましょう』みたいなテクニックを目にしたんだろ? これだけの頻度でボディタッチされると、さすがになんも思わんよ。いい加減、数とかボリュームで攻めるスタイルやめたほうがいいと思うんだけど。
「……まだダメなのかな? 威力? 威力が足りない?」
なんか不穏なことを呟いてるんだけど、俺はどう動けばいいんだろう。阻止したほうがいいのかな? この異常に頻度の高いボディタッチに威力が加わったら、命に関わるんだけど。
「慎一! ほれほれ!」
「……? 闘牛?」
なんか赤い布を目の前でヒラヒラしてきてるんだけど、喧嘩売られてるの? 家に呼ばれて早々、帰りたくなったんだけど。
「もー!」
あれ、お前が牛? 俺じゃなくて、お前が? たしかに狂牛病っぽいけど。
「ってかその服は何? 踊り子?」
口元やら袖やら腰元やら、いたるところにヒラヒラしたものを身に着けてるけど、何があったの? 頼むから、その格好で屋外に出ないでくれよ?
「嬉しいよね?」
「えっ、何が?」
可愛い衣装を見れて嬉しいかってこと? その珍妙さでそのフィードバックを求めるのは図々しくない?
「揺れてるよ? ほら」
揺れてるのは脳みそだよ、お前は常に脳震盪で正常な思考ができなくなってるよ。
「あっ、もしかして胸? 胸も揺らせってこと? うー……男子ってサイテー……」
何もかもわからん。服装も言動も意味が全くわからん。今日も今日とて、やたらと体を触ってくるし。っていうかよく見たら、また芋けんぴが刺さってるし。今日は一本だけなんだね、偉いね。
「えーい! これを見ろー!」
これまた突拍子もない行動だ。五円玉らしきものを目の前で揺らしてきたのだが、もしかして催眠術かけようとしてる? 恋愛テクニック(らしきもの)が全く通じないから、強硬手段に出ようとしてる?
「告白しろー! 私に愛の言葉を囁やけー! 可愛いって言えー!」
絶対、催眠術ってそんな勢いでかけるもんじゃないと思う。どちらかと言えば覚醒術だよ。眠気覚ましだよ。そして要求が相変わらず可愛いな。
「私と同じ墓に入ると誓えー! 一緒に子供の名前を考えろー!」
要求の振れ幅が酷すぎるだろ。これが絶叫マシンだったら、気圧の変化で死んじまうよ。っていうか相手がかかってることを確認してから、そういう願望を口にしろ。
「ごめん、帰っていい?」
「き、効いてない!? 特殊体質!?」
特殊なのはお前だよ、もう二度と本を読むな。
あー、頭が痛くなったきた……。催眠の才能はないけど、頭痛を与える才能はあるよ。呪術師目指したほうがいいんじゃない? いや、絶対やめてね? っていうかマジでやめてね? 黒魔術とか儀式とか、そういう本を絶対読まないでね?
……コイツの家の図書館、今すぐにでも燃やしたほうがいいんじゃないか? ネットも繋げないようにして……いや、いっそのこと幽閉したほうがいいのでは?




