第12話 妥協禁止
「なんか身の上話をして」
なんか知らんけど、幼馴染から弩級の無茶振りをされた。俺のこと芸人か何かだと思ってる?
いやまあ、あるよ? いっぱい身の上話あるよ? ツラい経験いっぱいあるよ?
例えばそうだな、ナイフ一本さえない状況で無人島サバイバルを強要されたり、食パン一斤を咥えた怪異に危険タックルをかまされて入院したり、NPCが全員心のVRゲームの世界にぶち込まれたり、心のASMRを十時間ぐらい聞かされ続けたり、吊り橋効果を試すという名目で吊橋生活を強いられたり……まあ、これでようやく十分の一くらいかな?
「えっと……昔さ、タバコのオモチャがあってさ……それで遊んでたら、近所のオジさんにぶん殴られた」
「わー! 可哀想! 遊んでただけなのに! 大変だったね!」
当時はともかく今となってはクソどうでもいい過去なのだが、心の心に刺さったらしく、大げさに同情してくれた。なんだろう、これ……。
「……ヤギって漢字で書くと山羊なんだけどさ、小学生の頃にヤギを漢字で書いたら同級生にバカにされた。『何それ、そんな漢字ないんだけど』とか」
「わー! 酷いっ! 自分の無知を棚に上げて人を笑うなんて! 知らないのは仕方ないにしても、まずは自分の知識を疑うところから始めるべきだよね! いくら小学生といえど、自分の知識にない物は全て間違いなんて浅はかすぎて生きてる価値がないよ! その子も、慎一も、別の意味で可哀想!」
……なんやコイツ。表情とか声色からして、本気で共感してくれてるっぽいけど、嬉しくないぞ。むしろバカにされている感があって、腹立たしいんだけど。
「他には? 他に何かある?」
まだ欲しいの? 急にこんな話振られて、ポンポン出ないっての。えーっと……。
「皆が新作のゲーム持ってる中、俺だけ二世代ぐらい前のしか持ってなくて、ハブられたりバカにされたりしたよ」
「わー、それってツラいよね! 小学生時代のコミュ力って結局、家が金持ちかどうかだもんね! あっ、別に慎一の家が貧乏ってわけじゃないよ? ただ、どんなに性格が終わっててもゲーム機持ってるだけで友達多かったり、逆に聖人でもゲーム機ないだけで友達を作る機会を損失するなんて理不尽だよね! でもそんな友情はエセだし、慎一には私がいるから気にしなくていいよ! 気を落とさないで!」
……あれ、ひょっとしてバカにされてる? あと、ちょっと偏見入ってない? まあ確かに、懐事情って友達を作る上で重要な要素だけども。
「あの、その、さっきから何? どういうプレイ?」
「え? ただ慎一のお話を聞いてるだけなんだけど、何か疑問? 私、そんなに変なことしてるかな?」
いつだって変だよ、お前は。癇に障るレベルの下手な合いの手を入れやがって。売れないキャバ嬢かよ。そういう露骨な持ち上げって、普通にバレるからな?
「……どうせアレだろ? 相手の話にひたすら共感するとモテるみたいな知識を、どこかで拾ってきたんだろ?」
「凄い! 全知全能じゃん!」
いや、誰でもわかるよ。巷に転がってる恋愛テクに振り回されすぎなんだよ、お前は。そんなお前に振り回される俺の身になってくれ。
ふう……もうそろそろ覚悟決めるか。交際するという未来からは逃げられないっぽいし、どうにか暴走を止める方向でいこう。
「あのさ、前にも言ったと思うけど……普通にしてくれないか? 俺は別にお前のこと嫌いじゃないし、奇行さえなけりゃ付き合ってもいいんだが」
ようやくだよ、ようやく。さすがの俺も、とうとう心が折れちまったよ。
「……は? 付き合ってもいい? 何それ?」
あれぇ!? バチグソにキレてねえか!? お前、俺と付き合いたいんじゃなかったのかよ?
「何って、俺と付き合いたいから暴走してたんじゃ……」
「そりゃ付き合いたいけど、それは違うでしょ? 慎一、妥協してるじゃない」
妥協って……そりゃ渋々だもの。諦めの境地まで追い込んだのはお前だぞ?
「お互いに本気で恋をした末に付き合いたいの。わかる? 付き合えればなんでもいいとか、既成事実作れば勝ちとか、外堀埋めれば勝ちとか、そういうのは求めてないの。バカにしないでくれる?」
「わ、悪い……軽率というか、失礼だったかも」
予想外にも常識的なキレ方をされたので、思わず謝罪してしまった。
俺の記憶が確かならコイツは、催眠術という外法を用いようとしてきた気がするんだが、記憶違いか? 明らかに愛とか恋と、かけ離れていると思うんだけど。
「第一ねぇ、その気になれば媚薬を飲ませたり、慎一のご両親に袖の下を渡したり、慎一のお父さんが勤めてる会社を人質にしたり、いくらでも確実且つ姑息な方法があるのよ? 今度妥協したら私、姑息になっちゃうよ?」
め、めんどくせぇ……。せっかく人が折れてやったのに、変なところをこだわりやがって。
「お前が悠長なことをしてる間に、俺が他の女子と恋に発展したらどうする? 俺は別に特別モテるってわけじゃないけど、世の中には物好きがいるかもだぜ?」
「心配ないよ。略奪愛も素敵だから」
随分と拗らせてらっしゃるな。相手を一人に絞ったうえで、恋に恋してやがるよ。
ってこたぁ、なんだ? 俺が心の底から惚れなきゃいけないのか? いや、さすがに無理だってば。だってコイツのアプローチ酷すぎるもん。性格自体は良いと思うけど、補いきれないって。
くそっ、せっかく覚悟を決めたというのに、まだ地獄のような日々が続くのか。気が重くなってきたぞ。




