第4話 敵陣
俺が知らない間に取り付けられた放課後デートの主導権は、俺にあるらしい。迷惑な話だが、考えようによってはチャンスじゃないか? 振り回されなくて済むというのもありがたいが、何よりもわざと失敗できるじゃん。
コイツはお喋りな性格、つまり会話ができないところがいいんじゃないか? となれば映画館……は、やめておくか。暗がりだと何されるかわからんし。ならば無難に図書館にしておこう。人目があるから多少の安全は確保されるはずだ。
……と、まあ、我ながら完璧なプランだったんだけどなぁ。
「何ここ? 大学の図書館?」
「私の家の図書館だけど?」
さも当然のように答えているけど、普通は一般家庭に吹き抜けの図書館なんてないからな? 上の棚を見るだけで首が痛いんだけど。
「勿論、娯楽室もあるよ? 視聴覚室とかもあるし。あっ、ちなみに受川家の斜向かいにある建物は、スポーツジムになってるよ」
「俺ん家のご近所さんを軒並み立ち退かせたかと思えば……」
金持ちの考えることって本当にわからんよね。今まで気にしてなかったけど、俺の家の周りがアウトレットモールみたいになってるじゃん。徒歩圏内でなんでも好きなことができちゃうじゃん。
「お前ん家がなんの仕事してるか知らんけど、いくらなんでも大金を湯水のごとく使いすぎじゃないか? 別にこの辺の建物で利益を出してるわけじゃないんだろ?」
「そうだね。一応この辺の土地は、商業施設を建ててもいいけど、全部住宅だね」
ただの趣味でスポーツジムを……? この書庫も、ただの趣味? 開放して入場料取ってもいいんじゃないの? こんな数千冊……いや、数万冊? 夢想家だけじゃ持て余すだろ。
「何故こんな無駄遣いを? 普通に広い土地を購入して、お屋敷でも建てりゃいいんじゃないの? ここまで小分けにする意味ある?」
「意味ならあるよ? 慎一が、ご近所に住んでるエッチなお姉さんと、恋に発展する展開を防げるでしょ?」
防ぐまでもないと思うよ。だって現実でそんな展開ありえないもん。
「ありとあらゆるデートが、慎一の家の周りだけでこなせちゃうんだよ? これって夢のようじゃない?」
「ああ……まるで夢だな」
是非とも夢であってほしいよ。大体のデートが、コイツの巣で行われるってことだろ? 回避しようと思ったら登山とか海に行くしかないけど、プライベートビーチぐらい持ってそうだよなぁ。
「せ、せっかくのデートなんだし、街の図書館に……」
「ここより本がある図書館なんて、国立国会図書館ぐらいだと思うよ? ここさえあれば、本屋さんにさえ行く必要がないよ?」
その話を聞かされると、ちょっと揺らぐんだけど。心と交際したら、読書しほうだいじゃん。そのメリットを帳消しするぐらい頭がおかしいけど。
「でも風情が……」
「ここなら喋り放題だし、飲食しながら読書できるよ? 何より、美人司書にたぶらかされる心配もないし」
その喋り放題が俺にとってデメリットなんだよ。あと、後者はいらぬ心配だよ。そういう展開は現実じゃありえないし、そもそも日本の図書館に美人司書なんているわけねえだろ。いや、全国津々浦々探し回れば数人はいるかもしれんけど……。
「何か共同研究してみる? 夢想家が独自開発したAIを使えば、討論から資料集めまでなんでもやってくれるよ?」
「お前の一族は、つくづくスケールがデカいな……」
AIってお前……どれだけ俺を他人と関わらせたくないんだよ。心理としてはわかるよ? 心は昔から少女漫画とかラブコメが好きだから、ハーレム展開を恐れているんだろうね。でもな? あくまでフィクションだからな? 人って、そんな簡単に恋に落ちたりしないし、ハーレムの輪に自ら入る女性もいないんだよ。
「私のところが提供してる〝本の要約サービス〟と連携もしてるから、大雑把な情報だけで必要な本が見つかるよ。そしてその必要な本は、ほぼ間違いなくこの図書館に存在する」
両手を思い切り広げ、本棚に視線誘導してきた。改めて見ると、とんでもない蔵書量だな。金に換算するのもいやらしい話だが、これだけの本を揃えるとなると、軽く億は突破するよな。
「……はは、頭が痛くなってきたよ」
あまりにも生きてる世界が違いすぎる。違う世界で生きている上に、その違う世界の中でもより特殊な生き方してるよ。なんで俺なんかを求めてくるんだろう。
「大丈夫!? 仮眠室あるよ? あっ、日本中の医者を呼ぼうか?」
いや、頭が痛いってのは比喩表現みたいなものだっての。
「医者は事前に審査済だから、心配はいらないよ? お金も勿論こっちで……」
「いや、医者はいいよ。ありがとう」
大事になりそうなので、早めに誤解を解いておこう。心配してくれるのは嬉しいんだけど、ありがた迷惑もいいとこだよ。
「医者は不要……? あっ、つまり私とお医者さんごっこをするってこと!?」
つくづく別世界の人間だな、お前は! こういうのが嫌だから、公共施設で遊ぶことを提案したんだよ!
「いや、お医者さんごっこはさすがに……」
「慎一が責任を取ってくれるなら……いいよ?」
モジモジしながら、上目遣いでこちらを見てきた。狂気さえはらんでなければ、このまま勢いで……って展開もあるんだろうなぁ。本当に惜しいよ。基本的には魅力的な女性なのに、外れてないネジのほうが少なすぎてだな……。
ん? タブレット……? 一体何を……。
「ちょっと待っててね? 我が社のAIで、お医者さんごっこの指南書を探してもらうから」
「あってたまるか! んなもん!」
AIに対する虐待だろ、もはや。そんなもんを検索するために誕生したんじゃないんだよ、その子は。将来シンギュラリティが起こるとしたら、夢想家が原因になりそうで怖いよ。技術力と資金が豊富な上に頭がおかしくて、行動力も無駄にあるし。
「あっ……」
AIの答えが思いも寄らないものだったのか、小さく声を漏らす。どうせ見つからなかったんだろ? そりゃそうだよ、ないものは見つから……。
「エラー起きた」
「ん? そりゃ存在しない書物……」
「なんかね? 事件性があるようなこととか、エッチなこととかを質問するとエラーが出るみたい」
……ん?
「開発者に質問内容が丸々フィードバックとして送られて、AIに答えさせていい内容かどうか審議されるみたい」
……ん?
「あーあ、お父さんに色々聞かれちゃうなぁ」
……え? 何してくれてんの? それ俺にも火の粉が降り注いでくるヤツじゃん。
これを理由に強制的に婚約とかはないだろうけど、いかがわしいことをしようとしてたって誤解されるじゃん。心の両親は何故か俺らの関係を応援してるし、余計な希望を与えないでほしい。お節介が加速しちゃうじゃん。
どうしよ、日に日に状況が悪くなっている気が……。




