第19話 詮索中止
長期入院は初めてだが、思ったよりも快適だ。まあ、それもひとえに心という特殊な幼馴染がいるおかげなんだけど。
「病室なのに大画面で映画鑑賞なんて、俺ぐらいじゃないか?」
「んー、探せばいると思うけどねー」
いるかなぁ……めっちゃ高画質なんだけど、これだけの設備を整えるのにいくらかかるんだろう。
「病室でプラネタリウムはさすがにいないだろ」
「んー、いると思うけどなぁ」
「マジシャンやらアイドルやら芸人やらをポンポン招くのは……」
「いるいる、珍しくもないよ」
そうなのかなぁ。金持ちって意外と、そういう無駄金使うイメージないんだけど。
「でもお前、芸人はともかくアイドルなんてよく呼んだな」
「え? 小さい事務所のアイドルだし、あれぐらい余裕だよ? 国民的アイドルを呼ぶとなったら、お金だけじゃ難しいけど」
いや、そういう意味じゃなくて……。
「ほら、その……嫉妬しそうだし」
「嫉妬? あはは、しないしない」
意外だな、俺が女性と関わるのを許してくれなさそうなもんだけど。
「慎一にとって犬とか猫感覚でしょ? 私が呼んだアイドルって」
「犬……? ああ、まあ、下心は特にわかなかったけど……」
「ふふっ、だったら無害だよ。これからもそういう子だけ呼んであげるよ」
…………………………?
「姫ちゃんって呼ばれてるアイドルがいるんだけど、その子……」
「ダメっ! 絶対ダメ! 慎一、その子の曲とかは聞いてないけど、SNSで写真だけ追いかけてるでしょ? めったに露出しない子だから、水着の写真を上げたら速攻で保存してるでしょ? で、飽きるまで使った後は画像消して証拠隠滅してるよね?」
……………………こわっ。なんでそこまで知ってるんだよ、マジで怖いんだが。
「お前、まさか監視カメラ……」
「仕掛けるわけないでしょ! 怒るよ!」
「そ、そうだよな……お前って意外と、そういうことはしないもんな……」
「当たり前でしょ? スマホとかPCは勿論、日記帳さえ読まないよ。好きな人の情報は、本人から聞くのが私のポリシーだから」
うん、知ってるよ、そういうところだけ何故かしっかりしてるもんな。基本的に倫理観が狂ってるけど、盗撮とかハッキングの類は昔からしてこないんだよ。うん、だからこそ怖いんだよ! 盗撮とかハッキングなしでその情報知ってるのヤバすぎるだろ! まるで本人から聞いたかのような言い草だけど、俺は一言もそんなこと……。
「まさか俺が知らない間に自白剤を……?」
「あんなもの創作の世界だけだよ。実在はするけどね」
「使ってないのか? 俺に」
「使うわけないでしょ、ポリシー以前に危険だし」
へぇ、自白剤って危険なんだ。っていうかどういう原理なんだろうね? 聞けば詳しく教えてくれるだろうけどリハビリで疲れてるから、心教授の講義はまたの機会にしよう。今重要なのは、俺に服用したかどうかだし。
「でも前からちょくちょく、俺しか知り得ないことを言い当ててくるし……。っていうか、俺本人でさえ知らないことも……」
「ふふっ、凄いでしょー」
いや、凄いけども!
……どうする? 追求してみるか? まさか急に『お前は知りすぎた』とか言って始末してきたりはしないだろ。
「なあ、本当に何をしたんだ? 催眠術か?」
「あはは、たしかに催眠術をかけたことがあったね。全然上手くいかなかったけど」
「え? ああ、あの時か」
五円玉を物凄い勢いで揺らしながら『告白しろー! 私に愛の言葉を囁やけー!』みたいな感じで叫んだやつね。あった、あった。
「まさかアレはフェイクで、別の日に本物の催眠術を……」
「ないない、そんな技術ないって」
俺の質問がよほどおかしかったのか、ケラケラと笑う。
……演技ではなさそうだな。ってこたぁ、俺の考えすぎ? いや、でも気のせいで済ませちゃいけないよな。
「ああ、そうそう。慎一をひいたクソカップルだけど、留置所から拘置所に移るタイミングで自決したらしいよ」
「えっ……?」
じ、自決……? 死んだってことか? なんで……。
「遺書がないから理由まではわからないけど、二人揃って死ぬなんて不思議だね。これも愛なのかな? まあ、絶対許さないけどね」
「……そっか」
よし、深入りはやめておこう。色々疑問が思い浮かんできたけど、聞いちゃいけない気がするし。




