第15話 男のサガ
金持ちってのはすげぇな、想像以上に立派な屋内プールじゃないか。そりゃまあ、ビジネスでこういうのを設けるならまあわかるんだけど、プライベート用にこんなもの所持してるヤツ中々いないぞ。ましてやこんな住宅街に……。
「お、お待たせぇ」
「おっ」
着替えを終えた心が、モジモジしながらやってきた。この手のことに関しては、本当にウブだよなぁ。
「それがこの前言ってた水着か」
「う、うん……どうかな?」
どうって……めっちゃ可愛いんだが? 特別こういう水着が好きってわけじゃないはずなんだが、妙にマッチしているというか……最適解? 心と言えばこの水着しか考えられない。なんでだろうね?
「かなり似合ってるけど、ブランド物か?」
「に、似合ってる? えへへ……。あっ、ブランド物じゃなくて、その辺で売ってるヤツだよ」
妙に妖艶だけど、それで市販品なのか。コイツがよほど魅力的なのか、よほどマッチしているのか。それとも、俺が意識してないだけで、このタイプの水着が俺の好みにドンピシャなのか?
「色々買ったんだけどこれが一番、慎一好みだよね」
「……? ああ、本当に似合ってるよ」
言い回しに若干違和感を覚えたが、似合っているのは事実なので気にしないようにしよう。いや、本当に可愛いなコイツ。
「本当はパーカーを着ようと思ったんだけど……」
「パーカー? 屋内で日焼けなんか……ああ、恥ずかしいのか?」
「いや、えっと、ほらっ」
ん? 腕? ああ、なるほど。
「それ、この前の傷か? タックルの」
「うん……。隠そうと思ったんだけど……」
あー、やっぱり女子的には傷って気になるよな。俺でさえ、風呂に入る時に見てしまう時あるし。いやまあ、俺の傷もコイツの傷も、全部コイツのせいなんだけど。
「なんで隠さなかったんだ?」
「だって……慎一はパーカーがないほうが好きだから……」
……? まあ、そうなのかな……? あんまりピンとこないけど、どっちかと言えばそうかも……?
いや、やっぱり言い回しが気になるな。『慎一のことはなんでも知ってるから!』という、いつもの根拠なき自信なんだろうけど。
「でもキズモノなんてやっぱり嫌だよね? ……嫌いになった?」
そんな潤んだ目で見るなよ、なん百歩譲っても自業自得なのに。
「傷があろうと心は心だろ。お前にとっては深刻な問題だろうから、気にするなとまでは言わん。でも俺は一切気にしないよ」
「……! し、慎一……」
なんでキュンときてるんだ? 至って普通のことしか言ってないと思うんだが。
「うう……私ばっかりドキドキさせられて……ずるい! せっかくこの日のために体を作ってきたのに!」
それは単にお前がトキメキ体質なだけでは? そもそも俺のどこが好きなんだろ。
「頑張ってて偉いな」
「うー……」
とりあえず頭を撫でてやった。心は昔から、これで大人しくなる。ほんと、基本的にはモテるタイプだし、魅力的なんだよ。基本じゃないところがヤバすぎるだけで。
「もー! 泳ぐよ! ほらっ!」
「うおっ!?」
照れ隠しのつもりなのか、俺にしがみついて自分もろともプールにダイブした。アクション映画かな?
「あ、危ないだろ!」
「えへへ、これぐらい大丈夫だって」
まったく……公共のプールだったら監視員にガチ説教されてるぞ。
しっかしコイツ、今のは恥ずかしくないのか? 水着で抱きつくって相当恥ずかしい行為だと思うんだけど。
…………思いのほか柔らかくてドキっとした自分に腹が立つ。なんやかんや言っても、俺も男なんだな。
「じゃあ泳ぐよ! 慎一の苦手な息継ぎを重点的に練習しようか! あっ、ゴーグル持ってきてあげるから待ってて」
一方的に練習メニューを決め、一方的にまくし立てて去っていった。
心がプールから上がる時、尻に目を奪われたのは内緒だ。異性として意識してないと言っても、こればかりは仕方がない。
…………俺、息継ぎが苦手なんか言ったっけ? まあ多分だけど、小学校の時の記憶かな? あの頃って、男女でプールの授業一緒だったし。




