第16話 遮光
心って不自然なほどに、俺の好みをついてくる時があるんだよな。セリフとか仕草とか服装とか、俺がどうすれば喜ぶのかを、俺以上に把握してる気がする。
これが幼馴染の力なのか? 普段から俺を観察しているから、本人さえ気付いていないクセを見抜ける的な。
なのに……。
「なあ、いつまで経っても真っ暗で何も見えないんだが……」
「うん、ドキドキするよね」
「ドキドキというか……どういう意図で部屋を真っ暗にしたんだ? 光どころか音さえないから、お互いに喋ってないと精神が狂いかねんぞ」
「ふふっ……さあ、本音を私に聞かせて? 普段言えないこと、幼馴染に対する溢れんばかりの想いを口にして? 暗いから言えるでしょ?」
なんでこう、とことん外してくるんだろうね。その気になれば俺の好感度を上げ続けることができるだろうに、なんで下げにくるんだ?
「俺の本音だぁ? 言うまでもないだろ! ここから出せっ!」
「どうして? 女の子と暗いところにいると、胸が高鳴るでしょ? 暗ければ暗いほど、良いムードになるはずでしょ?」
限度があるよ! 薄暗い雰囲気でムードが出るのはわかるけど、僅かな光も差さないのは恐怖でしかないよ! しかも不気味なほど無音だし、室温も常温だし、臭いとかも一切しないし……ここで心が無言を貫いたら、俺は発狂しちまうよ。
「目が覚めたのに真っ暗って、お前が思ってるより怖いぞ? 失明したかと思って心臓が止まりかけたよ! っていうか軽率に拉致しすぎだろ!」
「副作用や依存性の低い睡眠薬だから安心してよ」
別にそこを心配してるわけじゃ……いや、結構心配だわ。でも今は拉致問題について咎めたいんだよ。
「そういう問題じゃねえ! っていうか本当に大丈夫なのかよ、それ。お前の倫理観の次に心配だわ」
「市販薬じゃないから大丈夫だよ。私の家は、公にできない研究を多岐に渡って進めているからね」
……は? 公にできない研究とやらは気になるが、それはさておき会話が若干噛み合ってな……。あっ、まさか……。
「夢想家が開発した睡眠薬……?」
「うん、だから大丈夫だよ? 世の中には出回ってないけど、治験は完了してるよ」
どんな表情で言ってるのか定かじゃないけど、なんとなく想像はつく。ははは、これが幼馴染の絆ってヤツか。
「お前んところの科学力が凄いのは知ってるけど、それでも薬は……」
「大丈夫だよ。少なくとも慎一の体と相性がいいみたいだから」
俺の体の何を知ってるんだ、お前は。まるで俺で治験したかのような……。
「まさか前回無人島に行った時も同じ薬を? お前、なんてことを……」
「あはは、アレは一回目と言えば一回目だけど実際は………………まあ、この話は置いておこうよ」
置くな! めっちゃ気になるだろ! 実際はなんなんだよ!
