第21話 レポート
怪我の重さに対して入院期間が短い気もするが、なんとか無事に退院することができた。まあ、しばらくは激しい運動ができないし、念の為休学しているんだけど。
幸いにも心が図書館を開放してくれてるので、退屈することはない。
「んっ?」
長机の端に大量の本が積んであったので近づいてみたら、レポートらしき物を発見した。心が作成したのだろうか?
えっと、見てもいいよな? 無造作に置いてあるってことは、見てもいいってことだよな? まあ、仮にダメな物でも中身を口外しなけりゃ大丈夫だろ。そもそも俺程度に理解できると思えないし。
えっとなになに……タイトルは未定なのかな? というか、字がやけに汚いな。走り書きのメモって感じだね。
まあ考えてみればレポートなんて、今時パソコンで作るだろうしね。
んー、なんか難しいことがつらつらと書いててよくわからんけど、これはDNAの図か? 知らんけど、これって二重らせんってヤツだろ? 多分だけど、染色体?
「うおっ!?」
な、なんだ? 手書きじゃなくて印刷なんだろうけど、大量のアルファベットが並べられてるぞ。これ何桁だ? 一万桁とか二万桁とか、そんなレベルじゃないぞ。
んー……よく見ると〝A、C、G、T〟の四種類しかないっぽいな。探せば他にもあるのかもしれんが、桁数が多すぎて探す気にもなれん。
んで、要所要所に赤ペンでメモが書いてある。メモの意味はよくわからんけど。
うーん、ほとんど理解できないけど、生物学のレポートなのかな? 走り書きで読みにくい上に、難しい単語ばっかだし、メモだからか言葉が大幅に省略されてる感があるし、読み解くのは不可能だな。おそらく本人しかわからないパターンだ。
まあいいや、もうすぐ心が帰ってくるだろうし、読書でもして時間潰そっと。
「でね、海外ではペットのクローンを作るサービスがあるんだよ。数百万払ってでも死んだペットと再会したいって人は、ごまんといるだろうし」
俺が気まぐれで生物学の本を読んでいたからか、心が帰宅早々、興味深い話をしてきた。正直嘘みたいな話だけど、事実なんだろうなぁ……。
「へー……クローンって禁止されてると思ってたんだけど」
「ヒトのクローンに関しては研究でさえ手続きが面倒だけど、動物は国によるよ。実際、それで生計立ててる人もいるわけだし」
うーん、人間がダメってのは当然として、動物も大概じゃない? っていうか研究していいんだな。研究自体が禁止されてるもんだと思ってた。
「生き物の見た目とか性格はDNAによるところが大きいから、クローンも本物そっくりになるんだよ。ただ、記憶に関しては後天的な物だから、クローンでも受け継ぐことはできないと言われてるね」
「あー、言われてみりゃそうだな。クローンって記憶を含めて完全に同一人物ってイメージあったけど、そこまで甘くないんだな」
漫画とか映画でクローン人間とか出てくるけど、ありゃ誇張表現ってことだな。いや待てよ? ってことは何も知らない状態で生まれてくるのか? 大人のクローンでも? 新手の無知シチュだな。
「………………まあ研究自体が停滞してるし、なんとも言えないけどね」
「えっ? 将来的には、記憶ごとクローンできるかもってこと?」
「……………………………………科学は奥が深すぎて、私には見当もつかないや。ごめんね」
いや、別に正確な答えは求めてないから謝罪は不要なんだけど、それより今の間はなんだ? 俺の気のせいかもしれないけど、正しい答えを模索していたというより、誤魔化すかどうかを逡巡してるように見えた。ははっ、気のせいだよな? どうか気のせいであってくれよ。
「もし慎一が将来研究職につくとしても、クローンを研究しようなんて考えないほうがいいよ。あんなのまともな人が手を出すと、気が狂っちゃうから」
「え、うん。まあ、わかったけど……心の身近にクローンの研究者がいるのか?」
「……………………身近にはいないね」
またずいぶんと間があったな。今の溜めは『世界中探せばいるかもね』ということだろうか? よくわからんけど、そういうのに手を出すとしたら裏社会の人間なのだろう。だからなるべく俺を遠ざけようとしてくれてるのかな。
よしっ、俺もこの件に関しては深く考えないようにしよう。面白そうな話ではあるけど、好奇心のせいでコンクリ詰めにされちゃかなわんし。
「じゃあ最後に一つだけ聞くけど、クローン技術が規制されてなかったら、心はどう活用する?」
俺が思いつくのは、天才のクローンを作りまくって科学を発展させるって案ぐらいかな。あとはそうだな、最低かもしれないけど……エッチなことを……。
「そりゃー人体実験だよ。表向きには存在しない人間だし、オリジナルと別人なんだから、何をしても許されるよ」
えっ、何を言ってんの? 冗談に聞こえなくて怖いんだけど。
「い、いくらクローンでも精神的に辛くない? 人間だぞ?」
「………………最初の数体は辛いね」
「慣れるってか? 精神を病むほうが先じゃないか?」
「信念とか目的とか使命感とかその他諸々、それらと罪悪感のぶつかり合いだね。女の子を殴るのは罪悪感があるだろうけど、それで家族の命を守れるとしたら多少は薄れるでしょ? 多分だけど、法律や倫理に背いてる人達って、そうやって精神守ってるんじゃないかな」
あー、なんだっけ、自分の落ち度を正当化するのって、ある意味ではまともなメカニズムなんだっけ? 防衛本能的な?
そう考えると心の言い分はもっともらしいんだけど、なんだろう……妙なリアル感というか、経験に基づいてそうな雰囲気が……。