「実際も何も一回目だろ? もしかして前々から俺に……」
「きゃっ!? え、えっち!」
「あっ、悪い……」
柔らか……。いや、完全に事故だし、そもそも原因はコイツにあるし、っていうかそれどころじゃないし。
「もー……暗いとエッチな雰囲気になるって本当だったんだね」
それは知らんけど、このケースに限っては違うと思うぞ。おそらくだけど、常夜灯ぐらいの暗さの話だと思うよ。仮に消灯を指すとしても、このレベルの暗さじゃないと思う。さっきから目が慣れる気配ないし、どうしたもんか……。
いやちょっと待ってくれ、もうかれこれ三十分くらいはいるよな? あまりの暗さに時間の感覚バグりつつあるけど、五分、十分ってこたぁねえだろ。
なのに、なんでまだ目が慣れないんだ? これだけ長時間いれば、ぼやっと見えてくるはずだろ? 一ルクスも光がないってこと? 遮光率やべえな。
「恥ずかしさで頭が沸騰しそうだけど、こういうのも青春って感じしない?」
「暗闇に閉じ込めて、それによる事故で胸を触ることが青春? 面白い生物だな」
「またまたぁ。女の子として意識しちゃったでしょ? 本音をぶちまけたくなったでしょ? あっ、吊り橋効果も同時に働いてたり?」
無敵の人かよ、コイツ。いいから早く出せっての。
ダメだ、本当に気が狂いそうだ。完全に光を失うと、人ってここまで不安になるんだな。というか心は平気なのか? いつでも好きなタイミングで出られるという優越感で、精神を保ってる感じ? いや、単純に無敵なんだろうな。恋する乙女は無敵って、そういうことだったんだな。
「どこで何を読んだのか知らんけど、絶対著者の想定と違うことしてるぞ」
「え? でも暗いと安心して、普段はさらけ出せない本音を吐露するって……」
そこ! その安心ってのが既に間違いなの! 俺もう不安で不安で、ふて寝する気さえ起きないんだよ。短時間ならむしろリラックスできるって聞いたことがあるが、絶対嘘だろ。一時間も経ってないだろうに、精神がおかしくなってきたぞ。
「薄明かりをつけてベッドの上で語らうことで、本心を引き出せる。多分それが著者の伝えたかったことだと思うぞ」
「そ、それはエッチすぎるでしょ! そんなの……恋人になった後のテクじゃん!」
それはそうかもしれんけど、これも大概よ? 普通の関係性じゃ許されない行為だからな? いや、俺らの関係性でも許されないんだけどさ。
っていうかいいかげんにしろよ、マジで。お前の声を頼りに殴りかかってもいいんだぞ? 許されるだろ、この状況なら。
「なあ、頼むからもう出してくれよ! ちゃんとした実験なら付き合ってやるから、今すぐ出してくれ! 言いようのない不安が込み上げてきてんだよ」
「んー……完全に孤独だと五時間もしないうちに自傷行為始めるってのは知ってたけど、私がいても早めに限界が……」
「ああ、限界だ! もう後のことを考えられないくらい不安なんだよ!」
「きゃっ!? わ、わかったから! 抱きつかないで! おかしくなっちゃう!」
俺だ! おかしくなってるのは俺だ! お前はいつだっておかしい!
いや、アレだ、本来ならもう少し耐えられる。でもそれは、後何分で出られるかを把握してる場合に限る。コイツの気分次第では、後数時間閉じ込められるかもって考えたら……急に体がムズムズしてきて……。
「はいっ! 明かりをつけるから、目をつぶって手で覆い隠して! 目を開けてるとダメージくらうよ!」
「あ、ああ……閉じた、塞いだ。さあ、頼むよ……」
うぐっ……手で覆ってるのに、結構キツいな……。よくここまでの暗闇を作り出せたものだ。
「ふー……ドキドキしたぁ……。エッチなことは苦手だけど、強引に迫られるのってドキドキするね」
なんなんだ、コイツは本当に。俺の命乞い兼脅しをどう受け取ったんだ? 肉食系男子に映ったのか?
でもよくよく考えてみると、そういうの好きでもおかしくないんだよな。だって少女漫画にしろ、胡散臭い恋愛ノウハウにしろ、そういう系の男がよく出てくるし。いや、完全に偏見なんだけどさ。
……ああ、怖かった。暗闇も怖かったし、心も怖かった。これを用意した心の両親も怖い。この前の事件といい、怖いヤツばっかじゃねえか。ここまでくると、例の死人も夢想家絡み……いや、心の中とはいえそういうことを考えるのはよくないな。
「やっぱり本番ってのは凄いよね。データから推測したとおりに事が運ぶとは限らないんだから」
「……? えっと、とりあえず帰っていい? それともどっか遊びに行く?」
「遊ぶー! やったぁ! 慎一が積極的になってくれた! 私は間違ってなかったんだね! ふふふ……私を異端扱いした学会は、近い将来天罰がくだるね」
……なんか知らんけど、楽しそうだからヨシ!




